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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
序章
2/43

1日目夜

1日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報:C

部屋にはこのホテルの地図と共に18時からの食事会の案内が置いてある

場所は東棟1階の会議室B

西棟にレストランがあるけれどそこにしなかったのは朝食と昼食で利用するから

人が殺された、殺してしまった

そんな場所で食事をする気にはなれない

夕食はルール上仕方ないから我慢してもらうしかないけど


支配人室で廊下やエレベーターの監視は出来る様になっている

誰がどこに移動したかは分かる様になっているということになるということだ

でもそれは警備上普通のホテルでも普通のことだと思う

これだけの客室があればひとりの人間をそう認識し、意識して動向に気を配りはしないだろうけど


18時少し前

全員が会議室Bへ入った

テーブルはひとつで、席には部屋番号が書いてある

恐らくホースかブルー辺りの提案で自己紹介でも始まっている頃だろう


様子を見に、いや、聞きに行くとしよう

会議室Bの前に立ち、中の会話を聞こうというだけだ

監視カメラから見ることも出来たが料理を運ぶのも俺の役割

タイミングを間違えたくない


「鴬よ」


フロントに来たときと随分声色や発音の仕方なんかが違う

多分、これが外見に似合う様に作った普段のキャラであれが本来のキャラなんだろう

不審な手紙に怯えていたが招待されたのは自分と同い年くらいに見える者ばかり

普段のキャラで行こうと決めたのだろう

いつまでそのキャラが持つか…というかこの子がゲームにおいても一番心配だ


「苺だよ。宜しくねん」


黙っていれば綺麗というタイプか

でも多分外見に似合う言動も出来る子だ

どちらが本当なのか、もう本当なんてなくしてしまったのか、それは分からない

ただ確かなのは、ゲームをかき回す存在だろうということだ


「一周したね。終わる頃には料理が運ばれて来ると思っていたんだけど、やっぱりあんな怪し気な招待状じゃ詳しく自己紹介する気になんてなれないよね。最初の俺が言わなきゃそうなるのも仕方ないよね」

