つまりは、お嬢様ですね!
「な、なな、な…」
ペトラ達を確認したミューネは、やや頬を紅潮させ肩を震わせていた。
「な?」
その様子を見て首をかしげるペトラ。
「何やってんのよあんた達!?」
ミューネが ズビシ! っと指を差しながら叫んだ。
「こんな真っ昼間から、ひと気の無い森で…おお、お、お姫様抱っこなんて!」
まるで恥ずかしいものを目撃したかの様にミューネは顔を赤らめていた。
漫画なら目を渦巻きにして、頭から湯気でも出てそうな勢いだ。
(実際に抱えられていたペトラが恥ずかしがるのなら分かりますが、何故この少女がこんなにも恥ずかしがっているのでしょう?)
そんな感想を抱きながら、リベレッタは とりあえずペトラを地面に下ろす。
「えぇ~ 誤解だよ~。何かが近付いて来てたのに、私がちょっと上の空だったからリベレッタさんが私を抱えて隠れてくれてたんだよ?」
状況を説明しながら、パタパタと小走りでミューネに駆け寄るペトラ。
「ミューネちゃんこそ、何でここに?今日は お屋敷で集まりがあるからって王都に行ってたんじゃ…?」
「ちゃんと行ったわよ。挨拶だけして すぐ帰ってきたけどね」
ミューネは無愛想に答えながらも、ペトラに付いた葉っぱを落としていた。
「えぇ、勿体ない…ご馳走とか いっぱい出るんでしょ?」
「あんな 腹に何を飼ってるか分からない様な連中に囲まれて、のんきに食事なんかできるわけないじゃない」
ミューネが不快そうな顔をする。余程 居心地の良くない空間だった様だ。
「んで、村に戻ったら あんたが依頼を受けて1人で森に行ったって言うじゃない。折角だから、憂さ晴らしに手伝いに来てあげたのよ」
そう言いながら、ミューネは不穏な笑みを浮かべ ポキポキと指を鳴らした。
「…ところで、あの女の人は?何か 一緒に行動してるみたいだけど…同業者?」
「あ、紹介するね?リベレッタさーん!」
ペトラが爪先立ちになりながら右手を大きく振った。
(ん、もう会話に入っても問題ない様ですね)
どのタイミングで距離を詰めるか計りかねていたので、大いに助かる。
リベレッタは低い枝を避けながら、2人の近くまで移動した。
「この人はリベレッタさん。最近故郷から出てきたけど、それまで外との関わりが全然無かったから 私達の国や常識の事をよく知らないんだって」
紹介を受けたリベレッタは、腰の前に両手を揃えペコリとお辞儀をする。
「はじめまして。ペトラとは先程この森で会いまして、世俗に疎い私を厚意で案内して下さるとの事なので、同行させて頂いてます」
伝わるかは分からないが、一応 日本式の作法で挨拶をするリベレッタ。
もし奇妙に思われても、故郷の風習といえば問題ないだろう。
「私はミューネ。『ミューネ・ラトリーナ・オルキュリア』…ペトラとは幼馴染で、一緒に遂行者をやってるわ。よろしく」
そう言うと、ミューネが右手を差し出してきた。
(…握手、でしょうか?)
「はい、よろしくお願いします」
リベレッタも右手を差し出し握手を交わす。
「…ふーん、なるほどね」
ミューネがリベレッタの顔をジッと見つめた。
「私の名前を聞いて手を差し出されても膝を折らないって事は、確かに この辺りの人間じゃないみたいね」
「名前…ですか?」
リベレッタが発言の意味を理解しかねていると、ペトラが横から説明に入った。
「ミューネちゃんの名前にある「オルキュリア」は南の王国でも有名な貴族の家名なんですよ。つまりは お嬢様ですね!」
(なるほど、それで王都の屋敷で食事や腹の探り合い…ですか)
どうやら この握手はリベレッタを試すのが目的だった様だ。
流石、腹に一物を抱えた貴族たちの中に居るだけはある。
「まぁ、貴族って言っても私は分家の人間だけどね。だから遂行者になっても特に家からの お咎めもなし。自由なものよ」
「一応、組合にはオルキュリアの名前を外して登録してるけどね。家名を利用する目的の指名とか来ても嫌だし」
(組合に登録…なるほど、『エグゼ』は遂行者の略称ですか)
しかし、先程リベレッタを試した際、まさに家名を利用していた気がするが…
「でも、そう言うペトラだって…」
ミューネが不敵に笑いながらペトラの方を見た。
「あの伝説の魔女『エリザ・クロムネル』の孫じゃない」
(伝説の、魔女…?)
『伝説』という言葉の響きに リベレッタの感情モジュールは緊張と、少しばかりの高揚を感じていたのだった。