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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑩
16/43

ルート⑩3日目昼

3日目昼会いに行く人物:ナンバー

鴬はホースに気付いただろうか

恐らくしばらく本名で指名することはないだろう

問題はナンバーだ


俺は今回、この流れのナンバーが言ったことが自分の記憶と正しいが確認したかった

少々不自然でも踏み込んだ質問もしようと思っていた

だが、2日目の夕食会で感情的な部分を見せる人物が多かった

ナンバーとああして話せる理由は「全員が自然過ぎて怖い」だから、雲行きは怪しい


そしてウサギも問題だ

ナンバーは「最終日に6人生き残っていたら」と言ったが、実際考えていることはウサギが言ったことと同じ一緒だ

もしウサギがナンバーと苺とブルーの本名を思い出してるという考えが合っているのなら、「守りたい人がいる」と言うことでブルーの信頼を得ようとしていることは間違いない

ウサギがその文言をブルーに言ってしまえば、明日に俺がしようとしている作戦の成功率は間違いなく下がる


聞きに行きたいところではあるが、当初の予定を止めてまで聞く必要はない

どうせ夕食会で説明を求められて粗方本当のことを言う

ウサギは出来るだけ嘘を少なくしたいという考えのタイプだからだ

やはり今日はナンバーに会いに行く


「っ!」


内線だ

ナンバーか?