「危険だと止めたのは俺だ。そう気にするな。悪かった」

「ううん。ブルーの判断は正しいと思うよ。ごめんね」


俺が発言を聞いた全員が敬語でないということは恐らく全員同学年だと確認し合ったのだろう

階ごとに向き合ってドア側から2階4階3階5階と座っているはずだから苺が最後ということはやっぱりホースが提案したんだな

階順にしなかった理由は苺とナンバーだ

なんとなく席が近い方が良いと思って急遽変更した

ただそれだけ、でもされどそれだけ、という気もする


あまり待たせてしまうのも悪い

大きく深呼吸してドアをノックした


「お待たせ致しました」


7人はきちんと指定された通りに座っていた


「…………ひとり」


料理を運んでいると意外な人物が声を上げた


「はい。当ホテルのスタッフはわたくしのみでございます。ご不便をおかけすることもあるかと思いますが、ご配慮いただけますと幸いです」


だけど良く考えれば十分に可能性のあった人物だ

こういった場所に慣れていそうではあったし、目を見て会話をするということは相手に興味や関心を持っているというサインの場合もある

もちろんそうだと知っていて利用するだけの場合もある

恐らく苺がそれだろう

ではナンバーはどうだろう

最後だけ視線を合わせたことがそれの答えなのではないだろうか


イエロー以外は全員肯定や許容の返事をしてくれる

いつどこにでもこういうヤツはいるものだ

むしろイエローがそんな返事をしたら槍でも降るんじゃないかと思ってしまう


「お気遣い感謝致します。では失礼致します」


料理を配り終えて部屋を出ると支配人室へ戻る

会議室Bだけは全員が部屋に入ってから全員が部屋を出るまで、つまり「本当にゲームが行われている間」は監視カメラが作動する様な仕組みになっている

それも恐らく「あいつ」がどこを見られるか操作しているだけだろう

本当は個人の部屋の中にも監視カメラはあるのかもしれない


食事が始まるとイエローは何故か妙に饒舌になった様だが自慢話ばかりで最初は相手にしていたホースやブルーも次第に返事の数が少なくなっていく

2人が主にウサギと鴬を巻き込んで、それに苺が茶々を入れるという様な形で会話が成立していき、イエローの話しは全員が無視を決め込んでいた

それでもイエローが話しを続けているのは何故だろう

気付いていないはずなんてないのに


考えても仕方がない

イエローはどうせ――――


食事が終わり席を立とうとする者が現れる

そのタイミングで音楽を流し館内放送をかける


『皆様、お食事はお楽しみいただけましたでしょうか』


音楽は台詞に相応しくない、不安心を煽る様な暗いがダイナミックなものにした

その音楽のおかげかは分からないが席を立とうとしていた者が居直る


『皆様にはこれよりゲームをしていただきます』


映画や小説、漫画の様な展開に7名はざわつく


『皆様には夕食時1名を指名していただき、本名を当てていただきます』


「だから本名を名乗らないでってことねん」


その通り


『指名は必ずしていただきます。今夜はデモンストレーションです。指名する際は相手をしっかり指で示しで下さい』


「ちょっと待て。指名しないとどうなる。名前を当てられなかったら、当てられたら、どうなる」

「そうだね。もう少し説明が必要だと思うな」


『それも兼ねてのデモンストレーションですので、ご参加をお願い致します』


「ふんっ、そんなわけの分からんもの俺様は参加しないぞ」


それは困る

イエローがルール違反で死んだのか、指名に成功して死んだのか、分からなくなってしまう


『OJTですよ。百聞は一見に如かずとも言います。詳しいルールはお部屋に説明書きがございますのでそちらをご覧下さい』


イエローは恐らく地頭はそんなに悪くないし、回転も遅い方ではない

これで参加してくれるはずだ

それに多分、本当に参加する気がないわけじゃない

それなら黙って参加しなければ良いだけだ


この憎めない悪役がいなくなって、得をするのは誰か

又は将来得をしそうなのは誰か

―――まぁ良い

俺には関係のないことだ


『それでは、せーの』


各々咄嗟に利き手側か正面にいる者を指して田中次郎だとか山田花子だとか適当な名前を言う

だがひとりだけは違った


「城野歩」


ひとり、右斜めの人物を指したウサギは無表情かつ平坦な声でそう言った


「ふんっ、お前が聞いていたことなど知っている。同情するぞ」

「それはこっちの台詞だよ。さようなら」

「これはお爺様が仕組んだことなのだ、きっと。そうでなくては――――っ」


そのどこまでも平坦な声のウサギと感情的なイエロー…いや、城野歩

最後まで言うことなく苦しみだし、息もまともに出来ない状態の様子だ


「幸せな…老後を、暮らせよ。たぬき、ひげ、じじ―――」


それでも途切れ途切れに言った言葉が最後まで紡がれることはなく、身体が力なく崩れ落ちる

ウサギを見ていたためかブルーの方へ倒れる


「ひっ、…い、イエロー…?」


声をかけても当然返答はない


「死んでる…のか…?」


再度訪れた映画や小説、漫画の様な展開に4名はざわつく

ざわついていない2人というのは半ば放心状態で城野歩の身体を支えているブルーとイエローを指名したウサギである


壁に文字が出る

正確には壁をスクリーンにしてプロジェクターから映しているだけなのだが、その機械は見えない様に設置してある


ホース 誕生月:1月

ブルー 好きな数字:34

ナンバー 趣味:ゲーム

苺 将来の夢:キャリアウーマン

鴬 将来の夢:ネイリスト


「殺されたくなければ殺せってことだねん」


そう簡単なことでもないのだが、平たく言えばそういうことだ

恐らくそれは全員が理解しているだろう

だがそれを今、そんな平常心で普通言えるだろうか


『デモンストレーションは以上です。お疲れ様でした。明日もお待ちしております』


放送を切る音をわざと大きめに鳴らしてこれ以上説明をする気がないことを示す

当然説明を求められるのはウサギになるだろう


「どういうことかな」

「…………手伝う」


ウサギに説明を求めるホースを無視してナンバーが城野歩の座っている椅子に触れる


「頼む」


少し椅子をずらして足を持つと肩を支えていたブルーを軸にして椅子から降ろし、その足を軸にして地面に横たわらせる


「少し汚いかもしれないが今はこれで我慢していてもらおう」

「…………続き」


ブルーに小さく頷くとホースを見て小さく言った


「ああ、そうだね。ウサギ、説明をしてもらえるかな」

「私は私の役割を果たしただけだよ」

「なにが起きるか知っていたとでも言うのか」

「知らなかったよ。でもチェックインの時間が17時10分って指定されていて、着いたらイエローがフロントで文句を言っていた。そのとき本名を自分で言ったの」

「なんで指名したんだ!どうなるか分からなかったんだぞ!」


無表情を崩さず平坦な声で言い続けるウサギに痺れを切らしたブルーが憤怒する

当然と言えば当然だ

逆にどうして他の4人は黙って聞いているのだろう


「指名されるのも指名するのも誰でも良かったのなら、時間の指定なんてしないはずだよね。だから私には「指名したらなにが起こるのか参加者に分からせる役割」があると思った。それだけだよ。まさか殺されるとは思わなかったな」


