大変申し上げにくいのですが
通信事業、電化製品、医療機器…様々な分野で成功を収め世界のTOP3に入るまでに成長した大企業『フリード・エレクトロニクス』
その本社がある中心街から150㎞ほど離れた場所に、主要エネルギーの切り替えに伴って破棄された発電施設があった。
本来ならば無人であるはずのその施設だが、この日 地下でとある新型兵器の起動実験が行われていた…
「内部エネルギー値 更に上昇!依然として こちらからのアクセスが全て拒絶されています!」
「防衛システムへのハッキングにより実験室、指令室ともにシェルターが閉じられません!」
「2番と5番の隔壁閉鎖…非常通路へのドアもロックされました!我々を退避させない気か…!」
「重力観測値が臨界点を突破!空間消失を目視で確認…もう駄目だぁ!!」
「おのれぇ、死して尚 私に歯向かおうというのか…っ!!」
『庵藤博士!!』
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「う~ん、前はこの辺りにも生えてたんだけどなぁ…もう無いのかなぁ…」
ブツブツと独り言を呟きつつ、彼女『ペトラ・クロムネル』は手にした長い杖で草を払いながら森の中を探索していた。
「…やっぱりアレのせい、だよね…?」
そう言って顔を上げた視線の先には、まるで巨大な虫にでも齧られたかの様に枝や葉を失い、綺麗な青空を見通せる様になってしまった木々が並んでいた。
「ん~、マゴラタケは薄暗い場所にしか生えないから、これだけ明るいと もう生えてこないのかなぁ」
ペトラは しばらくその場に立ち止まって周囲の状況を再確認していたが、不意にしゃがみ込むと今度は頭を抱え始めた。
「はぁ~…この穴場があったから安請け合いしたのに、『やっぱり無理でした☆』なんて言ったら またミューネちゃんに怒られちゃう…」
「…それに、早くお家を修理しないと雨漏りは増えるし、床は腐るし隙間風は吹くし、虫やラットンは入って来ちゃうしシャワーも壊れてるしベッドはカビ臭…」
―スンスン
「…ちゃんと洗ってるし変な臭いとかしない、よね?」
幸い水道はまだ使えるので乙女の尊厳は守られていた。
「とにかく、こんな事で信頼度を下げる訳にはいかないし、もう少し奥の岩陰とかも探してみよう」
ペトラは立ち上がりローブの裾を2,3度叩くと、軽く深呼吸をしてから森の奥へと歩き始めた。
―ガッ
「うえぇ!? へぶッ!」
しかし、数歩進んだ所で草に隠れていた何かに足を取られ、ペトラは顔面から草地へ突っ伏した。
「ぺっ!ぺっ!う~、今日はとことんツイてない…」
顔を拭い髪を整え、咄嗟に投げ出してしまった杖を探すため、四つん這いで草の中へと手をのばすペトラ。
「杖~、杖は~…あ、これかな?」
コツンと手に触れた硬い物が棒状である事を確認すると、ペトラはそれを掴み自分の元へと引き寄せる。
「あれ、何かにっ、引っかかってる…っ?」
しかし、やや弾力のある抵抗によって一定以上こちらへ来ようとしない。
「ん~?ツタでも絡まっちゃったのかなぁ」
上下左右、更には捻りを加えて抵抗を外そうと試行錯誤を重ねていたその時―
「大変申し上げにくいのですが」
「んえっ?」
突然 声がしたかと思うと掴んでいた棒の先でグイッと何かが起き上がった。
「それは私の左腕です」
申し上げにくさを微塵も感じさせない淡々とした口調で、草の中から現れた女性はペトラにそう言い放つのだった。