とある冒険者の授業
初投稿、3話くらいで終了の予定です
初心者なので、改善点などありましたら是非コメントしてください。
セーニョ大帝国の南西部に位置するアスカドラという町。
これといった名産品もなく、海に面してもいないため魚人との交易もない。
付近の森にいる魔物の素材の売買や、下位の治癒精霊を扱う精霊市等で細々と暮らすものが集まった田舎町だ。
そんな町の一角、王都に住まう者からしたら殺風景と罵られるであろう街並みにぽつんと配置されている建物があった。
木造のそれは周囲の石造りの民家より少し大きく、この街を歩く者の多くはそこを目指しているだろう。
そのうちの一人に、とある少年がいた。
素人でも見れば中古と分かるだろう古びた鎖帷子を纏い、金属の輝きを失った銅の両手剣を背中に背負った少年だった。
13歳程だろうか、幼い顔立ちには周囲への驚愕が映し出されていて、足取りはびくびくと覚束無い。鮮やかな紫色の髪の毛と、茶色の瞳は、彼をそこそこの美少年として彩っている。
こんな田舎町をそんな反応で歩ける者など珍しく、周囲からはちらちらと視線を送られていたが、そんなことは気にもしていない少年はその建物を見て本日何度目かの驚愕の表情を浮かべた。
「す、すげぇでけぇ……!!」
声を裏返しながらそう呟く彼はその玄関先に立っているぼろぼろの看板を読むと、その瞳に緊張を浮かべながらまたもやぼろぼろの両開きの扉をくぐっていった。
その看板にはこう書いてある。
〈冒険者ギルド アスカドラ支部〉と。
ここは田舎町、アスカドラの冒険者ギルドだ。
俺は今日の早朝から昼過ぎまでB級下位の闇光蜥蜴を狩れるだけ狩るという依頼をこなし、報酬で得た金貨30枚を使ってギルドに併設された酒場で飲んだくれていた。
こんな町だ、冒険者なんて大していないし、依頼の数もそう多くない。たった半日の仕事をしただけで飲んだくれる俺に説教する奴もいねえ。
今日は後3杯飲んだら家に帰ろう。
そう決めて、ぼんやりとつまみの豆を食っていた。
すると、薄暗いギルド内に僅かだが光が刺した。
なんとなしに顔を上げると、おどおどとギルドに入ってきたガキがいた。
装備から見るに冒険者希望だろう。
ライト・ティンゼル Lv6 人族
筋力 15
頑強 14
素早さ 17
魔力 16
神紋性能 E
通常スキル
大剣術:Lv2 火魔術:Lv2 農業:Lv1 気:Lv1 精霊の祝福Lv:6
称号スキル
〈劣者〉
いつもの癖で〈ステータス〉を使っちまった。
見ず知らずの相手にこれを使うのはかなり失礼なんだが……
まあ気付いてないようだし良いだろう。
しかしステータスを見てわかったが、やっぱり冒険者希望のただのガキらしい。
しかも人族の癖に〈ステータス〉を持ってない劣者だ。
ステータスは平凡、しかも劣者か。
将来は厳しいな。
そう見切りをつけ目を離そうとしたが、俺はふとガキのスキルのひとつに目がいった。
「精霊の祝福……?」
見たことが無いスキルだ。
何よりスキルレベルがガキなのに高い。
スキルレベルLv6なんて、普通の冒険者でもそうそういない。
俺はほんの少しこいつに興味が湧いた。
何をしていいのか分からず入口付近でうろうろしているガキに近付き、話しかける。
「おいガキ、そこで何してんだよ」
意味もなくドスを利かした声でガキにそう尋ねると、全く予想通りにビビり、おどおどとしながら話し出した。
「あ……えっと、その、と、登録が、ギルド登録がしたくて、ですね……」
知ってた。
内心笑いながらも無表情で更に問いかける。
「あ?ギルド登録だ?魔王やらなんだで世界の危機だっつーのに、てめえはこんな所でちまちま魔物狩りてえのか?」
少年はもう泣きそうになりながら必死に返答する。
「ま、魔王?あの、すいません、世間知らずなもので、そういうの全然分からないんです…」
「ふぇ?」
素で驚いて思わず素っ頓狂な声が出た。
魔王の事を知らない人間がまだ西大陸に居たのか……!
