ルート⑩最後の部屋
花瓶の花をどうするか:生き残った参加者に話す
ホースは最終日まで様子が変わることはなかった
鴬と違って人を殺したことを後悔していなかった
後悔することはないだろうとは思っていたが、ここまで変わらないと恐ろしささえ感じてしまう
最初から心配はしていなかったけど、当然自分を指名するなんてことはなかった
『ゲームの勝者をここに呼べ』
これ以外を言わないことは分かっているので素直に従う
「ホース様、このゲームに勝利いたしましたので、別室へご案内いたします」
「これで終わりなんだね。なんだか拍子抜けだよ」
なにかが起きることを期待していた様な言い方だ
普通は無事に終わったことを安堵する場面だ
それか、鴬の様に次のことを考えて不安になる様な、そんな場面
それなのにホースはこの態度
感情というものが壊れているのだろう
「この花瓶…」
管理人室に入るとやはり見慣れない花瓶があった
「なんとも統一性のない花たちですね」
「センスとかはよく分からないのでなんとも言えませんね。ただ…」
一凛の花に触れて、俺を見る
つい身構えてしまう
「ふふっ、なにもしませんよ」
少し愉快そうに笑う
そこは不愉快になるところだと思うのだが…
「彼らは草花を食べますよね。一体どんな味がするのかなと思って」
「食用でない草花を食べることはお勧めしません」
小さく笑うと一枚花びらをちぎって口に入れる
「うん、美味しくない」
「でしょうね。食用だってあくまで食べられるだけですから」
「嫌そうな顔をしながらも俺の言葉に反応してくれるんですね」
「では以降無視します」
『ボタンを押してそのドアから入れ』
今度は流石に驚かなかった
まるで脅かそうとしているかの様なタイミングでいきなり聞こえることはなんとなく分かっていた
ホースはなんの反応もしていないが、聞こえているかどうか態度では判別出来ない
恐らく前の2人と同じく聞こえていないだろう
「どうぞ」
「ありがとう」
ドアをくぐった先の部屋は最初に来たときとなんら変わらない
だだっ広い、ただの大きな空間
『勝利おめでとう、椎名剛』
「ありがとうございます。でもとても嬉しくないです」
『その際のお前の安全は保障する』
「それなら良いです」
ひとりで生き残ったときの達成報酬が「父親の無実の証明」だったりするのだろうか
それか「事務所の再建の手助け」とか
それならホースの態度や「あいつら」の言葉に納得がいく
『このゲームは5つの会場で同時進行されている。終焉に辿り着くまで、何度でもやり直しだ』
「それなら彼が最初に終焉に辿り着いたってことですか」
『これはひとつの正解だ。終焉はこのゲームの参加者が決める』
「このゲームの参加者はもう俺しかいません」
ちらりと俺を見る
恐らく別のゲームの存在について薄々気付いているのだろう
「今言った「このゲームの参加者」っていうのは、俺を含む5人の管理人のことだと思います」
ホースに嘘は出来るだけ吐きたくない
すぐにバレてしまう気がするし、気付かれたときにどうなるか分からない
「思うってことは、知らなかったんですか」
「察していた部分はありましたが…」
「そうですか」
言葉を濁したことに気付きながらも、なにも言わない
『やり直すか?やり直さないか?』
「やり直します」
『分かった』
「その前に他の管理人の状況を教えて下さい」
『全員5人目だ。頑張りたまえ』
状況が厳しいのは変わらない
同じ人数を攻略しているからと言って足並みが揃っているとは限らない
10日前も1人は5人目だったんだ
もうすぐ6人目、最後の人物の攻略へ行く頃なのかもしれない
マズい
「大丈夫ですか」
「マズいです。でも、俺が勝ちます」
「そうですか。応援していますよ」
「進捗状況は聞かないんですか」
「聞いたって忘れてしまうんですよね。意味のないことです。俺は信じていますよ。あなたが勝って、俺たち全員を救ってくれると」
薄気味悪いと思ってしまった
冗談で返そうとホースを見ると、妙に真剣な顔をしている
「信じるのは勝手だが、出来なくても文句を言うなよ」
本当に信じているのかは分からない
だが、そう思わせてくれる顔をしてくれている
それだけで、良い気がした
「普段はそういう話し方なんですね」
「意外か?」
小さく微笑んでなにかを言っている
だが、その声が俺に届くことはなく、俺の意識は暗闇に落ちていった
「正しい終焉」に選ぶか選ばないか:選ばない