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ボゴッ!

 名画に見たようなマゴラタケの絵に、リベレッタは思案を巡らせていた。


(特徴を伝えるために描いた物ですし、簡略化した事で偶然 似てしまった可能性も充分あり得ますが…)


 『マナや魔法の存在以外は元の世界とそれ程 差はない』…そう考えていた。


 しかし そのマナや魔法こそ大き過ぎる差であり、最大の不確定要素なのだ。


(どれ程 似ていようと、ここは異世界。警戒するに越した事はないですね…)


 リベレッタは、マゴラタケの より詳細な情報を集める事にした。


「マゴラタケの詳しい生態を教えていただけますか?あと採取する際の注意点などがあれば、そちらもお願いします」


「あ、はい。マゴラタケは光の当たらない、薄暗い場所によく生えてます」


「ここも、以前は葉っぱと草で いい感じの薄暗さだったんですけど…」


 そう言って視線を上げるペトラ。リベレッタも見上げて確認する。


「今は葉っぱがあの状態なので、この辺りにはもう生えないみたいです」


 確かに 巨大な虫食いの様に点々と穴が空き、光が射し込んでしまっている。


(私がここに飛ばされた影響でしょうか?穴には焦げ跡も見られますが…)


「まぁアレは事故というか、自業自得なので しょうがないんですけどぉ」


 ペトラが遠い目をしながら引きつった笑みを浮かべる。


 どうやら原因に心当たりがある様だ。


(…あまり詮索しない方が良さそうですね)


 そう思いながら、リベレッタは自分のせいではない事に若干 安堵していた。


「それなら、もう少し森の深い所へ行けば明るさは問題なさそうですね」


「はい…奥の方には洞窟も幾つかあるので、マゴラタケを探すの自体は困らないんですけど…」


 ペトラの表情が、困惑と緊張の混じった やや険しいモノへと変わる。


「…何か別の障害があるのですか?」


「はい、その幾つかある洞窟の中には魔獣の巣もあるんです…」



 『魔獣』



 神話などでは、特殊な力を持った怪物として登場する架空の生き物だが…


 どうやら、ペトラの表情から察するに かなり危険な存在のようだ。


(魔法が扱えても油断ならない存在のようですね…)


(…ん、魔法?)


 そういえば、その魔法の効果を まだ確認していない事に気付く。


 魔法の影響力が不明なままでは、魔獣の危険性も全く予想がつかない。


(やはり、実際に魔法をこの目で確認する必要がありますね…)


「あの、ペトラの魔法は魔獣にどのくらい効果があるのですか?」


「私のですか?そうですね…」


「一つだけですけど中級魔法(ミッドマジック)を使えるので、中型の魔獣も単体なら何とか倒せそうですけど…」


 中型…と言われても、基準が分からないので全く想像できないが。


「差し支えなければ、その魔法を見せていただけますか?」


「え?ここで…ですか?」


「はい、どの様な魔法か知っておけば戦闘の際に動き易くなりますので」


 事実、魔法の情報不足が原因で巻き込まれる可能性も充分考えられる。


 威力だけでなく、どの様な現象が起こるのかも把握しておくべきだろう。


「…わかりました。じゃあ、危ないですから私の後ろに来てください」


 指示に従い、リベレッタはペトラの背後へと移動した。


「まだ使い慣れてないので魔法詩(スペル)の詠唱に少し手間取っちゃいますけど…」


 そう言うとペトラは右手で杖を回し、横にして両手で体の正面に構える。


「…冷徹なる氷の乙女」


 詠唱らしきものが始まると、ペトラの足元が薄っすらと円形に光りだした。


「冷たき息吹…飛礫(つぶて)と成りて…」


 ペトラが見据えていた10mほど先、その上空が同じ様に光りだす。


 空間に異常な温度変化を生じながら、こぶし大の氷が次々と姿を表した。


「…降り注げ!フォーリンヘイル!」


 宙に浮いていた氷が、撃ち出される様に一斉に落下を始める。


 ドカドカと地面に落ちる音から、雹よりも強烈な威力がありそうだ。


(範囲は半径約2m…この魔法なら巻き込まれる心配はなさそうですね)


 6、7秒程すると氷は止まり、落ちていた氷も光の粒となって消えていった。


「…ふう」


 ひと仕事終えたようにペトラが息をつく。


「…終わりましたか?」


「はい、今のが私の中級魔法(ミッドマジック)です」


 終了の報告を聞き、リベレッタは氷が落ちた場所を確認しに行く。


(…なるほど、地面がかなり変形していますね)


 柄の長いハンマーで何度も叩いた様に、ボコボコと(いびつ)にへこんでいる。


 これを10秒も掛からずにやったのだから、既に中々の破壊力だと判断できるが…


(あ、地面の強度を調べれば より正確な威力が判りますね)


 異世界への警戒を強めていたリベレッタは、データに対して貪欲になっていた。


「リベレッタさーん、何か気になる事でもありましたかー?」


 ペトラの声も意に介さず、じっと地面を見つめるリベレッタ。


(先ほどの氷が、丁度こぶし程度の大きさでしたから…これで!)


 不意に、リベレッタが地面に向かって拳を振り上げた。


「リベレッタさ―」



―ボゴッ!



 鈍い音と共にリベレッタの拳が地面に埋まる。


(なるほど…これで魔法の威力が かなり正確に判りましたね)


 そう思いながら拳を引き抜き、リベレッタが満足気に振り返ると…




 (⦿_⦿)




 すっかり目を丸くしたペトラが、呆然と立ち尽くしていたのだった。

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