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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑩
14/43

ルート⑩2日目昼

1日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報をどれにするか

A B C → B


2日目昼誰に会いに行くか

ブルー ナンバー 鴬 →鴬

ウサギ、鴬のひとり生き残りエンディングは回収した

今俺のカウントは3人目だろう

一度でクリアしたとしても、10日は必ず必要だ

2人の差は大きい

それに、ルートが見えていない段階なのか、日数を消化するだけなのか、それだけでも違う


俺について言えば、今回もやることは決まっている

ただ、ルートを大きく変えなくてはいけないため、少々の不安はある


ホース 家族構成:父、母、姉、弟

ブルー 好きな食べ物:チーズケーキ

ナンバー 実家:政治家一家

苺 好きな食べ物:ホットケーキ

鴬 趣味:お洒落


これが1日目の夕食会後に指名失敗ペナルティとして開示された情報だ


改めて考えると、ウサギはこのとき既にナンバーと苺とブルーの本名を思い出していた可能性が高い

であればどうしてすぐに動き出さなかったのか

答えは明白だ

ナンバーか苺の決め手になる情報か、協力者にするブルーの決め手になる情報が開示されるのを待っていた


ナンバーか苺の決め手になる情報があれば、交渉しやすい

ブルーの決め手になる情報があれば、ブルーに危機感を募らせる様なことを言って、本名で指名させる成功率が上がる

あまり性格の良いやり方だとは言えないが、ゲームの性質上仕方がないのだろう


あの流れになってしまえば、止めることは恐らく不可能だ

ブルーはウサギを信じているし、守ろうとしている

更に言えば、「大好き」だ

それが恋愛なのか、人間愛的なものなのか、夢を語り合った同士だと思っているのか、良く分からない

だが、ブルーにとってウサギは自分の命よりも大切なモノであることに間違いはない


それを利用するルートを再度やるのは抵抗もあるが、彼がひとりで生き残る道はこれしか分からない

仕方がないんだ

そう、これは仕方のないことなんだ


参加者が苦しい思いをするのは、ほんの少しの時間だ

でも俺は自分がしたことを覚えていて、悪いと思っていることも、救いたいという気持ちも、それが出来ない悔しさや無力感も

全部、全部、覚えている

知らず知らずの内に苦しい体験を何度もするのと、少しだけ苦しい時間を長く過ごすこと、どちらが苦しいかは分からない

だけど、俺にとってここは地獄だ


早く抜け出したい

早く、早く、早く、早く、帰りたい


「―――なんで…」


俺のことなんて守ったんだ

弱くて、良いところなんてなくて、逃げて言い訳ばかりしている俺を


「どうしたんですか」

「わっ!」


すぐ横に立つ鴬が心配そうに顔を覗き込んでいた

いつの間にレストランに入って来ていたんだ…全然気付かなかった


「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですけど」

「いえ…失礼しました」

「謝らないで下さい。急に声をかけたアタシが悪いんです。だけど…」


一度視線を逸らして言い辛そうにしてから再度俺をしっかり見た


「思い詰めて考え事をしてたみたいですけど、大丈夫ですか」

「お気遣いいただきありがとうございます。大丈夫です」

「そういうのじゃなくて…!」


鴬のキャラ…いや、厚地加奈という人物を知っていれば、なにが言いたいのかは分かる


「あなただってこんなこと望んでないんですよね」

「望んでいるかと問われれば、答えは「ノー」です。ですが、これはわたくしの意志で進めていることです」

「どうしてですか」


どうして…か、確かにそうだ

最初はこのゲームをすることを嫌だと思っていたはずなのに、どうして今はまるでノベルゲームをやるような気持ちでいるんだろう


「罪を償う方法を探すため――でしょうか」

「罪…ですか。それも、「償うため」ではなく「償う方法を探すため」に」


鴬には効く言い方だと思って言ったが、プランは全くない


「このゲームが終われば探しに行けるんですか」


正直なところ、それも分からない

だけど、それを言うべきでないことは分かる


「僕はこのゲームの中で見つけられると思っています」

「だから進めているんですか」


肯定も否定もせず小さく微笑む


「分かりました」

「なにが…でしょうか」

「あなたがアタシたちを殺そうとしてるって。あなたが過去に人を殺したことがあるって。アタシたちはどうしても、殺し合いをしなくちゃいけないって」


覚悟を決めた顔だ

マズい

今夜鴬がホースを指名すれば俺の狙っていたことが出来なくなる

だからルートを大きく変えるのは嫌なんだ


「――お知り合いを…見つけられたのですね…」

「デモンストレーションのあとに表示された情報を見たらそれくらい気付くわ」


この言い方…まだホースを特定出来ていないのか

それもそうか、ホースの開示された情報は家族構成

家族ぐるみの付き合いでもない限り正確には覚えていないだろう

それなら今夜指名される心配はなさそうだが、明日以降は分からない

鴬とはもう1対1で会うことは出来ない

ここでホースへの指名を確実に止める一手を打たなければいけない


「これだけは信じて下さい」

「なによ」

「あなたには「彼」を殺さなくて良い方法がある」

「っ…それ、どういう意味よ」


俯いて大きく首を振る


「それ以上は言えないってことね。でもどうやって信じれば良いのかしら」

「今日の夕食会で最初に発言なさるのは、苺様です」


訝し気な視線を向けられる

未来のことを断言しているんだから当然だ


「あなたの言いたいことは分かったわ。夕食会のあとにもう一度良く考えます」


そう言うと珈琲メーカーへ向かって歩き出す

カフェモカを作って、砂糖を1本入れるとカップを持って出て行こうとして、俺をちらりと見る


「―――あなたは、後悔してる?」

「いいえ」


この問いに実際、答えなどないのだろう

だが、今「後悔している」と答えるのはリスキーだ

鴬は「後悔するくらいなら不幸を踏み台にして幸せになれ」と言った

ホースも償えない罪に苦しんでいた


「そう…。今、幸せ?」

「いいえ」


流石にここで「幸せだ」と答えるのは頭がおかしい

それにさっき「このゲームを望んでいない」と言ったことと矛盾する


「ただ、鴬様の今の言葉で分かった気がします」


微笑んでみせる


「ここを出たら、出られたら、幸せになる方法を探すよ」

「さっきと言ってることが随分違うと思いますけど」

「いいや、変わらない。償えない罪なら、その罪を超える幸せを手に入れるんだ。そしたらきっと、罪を償うことが出来るようになる。罪の対義語はきっと、幸せだよ」


鴬も微笑む


「そうね。アタシもそうしようかしら」

「はい。そうしましょう」


笑顔を残して今度こそレストランを出て行った

珈琲メーカーに向かっている最中にレストランから出れば良かった

そこまでは俺の思い描く未来になりそうだが、その後が問題だ

この会話によってなにも変わらなければ良いが…

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