ルート⑩3日目夜
6名が会議室Bの指定された席に座る
「……ひとつ」
全員がナンバーを見て、続きを促す
「……昨日、嘘、吐いた。……僕の、方針「最終日、6人、生きてたら、誰か、殺す」……嘘」
「それじゃあ本当の方針はどんな方針なんだろう」
「……守りたい人、3人、いる。……その人が、守りたい人、いる」
ホースを指さす
「お前を殺す。お前以外で生き残る」
流れが変わらなかったことにほっとする
だが、このあとの流れが分かっているだけに、心が痛い
「面白いね」
自分と自分以外の5人という対立になりそうにも関わらずホースは笑みを浮かべている
出来はしないと高を括っているのか、余裕を演出しているのか、本当に楽しんでいるのか
最初はどれなのか分からなかった
だが、今ならなんとなく分かる
全てだ
このゲームで裏切りが起きないはずはない
だからこそ、最初に「全員で生き残る」という提案をした
ホースなら本当に考えそうだと思っていたが、ここまで来ればそうは思えない
鴬が詐欺について知っていることを知っている
だから、ここで鴬が自分の味方にならないはずがないと思っている
「でもみんな信じてくれるかな」
「ウチは信じる」
ナンバーがほっとした表情を見せる
「私も」
「俺も」
俺はこのとき気付くべきだった
ウサギがブルーより先に発言している不自然さに
2人の間に目配せがあったために少し間が空いたことに
気付くべきだった
「待って。アタシ、そんな…」
当然鴬は戸惑う
自分が「守りたい人の守りたい人」だと言われている様なものだ
このとき鴬は知らないことがある
心当たりがあったとして、ケーキ屋の子供のはずだ
事実鴬はブルーを見ている
「鴬、お前に不利なことはなにもない。それに、必ず俺が守る」
「信じられない」
前はこの時点でブルーは鴬を全く特定出来ていないはずだと思っていた
だからこの台詞をファインプレーだと思ったが、実際は何択かにはなっていた様だ
それに、良く考えれば実家がケーキ屋という情報が出ていて、自分を見ているのだから店の常連だと考えるのが普通だろう
「それにアタシは守られたいわけじゃないわ。世間に見捨てられた彼をここでもそんな状況にするわけにはいかないのよ。彼はアタシが守る」
「ありがとう…」
「お礼なんていらないわ。これは罪滅ぼしでもあるんだから」
鴬の協力なしにホースを本名で指名することは出来ない
ホースのことだ、鴬が分かっているブルー、そこから連想される苺を本名で指名させないはずがない
ウサギについては本名で指名することは出来ないが、それを本人が知らなければどうしよもない
数は多いが情報がないグループと、数は少ないが情報が多いグループ
どちらが勝つかは明白だろう
ただし、それはホースが鴬を裏切らない場合に限る
「……鴬、本当に、大丈夫。……ホースが、裏切る、可能性、考えた」
この言葉は前にはなかった
恐らく2日目の夕食会でウサギと対立していたことと、少し様子がおかしかったことが影響しているのだろう
「そんなことはあり得ないわ」
「……ホース、信じる。……ブルー、僕、信じない?」
「ナンバーのことは信じるわ。守りたい人が守りたい人だから守りたい。ここでそんなことを言える強いあなたのことを信じるわ。でも、ブルーは信じられない。だからそっちには行かないわ」
「……守りたい人が、守りたい人が、守りたい人…?」
「身動きが取れなくなったね」
「……別に。……最初の方針、全くの嘘、違う」
その発言はマズいぞ
仲間を殺すことを良しとしてしまっている
「そっか。じゃあその3人の中から誰か切り捨てるんだね。それか鴬かな」
「……言う必要、ない」
「でもウサギは少し警戒しているみたいだよ」
「ごめん。私はちょっと…」
声にわざとらしく怯えの色を混ぜて、目を伏せる
「ナンバー、こいつを本名で指名する気なんだな。それなら俺はお前を本名で指名する」
「……ホース、乗せられてる」
「黙れ。もうお前を信じることなんて出来ない」
「…………分かった」
しょぼんとした様子で俯くとなにも言わなくなる
これで指名する理由が出来てしまった
誰もなにも言わなくなったので料理を運ぶことにしよう
「皆様…空気が殺伐としておりますが、どうかなさいましたか」
「殺し合う6人が揃えば殺伐とするだろ」
料理を配り終えておずおずといった様子を装って言ってみる
すると誰もなにも言わないからか、ため息を吐いてブルーが言った
参加者の会話が違っても自分の言動は出来る限り変えない
後に自分の言動が原因で起きたことが起こらない場合、その逆もある