魔王のことは今の時代なら自分の名前と親の名前の次くらいに知らされる事だ。
そんな常識未満の事すら知らないとはどれだけの田舎で育ったんだろうかこのガキは。
これはその他の常識も全く知らないだろうな。
冒険者ってのは自分が全てだ。色々教えてくれる先生なんていないし、常識がないと依頼主の信頼も得られない。
よし、ちょいと俺が教えてやるか。
僕の名前はライト・ティンゼル。
ティンゼルの村で生まれ、今は貧しい村の為に都市へ行き冒険者になるつもりだ。
1年に2度訪れる商人ギルドの人に馬を借り、4日の長旅を経てようやく辿り着いた大都会に僕の胸は踊っていた。
だが。
道に迷わずすんなりとギルドに入れた所までは良かった。
冒険者登録のやり方なんて知るはずもないので右往左往していると、何故かチンピラ冒険者に絡まれてしまったのだ。
190センチほどの巨体は僕の体を軽々と押し潰してしまいそうなほど屈強で、なめした革を急所に当てるだけの軽装でありながら、剣が通るイメージが湧かなかった。
その手に持っているのは巨大な槍で、僕の持っている大剣とは比べ物にならない程の光沢を放っており、翡翠の線がいくつも走ったそれは美しい。
槍の美しさに少しだけ目を奪われていると、このチンピラは魔王?とかいうよく分からない事を話すと暫く考え込んでしまった。
早く逃げたい。
まあ逃げれるはずもないのでチンピラが口を開くのを待つしか無かった。
すると、チンピラが突然大きな声でこういった。
「よし、俺が冒険者ってやつを教えてやる!」
もうやだ、何言ってんのこの人。
俺はとりあえずこいつを座らせると、置きっぱなしだった酒をぐいと飲み干し、静かに話しを始めた。
「なあ、お前、そもそもここがどの国だか分かるか?」
と、一般の冒険者に聞いたら舐めていると思われるだろう質問。
「セーニョ大帝国……ですよね?」
しかしこいつはおどおどとしながらそう答える。
「僕、セーニョの南西部、海沿いあたりで生まれたんです。」
なるほど。こいつの紫色の髪と黒目はそれか。
セーニョ大帝国の住民の身体的特徴として、黒目紫髪は有名だろう。
「南西部……アスカドラより南西の海沿いって言ったら、端っこの端っこじゃねえか。そりゃあ魔王も知らねえよなあ……」
南西部の海は強い魔物は居ないが魚人もいない。これといった名産品がある訳でもないので、セーニョに住むものからしたら、南西部は田舎というのは常識だった。
「あの……さっきから仰ってる魔王って、なんですか?」
こいつから質問してきた。魔王を知らない事で驚かれたのが悔しいのだろうか?