ブルーの憤怒した声を聞いて、表情を見ても、ウサギの態度は変わらなかった

人を殺したことを心底なんとも思っていないのか、実感がないだけなのか


「確かにウチは14時から16時だったよん。他の4人もそうなんじゃないのかなん?」

「チェックインの時間だね。俺もそうだよ」

「俺もだ」

「アタシもよ」

「…………同じ。……ウサギ、ゲームの鍵」


ウサギに視線が集まる


「これは壮大な死亡フラグだね。困ったなぁ」

「そう思っているようにはとても思えないがな」

「情報が少ない現時点で私が主催者側だと疑うのは当然だよ。だからルールの確認をしよう」

「それは賛成ー。少ない情報で敵味方の判別をするのは危険過ぎるからねん」

「…………全員、敵、十分、ある」


苺の全員を舐め回す様な視線を補足する様にナンバーが呟く

恐らく全員、全員が敵であることは分かっている

ただ、味方になれる可能性を捨てるには早い


「ま、待って。ここから逃げ出す方法とかゲームに参加しないで済む方法とか、考えようとかならないの」

「それにもまずルールの確認は不可欠だよ。もしホテルの敷地から出たら駄目だってルールがあるなら、少なくとも馬鹿正直に真正面から出るわけにはいかないからね」


そう、こうなってしまった以上、このゲームのルールに従うことは当たり前

名前を当てられたら死ぬと分かった今、ルールを破った者がどうなるのか分からないはずはなかった

それでも「少なくとも」と言ったのはホースなりの優しさだろう


ここで優しさや余裕を見せておけば後で頼って来る者があるかもしれない

もしそう考えてのことなら随分と計算高い

けれどそれは逆のことも言える

そう思われてしまえば警戒心が強まる


ゲームに関わりたくない姿勢を最初に見せればそれを利用しようと近づく者があるかもしれない

逆にそれを利用するのも手ではある


言動をどの様にでも取れるのが現状で、なにかを判断するには材料がなにもない

それだけは確かなことだった


「ナンバー、イエローを部屋に運ぶぞ。あと、俺はルールの確認をして寝る。部屋を出ない」

「俺も手伝うよ。それから、後半部分にも賛成するよ。みんな混乱しているだろうし、今夜はゆっくり休もう」

「…………ウサギ」

「ただでさえ疑われているんだから不用意なことはしないよ」


ナンバーは賛成という意味で言ったんだろうがここで明言しなくて大丈夫だろうか

残りの2人がなにも言わなければ賛成多数と全員が認識するんだろうが…


「もしウチと鴬が反対しても賛成多数だから意味ないねん」

「決まったことに異論を唱えるつもりはないけど、もう少し話し合わなくて大丈夫なのかしら」

「それは明日の朝でも大丈夫だよ。ね?」


ホースが全員を見渡すが誰も返事はしない

ルールの確認をしていない現状で他者と接触する約束をするのは避けたいのだろう

随分と用心深いメンバーだ


「ここで時間と場所だけ決めて参加する人だけ集合っていうのはどうかな」


助け船を出したのは意外にもウサギ

印象の悪さを回復しようとしているのだろうか


「じゃあ明日の10時隣の会議室Aでどうかな」

「心に留めておく」


城野歩の両脇を持つポジションを確認しながらぶっきらぼうに告げるブルーを見てナンバーは少し慌てた様子で駆け寄ると足を軽く持ち上げる


「ウチもルール次第かなん」

「提案した私が言うのもなんだけど、私もそれ」


出て行こうとする2人のためにホースが扉を開ける

出て行く間際聞こえた声はナンバーのものだろう


「…………僕も」


残された女子3人はしばらく無言で席に座っていた

なにを考えているのか


「じゃあそういうことでー」


突然席を立った苺がひらひらと手を振って出て行く

それを見送ったウサギはちらりとイエローが座っていた椅子を見てから鴬を見る


「会えたら、明日の朝また」

「ええ…」


残された鴬は少しの間、茫然と城野歩の座っていた椅子を眺めてから部屋を出た

全員が部屋を出たことで会議室Bの画面が暗くなる

2日目昼誰に会いに行くか

鴬 苺 ホース

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