精霊の力
翌日。父さんの知り合いに会いに行くことになった。実は初めて家の外に行く日でもある。
「アーサーは城下街に行くのは初めてね。はぐれちゃダメよ」
「大丈夫!しっかりついて行くから!」
「じゃあ行くぞ」
初めて来た城下街はとても活気が溢れていた。食べ物屋や、アクセサリー店、カフェなど様々な店が並んでいる。
「わぁー!凄いなぁー」
「そうだろ?ここの城下街はどこの国にも負けないぐらい活気に溢れているからな」
「あ、アストさん!よって行かないかい?」
「アストさーん!おはようございますー!」
通りを歩いていると周りの人が父さんに声をかけてきた。どうやら父さんはかなり人気があるらしい。
「すごいでしょ?家ではあんな感じだけどみんなはあの人のことを慕っているのよ」
「へぇー」
「さ、行きましょ。遅れちゃうわ」
「あ、母さん待って!」
母さんが先に行ってしまい、急いで追いかけようとしたその時━━
ドンッ!と、誰かにぶつかってしまった。
「うわっ!す、すいません・・・」
「あ?ガキが、気をつけやがれ!」
ぶつかった相手は袋を持った小柄な男でフードを深く被っていた。男はは俺をにらみつけて去っていった。
・・・けて━━
「うん?今なにか・・・」
「アーサー?置いてくわよー」
「あ、待ってー」
気の所為だったのかな?
「さ、着いたぞ」
「え?でもここって・・・」
二人に連れられて着いた場所はどう見ても・・・
「お城じゃん!?父さんの知り合いって城にいるの!?」
「ああ、その通りだ。ここで仕事をしているんだ」
城で仕事をしてるって、一体どんな人なんだろ。などと考えていると城から見慣れた顔が走ってきた。
「あ!父さん!母さん!ちょうどよかった」
「ラース?そんなに慌ててどうしたの?」
「大変なんだ!セリア姫が攫われたんだ!」
「な!?それは本当か!?」
「本当だ!今朝姫様の部屋を訪ねたら部屋に手紙が残されていて、「セリア姫は預かった。返してほしければ我々人間に降伏するのだ」って!」
「攫ったやつの特徴はわかるのか?」
「話によるとフードを深く被った怪しい小柄な男を見たという人が何人かいるらしい。もしかしたらそいつかもしれない」
フードを深く被った小柄な男?それってまさか!?俺は考えるより先に体が動いていた。
「アーサー!?どこに行くの!」
ごめん母さん。でも急がないと。
「確かこの辺りで・・・」
さっき男とぶつかった所に男の匂いが残っていた。人狼族に転生してから匂いがどこに行ったかがわかるようになっていた。それに男の匂いに別の匂いが混じっている。恐らくセリア姫だ。
「匂いはこっちに続いてる・・・けど」
匂いは街の外に続いていた。非常に困った。外に出るにしても門番のチェックを通り抜けないといけない。子供の俺は外に出られない。
「どうすれば・・・・・・あ」
良い、とは言えないがアイデアは浮かんだ。やれるかわからないけどやらないよりはマシだ。
━━ある馬車━━
「では馬車を少し調べさせていただきます」
「えぇ、どうぞ」
門番は馬車の中や荷物を確認すると御者に伝えた。
「問題ありません。どうぞお気をつけて」
「どうも」
御者は門番に会釈し、馬を走らせた。
馬車がしばらく走っていると馬車の下から何かが出てきた。
出てきたのはアーサーだった。
「ふぅ。危なかった」
馬車の下に張り付くとかいう忍者ぽいことをすることになるとは思わなかった。
普段から父さんに鍛えてもらってるおかげかな?
そんなことより急がないと!
森をしばらく進むと古い小屋が見えてきた。
恐らくあそこだ。少し近づいて聞き耳を立てる。嗅覚だけじゃなくて聴覚もかなり発達しているようで、離れたところの音も聞こえる。
「上手くいったな」
「ああ、あとは身代金を要求すればいいだけだ」
「だな。少ししたらここから離れるぞ」
相手は2人だけ。だが、どうやって助ける?今持ってるのは護身用に持たされているナイフが1本だけ・・・。あとは魔法が少しできる程度・・・。これじゃあ・・・
━━いや、こんなことで弱気になったらあいつに申し訳ないな。
よし、何かいい作戦はないか?