「そもそも、この世界の地理をお前は知ってるのか?」
「商人ギルドの人が、ここは西大陸だって言ってましたけど……他は、知りません。」
まあ、そんなもんか。
「簡単に言うと、この世界は3つの大陸で出来てる。まず俺たちが今いる西大陸、人間族の活動が盛んな大陸だ。次に東大陸、西大陸の東端から船で1ヶ月くらいの場所にある大陸で、エルフや獣人などが多い。そして最後に北大陸、魔族が住んでる魔境だ。」
正確に言えば、南に旧神の文化が残った南方列島があるのだが、あそこは行ったことがあるやつがそうそういないし、知らない奴も多いので割愛だ。
「魔族、は聞いたことがあります。母が良く早く寝ないと魔族が来るぞって言ってましたから。」
俺も小さい時には良く言われていた言葉だ。そういう時の脅し文句は田舎でもどうやら共通らしい。
「まあ、その脅し文句からもわかる通り、魔族ってのは人間の敵だ。亜人、獣人より基本的な身体能力は高く、魔術適正も高い。繁殖力がないのが弱点ってくらいか。」
「うちの村には、黒猫族のハーフの子がいましたけど、物凄い身体能力でした。それより能力に優れているなんて……人間は、すぐに駆逐されちゃうんじゃないですか?」
と、こいつは最もな疑問を口にした。
「いや、通常魔族ってのは領土欲がないから、攻めてくることは無い。刺激を与えない限りは無害だ。」
「じゃあなんで、魔族が人類の敵なんですか?」
ここで、気になっていた魔王の話に入ることになる。
「魔王が、およそ100年に1度のペースで生まれるからだよ。」
「……魔王というのは、魔族の王という事ですか?」
「中々察しがいいな。そうだ。魔王が生まれると全ての魔族は凶暴性を増し、例外なく俺たちの大陸か東大陸を侵攻してくる。」
それに、魔王になったものは魔族のうち100人を〈魔人〉と呼ばれる超種族に進化させる事が可能だ。
これまで生まれた魔王は28人だが、その全員が交渉に応じることなく大陸に侵攻している。
「でもそんなことになったら、地力で劣る人間族や獣亜人なら、為す術なくやられてしまいますよね?なんで今人間は生きていられるんでしょうか?」
「そりゃあ獣亜人やドワーフ、エルフ達との対魔王連盟を構成し抗ってるが、それだけでは到底打ち払う事はできない。だから、今から3000年程前、偉大な大魔導師トリスは死力を尽くして〈勇者召喚術〉を完成させたんだよ」
「勇者?」
そう。人類の希望にして西大陸の最高戦力。
「今は亡き傲慢の神ゼウスは、その莫大な力を耐えうる人材に力を与えるとトリスに告げた。だがいくらトリスでもゼウスの力なんて受け取ったら体が持たない。そこでトリスは、〈時空〉の最上位天使と協力し、異世界から人間を召喚する術を作成した。」
「異世界から人を召喚して、何かいい事はあるんですか?」
「簡単に言えば、魔力の器が無限に近い。ゼウスの力を受け取っても耐え切れるらしい。理由は今も分かってないが……」
「ではつまり、魔王に対抗する器として勇者を召喚した、ということですか?」
田舎のガキだと侮っていたが、状況の飲み込みが早いな。こういう素質は冒険者に向いていると、かつて俺の師が仰っていた。
「そうだ。そしてトリスの手によって召喚された初代勇者タカハシ・ミツルは、初代魔王ザーヴスミスを討伐し、北大陸の1部を人間の領土として持ち帰る大戦果を挙げた。」
「でも、今は北大陸に人間族の領土なんてないんじゃ……?」
「ああ、初代勇者と魔王の戦いは人間が勝ったが、その後が問題だった。調子に乗った人間はタカハシを使い更に領土を拡張しようとしたが、〈呪創〉と呼ばれる名のある魔族にその身を犠牲にして殺され勢力が落ち、さらに北大陸の領地を全て人間のものにしたため戦に参加していた獣人、特に蜘蛛足族や蜥蜴人族等に反乱を起こされ、人間族は深い傷を負い北大陸の領地も手放した。」
ここから、人間族は一気に堕落していく。
「そして、人間族は傷も冷めず、獣人たちとの溝が開いたまま100年が経過し、再び魔王が現れた。人間も対抗して2代目勇者タケダ・ヒロトを召喚する。だが、敵の勢力は大幅に強化されており、魔王側近の〈四魔臣〉と呼ばれる強力なものや、魔王が100人まで作れる魔人などにより、人類は早くも絶滅の危機に瀕することになるんだ。」
