ルート⑩4日目夜
4名が会議室Bの指定された席に座る
ブルーは鴬を睨みつけている
鴬は俯いて落ち着かなさそうに手を動かしている
ホースはそんな鴬に微笑んでいる
ウサギはいつもと変わらない様に見えて、少し楽しそうだ
「鴬。分かっているとは思うが、俺はお前を指名しない。ウサギに教えてもいない」
「当たり前よ。そういう約束だわ」
「だが、分かっているか」
ブルーの真剣で重い声が室内に響き渡る
「なによ」
「お前はホースに指名されるかもしれない」
「そんなはずないわ。ホースにはアタシを指名する理由なんてないもの。そうよね、ホース」
「守ると言ってくれた鴬を裏切る様なことはしないよ」
「ほら!」
ウサギがため息を吐き、ブルーがなんとか堪える
「お花畑なんだ。結局鴬はどっちにするの」
「どういう意味よ」
「俺を信じるならホースを指名。ホースを信じるなら俺を指名。そうしないと後々厄介なことになると思わないか」
会話の内容が変わらない?
どうしてだ
鴬がブルー、ホースが鴬、ブルーがウサギを指名すればホースがひとりで生き残ることになる
分かっているはずなのに、どうして変わらないんだ
ブルーにはウサギを指名する気がないのか?
それとも2人で生き残ろうとしているのか?
「なによそれ。いい加減なこと言わないで!」
「ホースは今「指名する理由がない」という鴬の問いかけに明確に答えなかった。それが答えだと、私は思う」
「いい加減なことを言わないでってさっきから言ってるでしょ!指名しないって言ったようなものじゃないのよ!」
鴬がこうも感情的なのは本当は分かっているからなのだろう
ブルーとウサギにわざわざ指摘されなくても、分かっていたのだろう
ここでは信じる者が弱くなりがちだ
「お前なぁ…その「言ったようなもの」っていうのが問題なんだって気付けよ。昨日俺とウサギ、それに鴬自身がやったことと同じだ」
「そんな惑わせるようなこと言ったってアンタらにホースの名前を教えたりしないわよ!」
「ああ、その必要はない」
ホースが若干顔を歪める
何度も言っていることを今度こそ明確に言葉にされるんだ、心中穏やかではないだろう
「お前がホースを指名するんだ」
「人を殺してでも失いたくないものがあるってことは帰りたいってことでもある。今ここでどっちを指名するかで、運命は変わるよ」
「うるさい!」
俯いて耳を塞いだ鴬が少ししてから顔を上げる
それと同時にブルーを指した
わざとらしく大きく息を吸ったのを合図に残りの3人が一斉に誰かを指す
「金井茉莉」
「綾辻信元」
「厚地加奈」
ブルーと鴬、そしてウサギが苦しみだす
「ありがとう」
「またな、茉莉」
「うん、あやちゃん」
ふわりと微笑むと机に突っ伏せて息絶える
「どうしてよ…」
そう言った鴬が見ていたのはホースではなくやはりブルーだった
だが、俺も同じ気持ちだ
鴬が自分を指名しないと分かったのなら、ウサギを指名する必要なんてないはずだ
「約束、だろ。ちーちゃん」
「やっぱり、馬鹿だった…のね。のぶちゃん」
動かなくなった3人をホースは冷めた目で見ていた
「俺はこの結果にすごく満足しているよ」
大きく肩を震わせて笑う
「ブルーはわざわざ鴬に俺かブルーかの2択を迫った。それはウサギから注意を逸らすためだよ」
そんなことは分かっている
だが、ブルーがウサギを指名する必要なんてない
だって、鴬はウサギではなく自分を指名することを選んだんだから
「俺はウサギを本名で指名出来ない。ブルーはそれを分かっていた。自分のいない世界で夢と希望を失ったウサギのことを考えたんだよ」
夢は一緒に店を出すこと
希望は…綾辻信元に殺されること?
「だからウサギが願った通り自分が殺した。ブルーは知っていたんだ。ウサギが自分が殺された世界で生きていたって、病院のベッドで管まみれになって寝ていることと変わらないと考えていることを」
それなら離れている間、金井茉莉はどうやって生きてきたのか
「ウサギはブルーがそこまで気付いているって気付いていなかったのかな」
だろうな
だから囮にしたし、守ると約束をさせた
「きっとそうだよね。だって、そうじゃなかったらお礼なんて言わないよ」
どういう意味だ
「だって、ブルーはウサギのいない世界で生きることを望んでいないんだから」
だが、ウサギがお礼を言ったのはブルーが死ぬと分かったあとだ
一体なにを言っているのか分からない
「ウサギは分かっていなかったんだ。殺されることを望むことの罪深さを、全くね」
まさか
「彼女は俺に殺されることを望んだ。最後にキスをして、殺してくれって言ったんだよ。でも俺は彼女を殺さなかった。殺せなかったんじゃない。殺さなかったんだ」
鴬が受け取った手紙の内容は詐欺関連ではなく、ホースの彼女の死関連のものだったのか
「そしたら自殺したんだよ。だったら最初からそうすれば良かったんだ。俺宛の手紙には一言お礼が書いてあったよ。全く滑稽だよ。自分が利用されたことにも気付けないなんて」
最初からAVに出演させるつもりで近づいたとでも言うのか
「ああ、勘違いしないでほしいんだけど、グラビアアイドルだと思っていたのもモデルという夢を応援していたのも本当だよ。だけど詐欺を仕組んだのは俺だ。汚名を被るのは父、儲けるのは俺。ノーリスクハイリターンなギャンブルなんだ」
楽しそうに肩を揺らして笑う
「AVだと知ったときは本当に驚いたよ。処女にまともなAVが撮れるはずがないからね。でもテーマを聞いて納得してしまったよ」
こいつ、正気か
仮にも自分の彼女で、しかも夢を応援していたんだろ
「当たれば彼女が本当にレイプされることは想像出来た。でも折角の計画をそれだけで台無しに出来るほど、俺は彼女を好きじゃなかったんだ。可哀想だと思うほどには好きだったけどね」
それだけって…頭おかしいのか
「彼女の望みを俺は叶えられなかった。殺されることを望む彼女のことを好きでいられるはずがなかったんだ。心で泣きながら俺の前では笑顔でいる彼女が、俺はとても好きだったんだよ」
狂っている
このゲームの参加者は全員どこかおかしいとは思っていた
だが、最初にこのゲームの良心だと思っていたホースがここまで狂っているとは思わなかった
「泣いた彼女に俺は別れようと言ったんだ。そしたら彼女は仕事以外で他の男とセックスしたことを怒っているんだと思ったみたいでね、無理にキスをしてきた。本当に気持ち悪かったよ」
どれだけ人を侮辱すれば気が済むんだ
最低なんて言葉では収まらない
「突き飛ばした俺に彼女は笑顔で謝ったんだ。だから願いに近いことを最後にひとつだけ、してあげることにしたんだよ」
心で泣きながら自分の前では笑顔でいる彼女がとても好きだった
だから、ショックなことがあった直後、対象である自分に向かって笑顔を見せた彼女に好感を持った
そういうことか
「それはね、キスじゃないよ。だって、それはもうしてしまったし、俺はしたくないからね」
扉に向かって歩き出し、出る直前で立ち止まる
「飛び降りるのを見届けたんだ」
言い終えた瞬間ホースが一歩踏み出し、画面が暗くなる
エレベーターに乗り込んだホースの口角は僅かに上がっている
こいつが「正しい終焉」であってたまるか
花瓶の花をどうするか
・そのままにする
・生き残った参加者に話す