これがマゴラタケです!
「じゃあ、さっそく村に案内しますね!」
そう言ってペトラは元気よく歩き出す。
「…あの、杖はもう探さなくていいんですか?」
リベレッタの質問に ピシ っと動きを止め、逆再生のように戻って来る。
「そうだったぁ…杖もだけど、まだ依頼の途中だったんだぁ…はぁ~」
大きな溜め息をつき、今度は目に見えて落ち込むペトラ。
(ポーカーやババ抜きは苦手そうですね…この世界にもあればの話ですが)
ペトラの百面相にそんな感想を抱きながら、リベレッタは新たに登場した単語について尋ねる。
「『クエスト』…なにか用事の最中だったのですか?」
「…あ、そうですよね!組合の事とか知らないですもんね!」
一瞬キョトンとした顔を見せるペトラだったが、すぐに気付き説明を始める。
「有名な職人や狩人の労働者には、その名声から名指しでの依頼が沢山来るんですけど…」
「私の様にまだ実績の少ない労働者や、労働者になったばかりの人には名指しでの依頼なんてまず有りえません」
ペトラは胸の前で両手を交差させ、大きくX印を作った。
「でも、依頼人の方も労働者を探すのに苦労してたみたいなんです。有名どころはその分、料金が高かったり順番で何日も待たされる事が多かったみたいで…」
「そこで、労働者と依頼人を結びつけるために作られたのが『組合』です!」
人差し指を立てながら語句を強調するペトラ。
この後テストがあったら間違いなく出題されそうだ。
「組合は依頼人から依頼を集めて難易度のランク付けをした後、依頼として掲示板に張り出します」
「そして、労働者は遂行者として組合に所属登録をすれば、組合に集められた依頼を受ける事ができちゃうんです!」
ビシッ っとリベレッタを指差す。
どうやら話していると だんだん熱が入ってくるタイプの様だ。
「…つまり、現在ペトラは遂行者として依頼を遂行中なのですね?」
「はい!…まぁ、予想を外して絶賛苦戦中なんですけどねぇ」
ペトラが頭上に暗雲でもあるかの様な表情を見せた。
「依頼が終わらないと村には戻れないのですか?」
「いえ…期日まで まだ日がありますから、戻れないことはないんですけど…」
そう言うと、ペトラはバツが悪そうに目を逸らした。
「大見得を切って村を出発しちゃったので、手ぶらでは戻りづらいというかぁ…」
人差し指の先を合わせ、モジモジと理由を話すペトラ。
(心因的な理由ですか…しかしペトラと行動を共にする以上、このまま村に行っても次の行動に影響が出るでしょうし…)
「あの、依頼は受けた者以外の誰かが力を貸しても問題無いのでしょうか?」
「え? はい、大丈夫ですけど…」
「でしたら、お役に立てるか分かりませんが 私も手伝います」
「い、良いんですかぁ!?」
瞬く間に表情を明るく変えながら、ペトラがリベレッタの両手を握りしめる。
「助かります~!リベレッタさんが手を貸してくれるなら、こんな採集依頼なんてチャッチャのチャですよ!」
余程 嬉しいのか、ブンブンと握った手を上下に大きく振った。
(チャ? …『余裕』『楽勝』といったニュアンスでしょうか)
「『採集』との事ですか、何を集めれば良いのですか?」
「えっと『マゴラタケ』っていうキノコなんですけど…知ってますか?」
(マゴラタケ…データには有りませんね。しかし『キノコ』ですか…)
『杖』や『村』など名詞が同じなので杞憂だとは思うが、念のため確認をする。
「マゴラタケは分かりませんが、キノコとは主に傘があって木から生えますか?」
「そうですそうです!種も根っこも無い不思議な植物なんですけど、薬の材料とか食用によく使われるんですよ」
(植物…この世界では菌類と認識されていないのでしょうか)
(ですが、キノコと分かれば捜索も容易になりますね)
そう考えながら、リベレッタは草に隠れたペトラの杖を拾い上げた。
「あ、おばぁちゃんの杖!見つけてくれたんですか!」
「さきほど躓いた時、どの方向に落としたか見ていましたので」
(本当は透過レーダーに写るので ずっと見えていたのですけどね)
手渡した杖に愛おしそうに頬ずりするペトラ。かなり大切な物のようだ。
「あの、マゴラタケの詳細な特徴を教えていただけますか?キノコの一種なら私もかなり的が絞れますので」
「えへへ~もう離さないからね~へへ…え?あ、はいっ!」
…物凄く大切な杖だったのだろう、うん。
「あ、でもマゴラタケはキノコの中でも特に変な形でですね…ん~っと」
ペトラは草の少ない場所へ移動し、ガリガリと杖で地面に何かを書き始めた。
大切な杖ではなかったのだろうか…?
「ここをこうして…と、できました!これがマゴラタケです!」
「こ、これは…!」
「ムンクの『叫び』ですか?」
「マゴラタケですよ?」
地面にはトンガリ帽子を被った見事なムンクの叫びが描かれていたのだった。