「他種族からの応援はあったんですか?」
「いや、2代目魔王は何故か人間ばかりを狙っていて、他種族からの応援は僅かな亜人とエルフだけだったんだと。」
そんな絶望的な状況から人類を救ったのは、かつてこの世界を治めていたとする旧神だった。
「そんな時、旧神が西大陸、東大陸含めた6名の強者にとある特別なスキルを与えた。それが、神をも殺す力〈六道〉スキルだ。」
「神をも、殺す力?神を殺すんですか?」
「そうだ。〈天道〉〈地獄道〉を持つ双子、クレシェンとデクレッシェ、〈人間道〉の教国仙人トワイコル、〈修羅道〉の剣聖ミール、〈畜生道〉の獅子王ライネル、〈餓鬼道〉の龍王アイネル。
この6人は旧神のお告げに従い、勇者に魔王を任せると神が住む神界に侵入し、世界を治めていた7柱の神を殺した。」
これは後に、〈神への叛逆〉と言われるようになる。
「そして、勇者に力を与えていたゼウスが死んだ影響で、彼の力は全て勇者に吸収され、勇者タケダは強化され、他に殺した6柱、それぞれ〈嫉妬〉〈怠惰〉などの罪を司る神々の力はコアという結晶として六道所持者に宿り、人間族側は莫大な力を得た。」
「でも、〈畜生道〉や〈餓鬼道〉の獅子王や龍王は獣亜人ですよね?なんで協力してくれたんですか?」
「もともと彼らは懐が深く、なにより強者を求めるたちだったからだろうな。」
獣人、亜人には好戦的なものが多いのが特徴だ。
「そうして、獅子王や龍王などの強力な援軍も加わり、人間族は辛くも勝利を治めた。ただ、神を殺すまで魔王相手に時間稼ぎをしていた勇者は魔王と相打ち、教国仙人も四魔臣が1人の〈混沌〉に殺され、剣国ミーツも魔人どもの襲撃により滅ぼされた。」
コア所有者が死ぬと、神のコアは再び魔王が現れるまで、管理者と呼ばれるものに力を抑えて宿るが、〈六道〉は、死ぬと旧神の元に帰ってゆく。〈人間道〉のトワイコル、〈修羅道〉の剣聖ミール、〈天道〉〈地獄道〉の双子は全員戦死または 寿命により死んだため今この世界に残っているのは獅子王ライネルの〈畜生道〉と龍王アイネルの〈餓鬼道〉しかないとされる。とはいえ、獣人最強とされる獅子族でも、3000年近く生きるのは稀らしい。普通は1000年程度だそうだ。龍人族は、5000年生きたものもいるらしいが。
「人間側の被害も多かったんですね……」
「まあ、そうだな。と、ここまでが魔王関係の話だ。このあとも人類は100年周期で魔王と戦い続け、現在に至るってわけさ。」
未だに獣人たちとの溝は深いが、時の流れでそれも薄れつつある。なんせこの話は2000年前ほどだし実際、ギルドには獣人や亜人の冒険者もちょっとは所属してるしな。
「あ、因みにこの冒険者ギルドも元は魔王に対抗する為に造られた組織だったりする。」
13代目魔王は、100の魔人にそれぞれ魔物や魔族で造られた軍を率いさせるという集団戦法に出た。
それに対抗し、初代冒険者ギルドマスターのレギオンが仲間の傭兵の他、とにかく戦える者達を率いて立ち向かったのが始まりとされる。
「その、冒険者ギルドについても、商人ギルドの人からきいたくらいで、大して知らないんです……
まあそうだろう。魔王知らないやつが冒険者ギルドの制度を知っていたらさすがにおかしい。
「まあまず、冒険者ギルドにはそれぞれの冒険者の実力に合わせた〈ランク〉と呼ばれるものが振り分けられる。
最高位のSSS級は、世界に5人しかいない最高位の冒険者。
SS級も世界に100人くらいの、人類の精鋭たち。
S級は、冒険者のまとめ役、魔人討伐の際は大体S級がリーダーだな。
A級はプロの冒険者、この辺りになると2つ名が付けられるな。
B級は熟練冒険者、相当強いが、下位魔人に単独では勝てないレベル。
C級は一般冒険者、ギルドにはC級が1番多い。
D級は半人前、C級以下の魔物を倒せるくらいだ。
E級はルーキー、冒険者として始める時は全員E級からだ。」
このランクは元々魔物に定められたものをそのまま冒険者に当てはめたもので、基準としては自分と同ランクの魔物を単独で撃破できるか否かだ。
