ルート⑨5日目夜
5名が会議室Bの指定された席に座る
苺が少しそわそわしている
不安そうな感じじゃなくて、楽しそうなそわそわ
これについて説明出来ないことはないが、恐らく正しくはない
俺が今考えられる理由とは別の理由があるはずだ
「苺、気持ち悪いぞ。落ち着け」
「乙女に向かってそれはひどいど思うなん」
「お前が乙女?寝言は寝てから言ってくれ」
「それはひどくないかなん。ね?ウサギ、そう思うよねん?」
話しかけられてもウサギは苺の方を見ようともしない
「ウサギってば」
「気持ち悪いとか乙女とかそれはどうでも良いんだけど、もう少し落ち着いてほしいかな」
「冷たっ」
ウサギと同時に鴬もため息を吐く
「うるさいわよ。なんでそんなに元気なのよ」
「みんな暗いから明るくしようと思ってねん。どう?気が利くでしょ?」
「本当に気が利くやつはそんなことは言わないけどな」
「そうなのねん」
またなにか五月蠅く言い始めるかと思ったが案外あっさり引き下がる
「…………ひとつ」
誰もが言葉でなく視線で続きを促す
「…………スタッフ、殺し合い、不参加。……ゲーム、大枠、参加。……認識?」
「ああ、認識している」
「私も認識しているよ」
「ウチもしてるよん。それがどうしたのかなん?」
ナンバーが鴬を見る
単に返事がなかったからだろう
「それは昨日アタシが言ったはずだわ」
ここれを聞くのは2度目だが、そうだったか?としかやはり思えない
「…………ゲーム、参加、勝ち、ある。……ルール、従順、勝ち、狙ってる」
最初はこれがルールを読み直した結果か、とガッカリしたのと同時にアドバイスの仕方を間違えているのかと思った
だが、人の話しは最後まで聞くものだ
「…………得る物、記載、ある。……勝者、基準、どうなる、記載、ない。……スタッフ、参加、関係」
「分かってるわよ。でも多分、当人も勝つ方法なんて知らないわよ」
「どうしてそう思う」
「ブルーは昼間に話したことがないのね。話せば分かるわよ。あの人、意外と人間味があるわ」
「…………ルール、読み直す、アドバイス、された」
「それだけで知らないと思うのか」
確かに疑問ではある
それに勝利条件を知らなかったときと同じ行動をしているのだから強ち間違いだとも言えない
「私も話したことはないけど、知らないと思うことには賛成するよ」
「どうしてだ」
「明らかな誘導がないから」
「確かに…」
そう、俺は夕食会で全員が集まっているときに積極的に話さなかった
それが功を奏している
「…………質問、返答、必ずある。……会う、話しかけて、こない」
「そうね」
「ウチも会ったけど、そうだったよん」
「待て。会ったことがあるのはこの中で3人なのか」
「そうみたいだね」
慌てた様に言うブルーに対して平坦に言うウサギ
この2人は本当に対比するのが面白い
ゲームへの参加の姿勢、互いへの思い入れ、色々違い過ぎる
「昼間はこれまで4日間あった。1日に1人しか会えないんじゃないか?」
「…………でも、偶然」
「アタシはこの部屋にいたから夕食会の準備に来たときに絶対に会うはずだわ。確かに会ったのは正午近くで少し早いとは思ったけど、それまで誰にも会わないっていうのはいくら他に5人だからって無理があるわ」
監視カメラがないのなら、そうだろうな
だが俺も含め参加者全員が「あいつら」に無意識の内に誘導されているという説もある
というかそれが濃厚だ
「でも監視カメラのひとつもないのはおかしいよね」
「そうだ。それにナンバーにしたアドバイスだって会った者全員に言うつもりでナンバーにしか会えなかったのかもしれない」
「可能性を考えればいくらでもあるよん。だから確かなことだけを確認した方が良いと思うなん」
「…………日にち、場所、時間、会った」
「そうそう。ちなみにウチは一昨日、3日目にレストランで10時半くらいに食事してるときに会ったよん」
「アタシは昨日だから4日目ね。さっきも言ったけどここで正午少し前に会ったわ」
「…………今日、レストラン、11時10分」
ナンバーがなにか考える様子を見せる
そう、今日俺は失言をしている
でもそれでなにかが起きるわけではない
「…………そのとき、おはよう、言った。……不自然」
「でも決め手に欠けるねん」