ここで指名の成功者が変わるのはかなり問題だ
「失礼しました」
そう言って一礼して部屋を出ようとするが誰もなにも言わない
「掛け声は俺がしようか」
「自信があるんだな」
「うん、俺は鴬のことを信じているからね」
ふんっと鼻を鳴らして顔を逸らす
「せーの」
前と変わらずブルーがナンバー、ウサギが苺、鴬がウサギを指名している
意外だったのは、苺とナンバーが鴬を指名していることだ
排除するならホースだろう
「安藤希和」
「安藤希和」
「南京太郎」
鴬がウサギを指名した理由は分かっている
犬猫論争だ
3人でされた犬猫論争で鴬は犬派と猫派がいたこと、自分が鳥だと言ったことしか覚えていなかった
だから好きな動物が猫だとはっきりしているウサギを指名した
それなら辻褄が合う
「なんでよ!」
「覚え間違いか推理違いだ。残念だったな」
「そこじゃないわよ!」
「じゃあなんだ」
「確かにナンバーはウサギを本名で指名したかもしれない。だけどそれは最終日の話しのはずだわ。それにどうして苺まで」
自然と苺を指名したウサギに視線が集まる
「苺に協力を持ち掛けられて断ったんだけど、そしたら本名で指名するって。だから」
「協力の内容はどんなものだったのかな」
「ブルーを指名しようって。ナンバーは自分が言えば大丈夫だから、ブルーに犠牲になってもらおうって」
「嘘を吐くならもう少しマシな嘘を吐いてくれないかしら。アンタの言った守りたい人ってブルーでしょ」
「そうなんだけど、苺はホースだと思ったみたい。あ、詳しい理由は聞いてないから」
死人に口なしというのはこういうことだな
「うん、一先ずウサギと苺についてはそれで良いことにしよう。ブルーはどうしてこのタイミングでナンバーを本名で指名したのかな」
「もし、話し合おうとして今日指名しなかったとする。そして話し合いや説得に失敗した場合、明日の夕食会で互いに指名することになるだろう」
「話しの内容によっては避けられないかもしれないね」
「互いに指名が成功した場合や3人が右回りで指名し、各々成功した場合どうなるのか、分かっていない。説得に成功しそうなプランもなかったし、リスキーだ」
「確かにそうだね」
たまにホースがする、他人の意見を上から評価する様な姿勢はなんなんだ
恐らくブルーはこれにイライラしている
「こうなったら協力とか殺人とかそんなことを言っている場合じゃない」
「ブルー」
「良いから黙って聞いてろ」
弱弱しくブルーの腕を掴んだウサギの手を優しく離させる
ブルーの独断だという印象付けだろう
だが、恐らくホースには意味のないことだ
「鴬とホースは既に互いを分かっているはずだ。俺とウサギ、苺とナンバーのようにな。早い者勝ちだ」
「それは2人の仲間になれば2人から指名されないってことかな」
「ああ、鴬はもう特定出来ている。ホースも時間の問題だ」
「俺は全員が全員のことを指名出来るとは思わないよ」
鴬がホースのことをちらりと見る
ホースは微笑みを返すだけだ
「その可能性はある。だが俺が鴬を特定出来ているのは本当だ。どうする、鴬。なにもしなければホースの仲間ということになって、明日お前は俺に殺される」
「……分かったわ。だけど条件があるのよ。当然聞いてくれるわよね」
ブルーの言葉で流れが戻ったときからこうなることは分かっていた
だが、やっぱりという残念感を拭うことは出来ない
「ああ、聞く」
「まっ」
「絶対にアタシを指名しないこと。それと、アタシにホースの本名を聞かないで」
「っ、分かった」
「鴬…?」
「これで、4人で帰れるわ」
「あ…、ありがとう、鴬。でも…」
今気付いた、と言わんばかりの反応に白々しさを覚える
この言葉の先はブルーとウサギが自分を指名出来る可能性についてだ
だがホースはブルーとウサギと接点がないことに気付いている
わざわざする必要のないことをする理由が俺にはまだ見つからない
「あ、ごめん。アタシとホースを指名しない、にすれば良かったんだわ」
「ううん、良いんだ。俺のために動いてくれたことがすごく嬉しいよ。ありがとう」
作戦に失敗した2人はというと、微笑み合う2人に冷たい視線を送ると情報が映し出されている画面を見て部屋を出て行った
「割と特徴的な情報ね。本当に大丈夫かしら」
ホース 将来の夢:ジョッキー
鴬 好きな食べ物:抹茶
「そう思うのは鴬が俺を分かっているからだよ。きっと大丈夫だから。部屋に戻ろう」
「分かったわ」
監視カメラの映像が暗くなり、音声がなくなる
4日目昼誰に会いに行くか
ブルー