あの展開でもまだ怖いと言うのだろうか


「…………白米、みそ汁、沢庵」

「かしこまりました。15分程でお持ち致します」


レストランに用意してあるものを盛り付けるだけだが、念のため少し時間をとっておこう

誰かと鉢合わせてはまずい


前のときはそう思って15分と言った

鉢合わせる心配がないと分かっても変える必要のない発言は出来るだけ変えたくない

だから15分

冷めてしまわないよう遅く行こうかと思ったが、料理の温かさがなにに影響するか分からない

同じタイミングで行こう


「ナンバー様、お食事をお持ちいたしました」


ノックをして声をかけるとすぐにドアが開く

やはりすぐ近くで待っていたのだろう

参加者に不安を言えるはずはないから俺、というのも勇者ではある

だが、誰にも分ってもらえなくても良いと思っていたのに、幼少期の理解者が突然目の前に現れれば気持ちが揺らぐのも分からなくはない


「…………中まで」

「はい」


ドアを大きく開けて持っていてくれる

そういえば2日目にブルーと会っていないから「お客様は平等」という発言はしていないし、夕食会でも当然その話しはなかった

俺に言って、俺が誰にも言わないという保証はない

今回はどういう理由を元に俺を呼んだのか


「…………鴬、なにか言った」


ここで鴬が出てくるか

もうシンパシーを感じているのか


「鴬様がわたくしに、ですか?わたくしが鴬様に、ですか?」

「…………後者」

「昨日偶然レストランで会って少しお話しさせていただきましたが、特に変わったことは言っておりません。しかし、どうしてその様なことをお聞きになるのですか?」

「…………苺、最初、発言、瞬間、表情、変わった」


苺に注目が集まるだろうと思っていたし、ナンバーは苺を見ているものだと思っていた

どうしてナンバーは鴬を見ていたんだ


「そうでしたか。ですが、それだけでわたくしが鴬様になにか申したと考えられるのは、随分と飛躍している様に思います」

「…………ホース、鴬、見てた。……ブルー、苺、見てた。……苺、知ってた。……僕、違う。……ウサギ…は、意味、ない。……残り」


ホースは積極的に発言をした鴬を訝し気に見ていたから違う

ブルーは苺を訝し気に見ていたから違う

苺だったら発言をすることを知っていたはずだから違う

自分ではない

ウサギが行動する意味が見当たらない

だから残った俺がなにか言ったのでは、ということか


「…鴬に、なにを言った」


キッと睨まれる

この少年が怯えているのだと思うと、可愛らしい

だが、同時に恐ろしい

こんなにも悟られずに行動出来るのが、恐ろしい


言えることは、ここでこのままナンバーの話しに乗るのは良くないということだ

なんとか前と近い展開に持って行かなくては…

だが最悪、ナンバーが変な行動を起こさなければ良い

なんせ俺がナンバーを3日目に選んだ理由は自分の記憶が正しいか確かめるためだ

気持ちというものに違いがある以上、事実に基づいた話し以外に齟齬があってもおかしくない

それに事実に基づいた話しだって、ナンバーが話す事実に基づいた話しなんだから、解釈が違ってくるかもしれない

これでは俺の記憶が正しいかどうかの証明など出来ない

それなら少々不自然でも踏み込んだ質問をしよう


「強がらなくても良いんです」


ナンバーをぎゅっと抱きしめる


「…なっ」

「震えています。本当は怖くて怖くて仕方がないんじゃないですか」

「…………どうして」

「なんとなく、です。自分を守れるかすら分からないこの状況で誰かを守りたいと思う気持ちは素晴らしいものだと思います」


ナンバーの質問が仮に「どうしてそんなことを言うのか」だったとしても、そうだと分かる材料は本来俺にはない

だからなんの質問に答えたのか明確に分かればナンバーはなにも言わないはずだ


「…………うん、守りたい。……でも、どうしたら良いか、分からない」

「泣いているのですか」

「……泣いて、ない」


こんなところに来て、こんなことになって、こんなヤツ相手でも、父親の言いつけを守るのか

それはどうしてだ


「……どうして、僕から、彼女を奪った。どうして、僕らから、あの店を奪った」

「鴬様とブルー様を守りたいのですね」


違うのは分かっていても、今はそう言うしかない

黙っていれば勝手に話すという話しでもないだろう


「……違う。違う。違うっ。鴬なんてどうでも良い。でも…」

「そうでしたか。ではウサギ様でしょうか」


勢い良く俺を突き飛ばす

息が少し荒いから、怒っているのかもしれない

だが、それで良い

俺は今日の夕食会で起こることも正解も知っている

だから情報を引き出すだけなら関係は良好でなくても構わない


「嫌いだ。嫌いだっ。あの笑顔は僕だけのものだったのに」


自分だけに本当の笑顔を向けてくれていた相手が、他の人物に同じ笑顔を向ける

それがどれほど重要なことなのか、俺には分からない

だが、ナンバーにとってそれは、その人物を嫌うには十分過ぎる理由だったのだろう

なにしろ自分を理解してくれる数少ない友人なのだから


だが、そんなウサギですらナンバーは守ろうとする

殺したときも憂いていた

ナンバーにとってウサギは間違いなく大切な存在だった

嫌いと大切は違うのだと、感心してしまう


「僕は僕として生きたかっただけ。政治家っていう肩書だけを持って死ぬなんて、嫌だ。…絶対に、嫌だ。なのにどうして僕なんだ」

「なにが…でしょうか」

「父さんは僕を跡取りに選んだ」


政治家の跡取りということは地盤を継ぐ、という様なことだろうか

確か兄がいたはずだが、どうして次男に?

離婚だの愛人だので複雑だと言っていたことが関係しているのだろうか


「元々家でひとりだった僕は、外でもひとりになった」


誰とどこにいてもひとりだと感じることはある

そういうことなのだろう

家庭は不仲だと言っていたから実際にひとりだったのだろう


「家族と折り合いがつかないということはナンバー様が特段優しいのでしょうね。守るべきものがある者はそれが弱点になるから弱い、と聞いたことがあります」

「あなたも僕を弱いと思う?」

「いいえ。どんなに離れても守りたいという気持ちを捨てなかったあなたは、十分強いと思います」

「っ…ありがっとう」


泣きだしてしまったナンバーを再度抱きしめ、背中を優しく同じリズムで叩く


「……もう大丈夫。……ありがとう」


身体をそっと離すと照れた様に小さく微笑んだ

それに対して俺も微笑むと小さく首を横に振った


「ナンバー様、これを言うためにルームサービスを頼まれたのですか」

「……それも、ある。…でも、みんなに、会うのが、怖くて」


鴬だけだったのが全員に変わったのは、ホース以外の全員が人を殺す意志があることを言ったからだろう

そして、ホースは冷静に話しをしていて、余裕の笑顔まで見せている

だが、それを言うならナンバーだって同じだ

とても怖がっている様には見えない


「怖い…ですか」

「……夕食会で、話し合い、した。……この状況で、あれだけ冷静なのは、怖い」


それは自分もだからね


「ナンバー様も随分冷静に見えます」

「……僕は、言葉が、少ないだけ。……話すと、声が、震えそう」

「そうでしたか。でも僕を問い詰めるときにも声は震えていませんでしたよ」

「……本当?」

「――はい」


少し勢い良く顔を上げたせいで前髪から瞳が覗いた

オッドアイだ

左目が綺麗な緑、右目が日本人に良くある黒だか茶色だかよく分からない色

前髪が分かれていることに気付いたのか、慌てて俯く


「―――この瞳が嫌いなんだね」

「……なんで泣いてるの」

「秘密、ですよ。一応管理人としての威厳的なものを少しは保っておきたいので」

「……うん、秘密」


小さくふわりと微笑んだ

自分だけ、というのに特別感を得る

思った通りだ


「ねぇ、よく曲とか物語とかで「自分を好きにならなくちゃ他人を好きになることなんて出来ない」ってあるの、知ってる?」

「…………うん」

「あれって本当なのかな」

「…………どういう、意味」


少し警戒されている

砕けた口調で話し過ぎたというわけではなく、藪蛇たったからだろう


「きみが瞳のこと以外でも自分を好きになれないことは、なんとなくだけど分かるよ。僕も自分が嫌いだからね。でも、僕には好きな人がいるんだ。きみと同じ様にね」

「…………それで」


ナンバーを抱き寄せる


「良いんだ。自分のことなんか好きにならなくて。自分のことなんか許せなくたって。それでも、人を好きになって良いんだ」

「…………自分に、言ってる?」

「言葉にしたのは初めてだから、それもあるだろうね。でも、きみにも知ってほしかったんだ」

「…………覚えとく。……ありがとう。……泣かないで」


そっと俺の涙を拭ったナンバーは優しく微笑んでいた

*管理人とナンバーが3日目の昼に会話をしたのは「ナスタチウムの決意」の「ルート⑤」

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