いえ、違いますけど
「マナって修行で消せるんですか!?」
微妙な回答かと思われたが、ペトラの表情には強い好奇心が表れていた。
(これは、補足次第でまだ挽回できそうですね。では…)
リベレッタは、ライブラリ内の『消える事でメリットを得る物』を参考に補足を試みる。
「簡単にマナを感知されては、潜入や隠密行動をする際に支障が出ますからね」
「それに『感じられる』という事は『外に漏れている』という事です」
「漏れたマナは無駄になってしまいますので、マナを隠す修行はとても効率的かつ効果的なんですよ」
先程の『鍛えている』発言から繋がるように、実戦的な理由を連ねていく。
しかし 潜入に隠密とは、些か物騒な気がしなくもない。
「な、なるほど…」
(表情に驚きはありますが、同時に感心もしているようですね。この様子なら挽回は成功のようで…)
「確かに阻害系の魔技や魔法を使うよりマナ自体をコントロールした方が、余計なマナを使わず効率的に戦えますよね。はぁ~盲点だったなぁ…」
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―『魔法』
大半の人間が知っていて、その誰もが実際には見たことのない『空想の産物』『万能の事象』『奇跡の代名詞』
(マナが『力の素』なら、その力を利用する手段がある。とは思っていましたが…)
現実にその存在を語られると、やはり身構えてしまう。
さらに ペトラの口ぶりから察すると、少なくとも彼女の周りでは魔法が一般的に用いられているらしい…しかも戦闘という用途で。
(私の戦力指数は、あくまで私の世界の基準で数値化されたデータ…)
当然、魔法に対する有用性など検証された事は一度も無い。
(これは 早急な魔法の観測と分析、そして その対応手段の構築が必要ですね…)
「貴方h…」
「はっ!そんな凄い技術を身に付けているって、まさか…!」
魔法について質問しようとしたその時、急に声を上げたペトラに言葉を遮られてしまう。
「もしかして北の氷国の特務執行官の方ですか!?」
星でも飛び出しそうなほど 目を輝かせながら詰め寄ってくるペトラ。
「…いえ、違いますけど」
その勢いに やや押されながらも慎重に返答する。
「そうですかぁ~。まぁ そうですよね、執行官ならマナを知らないなんて事は無いですもんね…」
先程とは打って変わり、今度は萎れた花のように肩を落とす。
(これ以上知らない単語が増えても厄介です。先に世俗に疎い事から伝えましょう)
質問攻めから妙な事態にでも発展したら収拾がつかなくなりそうだ。
「…実を言うと、私の故郷は長い間 外部との交流を絶っているんです」
「なので、私はこちらの地理や常識を あまりよく知らなくてですね…」
出自の明確な場所は告げず、この世界と交流が無いという要点だけを伝える。
若干 詐欺師のようではあるが嘘も方便…というか、今は真実の方が嘘くさい。
「あ〜それで そんな見慣れない鎧を着てて、マナの呼び方も違ったんですね」
強化装甲ではなく汎用外装なので、鎧より服に相当するのだが。
(はっ!長い間 外との交流がなかった民族…マナを隠す特殊な修行…)
その時、ペトラが何かを導き出すように『ムムム…』と考え込む。
(もしかして…この人と一緒なら まだ誰も知らない すごい魔法とかも見れちゃうのでは!?)
ペトラの好奇心に再び火が付いた。
「あの!この辺りの事をよく知らないんですよね!」
またしても目に星を浮かべて、リベレッタへと詰め寄るペトラ。
「は、はい…どの方向に道があるかも分かりませ…」
「じゃあ、よかったら私と一緒に来ませんか!」
食い気味に提案を持ちかけ、ペトラは更に距離を詰めていく。
(か、顔が近い…ですが、彼女と行動を共にした方が情報を集め易そうですし…)
「はい、構いませんよ」
「やったーーー!」
(…なぜ彼女は これほど喜んでいるのでしょうか?)
ペトラは小躍りでもしそうな程はしゃいだ後、リベレッタの方へと向き直った。
「じゃあ、これからよろしくお願いしますね!…えっと~」
ここで、互いにまだ名乗っていなかった事に気付く。
「申し遅れました、私はリベレッタです」
「あ、私はペトラっていいます!」
姿勢を正し、元気よく発声するペトラ。
「遂行者で職業は魔法使いです!」
次々と繰り出される単語に、リベレッタの無表情が若干だが引きつるのだった。