無論、戦闘に向かない回復職などには特別な試験があったりなど融通は効かせているが。
「ちなみに、あの……」
「俺の名前はケーディル・ランズ。〈聖者の槍〉のケーディルだ。」
「ありがとうございます、ケーディルさんのランクは幾つなんですか?」
実際、気になる質問ではあるだろう。
冒険者は情報が命、依頼の取り合いになる時は相手の情報をいかに持っているかが鍵になる。
「俺はA級だが、その中では下位の方だな。」
俗に言うA級下位、A級魔物はなんとか倒せるが、A+級は厳しいだろう。
とはいえ、それなりに名のある冒険者ではある筈だ。一週間ほど前に魔王との戦いの最前線に飛び込み、93の魔人と88の魔人の討伐、57の魔人の討伐補佐と、かなり戦績を挙げてきたからな。
「A級……!?凄い方じゃないですか!?」
ガキが物凄い大袈裟に驚く。褒められて悪い気はしないが、俺はルーキーの時にレベル6のスキルなんて持っていなかったし、ここまで上り詰められたのも〈緑護の聖槍〉のおかげだ。
ちなみに魔人は、〇〇の魔人というふうに分けられていて、数字が小さい程強い。50の魔人より数字が小さくなると、上位魔人と呼ばれる。俺は、下位魔人の更に下位、90程度ならぎりぎり倒せるが、50台や60台となると厳しいってくらいだ。
ていうか、93の魔人と88の魔人を倒せたのは半ば奇跡にも近い。何回も死を覚悟したし、88との戦いは俺も瀕死の重傷を負った。たまたま近くの戦場で41の魔人と戦っていたS級冒険者、〈血療の狂姫〉パールナがいなければ今頃死んでいただろう。
その後冒険者ギルドから休めと命令が来たから、俺は暇潰しにこの辺境で依頼をこなしていたって訳だ。
「大して凄くもねえよ。んなことより、説明の続きだ。お前のタイプを教えてくれ。」
「タイプ?」
「得意な武器、魔術適正、前衛型やら後衛型とかの戦闘に関わる相性だ。」
血盟や共同戦線などを組む時、味方の相性を知っておかないと話にならないからな。
「えっと、僕はこの大剣と火魔術を使えます。火魔術って言っても火球と火槍くらいしか使えないので、魔術で牽制して大剣で倒すタイプです。」
まあどっちもこなせる万能型か。どちらかと言ったら前衛寄りだが、火槍が使えるなら十分だろう。
因みに、魔術は全部で10の等級があり、10~7までの等級は生活魔術と呼ばれ、自分の属性とは関係なしに放てる魔術。6~1までは戦闘用魔術で、数字が小さくなるほど強くなる。大体4等級魔術を扱えたら魔術使いとしては1人前だ。
ちなみに、火球と火槍は6等級魔術だ。俺は風に適性を持つが、情けないことに5等級魔術までしか使えない。A級で魔術が5等級までしか使えないのは相当珍しく、俺のコンプレックスの1つでもある。
「バランスは良いが、お前に大剣は合っているのか?どう見てもひょろひょろだし、大剣を持てる筋力なんて無さそうだが。」
どストレートにそう言うと、こいつは顔を赤くしながら反論する。
「ぼ、僕は〈気〉が使えます!腕に集中すれば、大剣だって持てますよ!」
〈気〉とは、聖属性魔術とは違う形で身体能力を強化させる力だ。簡単に言うと、体内にあり生命の維持のために必要なマナと呼ばれる魔力を操作し活性化させ身体能力を上げると言うもので、一般冒険者はそれなりに持っている技能だ。
しかし、Lv1の〈気〉なんて気休めレベルのはずだが、腕に集中するなんて聞いたこともないな。そんなことをしたら他の部位にマナが行かず、死んでしまう可能性もある。
「危険では無いか?」
「いえ、身体に影響が出ない程度のマナを動かしているので、ほんのちょっとだけ身体能力は落ちますが基本的には大丈夫です。」
なるほど、かなり賢い方法で〈気〉を使っているようだ。やはりこいつは賢い。いずれ抜かされてしまうかもしれないな。
まあ身体能力はルーキー時代の俺の2分の1くらいだが、少なくとも魔術は使えなかったし、ここまで賢い手法を使ってもいなかった。
「そうか、そんな手段があるなら基本的には安心だな。頑張れば、すぐにD級には行けるだろう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ギルドに、少年の嬉しそうな声が響いた。