周りを見渡すと小屋の屋根が腐っているのに気づいた。
これは使える!
俺は屋根の上に思いっきりジャンプした。
「うわわわ、飛びすぎた。けど、このまま!」
俺はそのまま小屋の中の一人の上に落下した。
「オラァ!」
「グハァ!」
「な、なんだ!?」
「セリア姫を返せ!」
どうやら今ので片方は気絶したようだ。かなり高く飛んだのが幸をそうしたようだ。気絶した相手はどうやら豹人族でもう1人は鹿人族のようだ。
「は!何者かと思えばガキじゃねぇか。それにお前、さっき街でぶつかったやつだな。姫を返せだ?ガキのくせして正義の味方気取りかぁ?」
「あぁそうだな。確かに俺は正義の味方を気取っているだけかもな。だが俺は誓った。誰になんと言われようと人の命を見捨てたりしない。そのためなら俺は命も惜しくない!」
「へぇー、ガキのくせに言うじゃねぇか。だが、ガキのお前は俺に勝てるのかなぁ?」
男は剣を抜いた。確かなそうだ。今の俺で勝てる見込みはない。けど、やるしかない!
「死ねぇー!!」
「はぁァ!!」
男が振り下ろした剣をナイフで受ける。だが、子供の力だと男の力を受けきれない。
俺は力を少し弱めて剣を受け流した。
「な!?」
「たぁ!」
バランスを崩した男に向かってナイフを突き出した。
「ちっ!お前、ただのガキじゃねぇな。何者だ」
「ただの貴族の息子だよ」
「貴族ねぇ。だが、お前は俺に勝てない。
水の精霊よ。我が身を霧で包め。『ミラージュ』」
「これは、霧?」
どこからともなく霧が表れ、男が見えなくなった。
ここは狭い、外に出ないと!
急いで外に出たが、外にも霧が充満していた。
「く、どこだ!出てこい!」
霧のせいで周りが見えない。男の気配を探るために意識を集中した。その時後ろから気配を感じた。
「そこだ!」
だが、俺のナイフは空を斬った。
「はい、残念でした」
「な!?ガハッ!」
男は後ろから俺を吹っ飛ばした。
「『ミラージュ』は残像を作れるんだ。まんまと引っかかってくれて助かったよ」
「そん・・・な」
「ま、ガキにしてはよくやったよ。だが、ここまでだ」
俺は、また死ぬのか?誰も助けられないまま・・・
「━━アーサー。アーサー。諦めないで」
誰だ?俺に話しかけてるのは。
「私は火の精霊。あなたに力を貸してあげる。さぁ、唱えて」
「フレイム・・・チェーン」
そう唱えると男の周りに炎の鎖が現れた。鎖は男の体を締め付けた。
「ああああああああぁぁぁ!!!なんだこれは!あつい!あつい!」
鎖の炎が燃え移り男の体を燃やした。
「もういい!消してやってくれ!」
「わかったわ」
すると、男の火は消えて男は倒れた。
「はぁ、はぁ、たお・・・したのか・・・?はぁ、はぁ、意識が・・・」
そのまま俺の意識は沈んでいった。
━━剣の練習━━
「よし!遠慮なく打ち込んでこいアーサー!」
「行くぞー!」
俺は地面を蹴り父さんに突っ込んだ。
「勢いは良いが・・・、まだまだだな!」
「うわぁ!」
父さんは突進切りを受けると、そのまま俺の木剣をはじき飛ばした。
「ハッハッハッ。まだ甘いな!」
ヒューン━━━コツン! 「イッタァ!」
「え?」
飛ばされた俺の剣はそのまま近くにいた母さんの頭にぶつかった。
「あーなーたー?」
「あ、いや、その・・・」
「しーらない」
その後父さんがどうなったかは言うまでもない。