「そうだな。その話しは一旦置いておこう。ナンバーは最初、なにが言いたかったんだ」
「…………認識、同じ、確認。……それだけ」
「そうか。ルールを読み直して、なにか分かったのか」
「…………ない。……ごめん」
「いいや、謝ることはない」
「…………うん」
このときナンバーがなにをしたかったのか、正確に理解することは出来ていない
だが、予想は出来る
自分の他にルールの穴に気付いている者がいるか確認するためだ
それなら俺がアドバイスしたことは言わない方が良いと思うからなにか別の目的もあったのかもしれない
これ以上会話が続く気配はやはりない
料理を持って行くとしよう
今日は話しかけられることなく部屋を出て行く
「今日はウチが掛け声やっても良いかなん?」
「嬉しそうに言うな」
「え?でも鴬がホースの指名に成功したんだから、もう誰も誰のことを成功させようとしなくて良いんでしょ?実はちょっとやってみたかったんだよねん」
「それはそうかもしれないけど、そんな言い方しなくても良いと思う」
「それウサギの台詞じゃないわよ」
若干苦い顔をしながらもきちんとつっこみを入れる
「いくよん?せーのっ!」
ナンバーが誰も指していない
「金井郁」
誰かがそう言った
苗字だけ聞いて指名に成功したかと思ったが名前が違う
「金井茉莉」
ナンバーがウサギを指して言うとウサギが苦しみだす
ウサギはこれまでに死んでいったときと同様、なにも言い残さずに机に突っ伏せて息絶えた
「ナンバー、苺、どういうつもりだ」
「怒ってるのかなん?仲良しさんだったもんね」
「そうじゃない!さっき自分で言っただろ」
「ウチ以外の人はってつけるの忘れちゃったかなん。それに最初に言った参加の指針だって、本当のことを言わなくちゃいけないなんて誰が決めたのかなん?」
最初は混乱していて気付かなかったが、無理に楽しそうにしている…?
そんな気がしなくもない
「ナンバー」
「…………ひとつ、嘘。……ルール、読み返した。……指名、同時、書かれてない。……試した」
「試したって…。それで死んだかもしれないのよ」
「…………かまわない。……守る、本当」
「でもウチが金井って言わなかったら思い出せなかったんじゃないのかなん」
「…………ウサギ、指名、分かってた」
小さく、ピクリと眉が動いた
「ま、好きじゃなかったしねん」
今のはなんだ?
もしかしてわざと間違えていて、なにかをアピールするつもりだったのか?
だったら苺はナンバーに邪魔をされた形になる
好きじゃなかったと言っていたウサギを指名出来るからそわそわしているのかと思ったが、やはり別の目的があったらしい
ブルー 好きな動物:猫
苺 趣味:映画鑑賞
鴬 実家:一般家庭
「やっぱりそうだよねん」
映し出された情報を見て意味深に呟くと部屋を出て行った
次に狙って下さいと言っている様なものだが、大丈夫なのだろうか
まさか、それが狙いなのか?
なんのために
だが、確かなことは明日の夕食会で指名される確率が2人共高いということだ
それは変わらない
そんな中で苺を守ることは普通なら難しい
「守るべき人を見つけられたのね」
「…………うん」
「そう。良かったわね」
優しい言葉と笑顔を残して部屋を出る
対照的にブルーは睨んでいる
「部屋に運ぶぞ」
「…………うん」
ウサギの身体を起こすと小さく微笑む
「…………きっと、分かってた」
「そうかもな…。イエローもホースも苦し気な表情だったのに笑ってやがる。このホテルに来て初めてだろ、笑ったの」
「…………もう一度、4人で、飲みたかった。……茉莉ちゃんの紅茶、世界一。……あんなもの、なくして、茉莉ちゃん」
「止めろ。もう意味のないことだ」
「…………ごめん、僕、殺した」
「お前は自分の守りたいものだけを見てれば良い。帰って、あいつの居場所になってやれよ」
「…………ありがとう」
ブルーはやっぱりナンバー、そして苺を正確に把握している
そして、この台詞は本名で指名しないという意思表示だ
俺にはそういう風にしか受け取れない
それなのにどうしてあんなことになるのか…
「…………行こう」
小さく言って2人が動き出すと少ししてから監視カメラの映像と音声がなくなった
6日目昼誰に会いに行くか
苺