ミューネちゃんだ!
つい先程まで木々が並んでいた場所を、一瞬にして大穴へと変えたリベレッタ。
ペトラの中級魔法とは比べ物にならない、明らかに強大な火力の痕跡…
自身の計算を大幅に上回る結果に、リベレッタは慌てて演算をやり直していた。
(へ、変ですね…何度演算しても これ程の火力にはならないはずですが…)
(やはりマナの存在が影響を…? これは今後の出力調整がかなり困難に…ん?)
ここでリベレッタは、スペック表とライブラリ内データの最終更新日時に開きがある事に気が付いた。
(スペック表の日付と、ライブラリの最終更新日時に2年もズレがありますね…)
そう、スペック表を書いてから最低でも2年…その間に、リベレッタには更なる改良が施されていた。
しかし庵藤博士は、リベレッタが何処で起動しても対応できるようにするための資料探しで忙しく、スペック情報の更新をすっかり忘れていたのだ。
(2年の間に保存されたデータの傾向や量…もし、これらを1人で集めていたのなら更新する暇が無かったのも仕方ありませんが…)
その結果、空間圧縮により木に穴を空けるつもりが 広範囲を跡形なく消滅させてしまうという大惨事に。
(…私もおかしいとは思ったんですけどね、まず隔離の範囲から既に巨大でしたし)
しかし ペトラの手前中断もできず、周囲に生体反応も無かった事から続行…
結果的にはマナだ魔法だ などという問題は吹き飛んでしまっただろう。
(ただ、この結果をペトラにどう伝えるか…ですよね)
先に『中規模』と宣言していたので、自分がこれ以上の破壊力を有している事はペトラにも伝わってしまっただろう。
(『手違いで大規模になった』と釈明すべきでしょうか…ですが、この世界の魔法にもっと強力な物があるなら、無理に取り繕う必要もありませんし…)
幸いなのは、目撃者がペトラしかいなかった事だろう。
もし衆目の前でやっていたら パニックになっていた可能性も充分考えられる。
(この世界の事を知る前に大勢から注目されるのは避けたいですね)
そんな事を思案していると、遠くから熱源が接近して来るのを感知した。
(…何でしょう?人間程の大きさですが…魔獣という可能性もありましたね)
リベレッタは両足のリアクターを使い、ホバー移動で急ぎペトラの所へと戻る。
ペトラは ぽかんと口を開けたまま、まだ大穴を見つめて固まっていた。
「ペトラ、何かがこちらへ向かって近付いて来ます」
…反応がない。
「ペトラ、大丈夫ですか?」
「…んぁ!?ひゃい!なんでふか!?」
肩を軽く揺さぶりながら もう一度問いかけると、まだ思考が追い付かない様だが今度は反応が帰ってきた。
「何かがこちらに近付いて来ていますが、この場合は何処かへ隠れるべきですか?それとも、このまま待っていた方が良いのでしょうか?」
「…あ、はい。えっと…な、何でしたっけ?」
返事はできるが、いまいち考えがまとまらない様子のペトラ。
熱源も徐々に近付いているので、リベレッタは自身の判断で行動する事にした。
「あまり時間がありませんね、失礼します」
突然、リベレッタがペトラを抱きかかえた。
「ひゃあ!な、何ですか!?」
「少し離れて様子を見ます。対象を目視したら情報をいただけると助かります」
そう言うとリベレッタは、熱源の移動軸に対し垂直方向の森へと移動する。
ペトラの視力を考慮し、50m程離れた所の木の陰に身を潜めた。
「…あの、リベレッタさn」
「静かに、そろそろ目視できるはずです」
すると、先程リベレッタが攻撃の時に立っていた場所へ赤い物体がやってきた。
(…人間の様ですが、身に付けているのは鎧でしょうか?)
姿を表したのは、赤い鎧を着た金色の髪の少女。
年齢はペトラと同じ15、6歳くらいだろうか。
「彼女も遂行者でしょうか…どうですかペトラ」
「んー…んん?あーっ!」
ペトラは少しの間 目を細めて観察していたが、不意に大きな声を上げた。
「ミューネちゃんだ!おーい!」
どうやらペトラの知り合いだった様だ。
ミューネと呼ばれた少女も声に反応し、ペトラの方へ振り向いた。
「ちょっとペトラ!私が少し留守にしてる間に、なに勝手…に…?」
「…どうも」
振り向いたミューネの視界には、見知らぬ女性に お姫様抱っこをされたペトラが嬉しそうに手を降っている姿が映っていたのだった。