それぞれの思い
目が覚めるとベッドの上で寝かされていた。どうやら誰かに運ばれたらしい。
「いてて・・・。あの後どうなったんだ?」
「それは私が説明しましょう」
声の方へ向くと学院長━━もといキール先生が横で椅子に座っていた。
「アーサー君、体は大丈夫ですか?」
「は、はい。少し痛みますが。・・・あの、ここはどこですか?」
「ここは学院の医務室ですよ。君たちが倒れた後にここに運んだんです。・・・・・・ふむ、大丈夫そうですね。私の薬を飲ませたので、しばらくしたら調子も戻ってきますよ」
先生は回復魔法では治せない病気の薬を作っている人で、科学者であり、医者でもあるのだ。お礼を言おうと思ったのだが・・・
「はい、ありが━━変なもの飲ませてませんよね?」
数ヶ月に妙な薬を飲まされたことを思い出してしまったのだ。あの時のことを思い出すだけでもう・・・
「いえいえ!怪我人にそんなことしませんよ。私はそこまで酷くはありません」
「魔物の体を解剖しながらニヤニヤしてる人の言葉とは思えませんね」
たまたま見てしまったが、あれは普通の男がする顔じゃない。アニメのヤバい人の顔だ。
「と、とにかく。今日はしばらく休んでてください。無理をすると体に響きますので」
「話しそらした・・・」
少々呆れていたが、ある事を思い出した。
「ところでセリアは大丈夫ですか?」
「ああ、セリアなら隣の部屋で休んでますよ。君と同じでそこまで酷くはなかったので、もう起きてるかもしれません」
「そうですか。よかった・・・」
結構思い切りやっていたから大丈夫かと少し心配していたが大丈夫のようだ。
「そうだ、大会のことを説明しておきますね。君が勝ったあとにロット君とセレナ君の試合が行われたのですが・・・勝ったのはセレナ君でした」
「なっ、ロットが負けた!?」
衝撃的だった。ロットが負けるとは夢にも思わなかったのだ。
「私も驚きました。私もロット君の強さは理解しています。セレナ君も相当の実力者ですが、正直なところ、ロット君の方が上です。けど・・・」
先生が言うには途中まではロットが優勢だったが、突然セレナの動きが速くなり、対応しきれなかったロットは顎に膝蹴りをくらって気絶したそうだ
「・・・・・・」
「そしてセレナ君が決勝に勝ち上がりました。つまり決勝は君とセリア君が戦う訳ですが、君が倒れて万全な試合ができないだろうと判断して明日に決勝をまわしておきました」
「そう・・・ですか。ありがとうございます」
「アーサー君。正直に答えてください。セレナ君のこと何か知ってるんじゃないですか?」
「・・・・・・」
「君が何を隠しているのかわからないけど、君の事です。周りに迷惑をかけたくないと思っているのではないですか?」
先生は優しく俺を見ていた。
「一人で悩まないで私やみんなに相談しなさい。一人で抱え込んでいたら身がもたないですよ」
「・・・・・・はい。ありがとうございます先生」
少し気が楽になった。先生の言う通り。一人で悩んでても仕方ないよな。普段はあれだが、こういう時は頼れるいい先生だと思う。
「それで・・・何があったんですか?」
俺は何があったかを先生に全て打ち明けた。
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「なるほど・・・そんなことがあったのですか」
「今サラがセレナを見張ってくれているはずです」
「よし、わかりました。私の方でも調べておきます。でも明日の決勝はどうします?中止にしてもいいですが・・・」
「いえ、やります。実際に剣を交えて確かめたいんです」
それに・・・ここまで来たら優勝したいしな。
「・・・わかりました。君がそう言うならそうしましょう。それでは私は戻ります」
「はい、ありがとうございました。あ、ロットの部屋はどこですか?」
「ロット君ならセリアの隣の部屋ですよ。それではまた明日」
先生が出て行くと、俺はベッドから起きて体を伸ばした。
「ん〜〜!よし、セリアの様子を見に行くか」
伸び終わってベッドから立ち上がったが、少しふらついてしまう。歩けないほどじゃないが、やはり無理は禁物だろう。壁伝いに歩いて部屋を出て、隣の部屋の扉を叩く。
「セリア、起きてるか?」
「アーサー?入っていいわよー」
部屋に入ると、ベッドにセリアが座っていた。
「お疲れ様アーサー。決勝進出おめでとう!」
「ああ、セリアもお疲れ様。楽しい時間だったよ」
普段と変わらない笑みを浮かべているが、その表情はどこか落ち込んでいるように見える。
「セリア・・・えっと・・・」
何を言おうか迷っていると、突然セリアが笑いだした。
「ふふっ、やっぱりアーサーにはバレちゃったか。私そんなに落ち込んでた?」
「・・・ああ、だいぶ落ち込んでるな。やっぱり・・・」
「そっか、正直に言うとすごく悔しいわ。でもそれ以上に楽しかったの。アーサーとずっと戦ってみたかったからね。だから気にしないで」
「うん・・・」
「も〜、そんな顔しないの!明日決勝に挑む人がそんな顔してどうするのよ。ほら、笑って」
さっきとは違って偽りのない笑みをセリアは浮かべていた。
「・・・そうだよな。俺がこんなのじゃダメだよな。ごめんなセリア」
「いいのよ。そうそう、やっぱり笑ってるのが1番よ。ほら」
「ああ」
お互いに笑って、握った拳を前に出してぶつけ合った。
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「それじゃあ俺ロットの様子見てくるよ」
「わかったわ。それにしてもセレナにそんなことがあったなんて・・・」
「まだ何が起こってるのかはわからないけどセリアも注意しておいてくれ」
「うん。気をつけるわ」
そうして部屋を出た俺は、さらに隣のロットの部屋の扉を叩いた。
「ロット?俺だ、アーサーだ」
「・・・・・・入っていいぞ」
ロットにしては小さい声だったが、とりあえず部屋に入る。部屋にはセリアと同じようにベッドに座るロットがいたが、一目見ただけでは誰だかわからないほどにどんよりとした雰囲気を出していた。ロットの周りだけ暗く見えるのは気の所為だろうか?
「よ、よう。お疲れ様。・・・その、なんだ。残念だったな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「元気出せよ。誰だって負けることはあるさ。この負けを次に活かせばいいじゃないか。そうだろ?」
「・・・・・・・・・そうかな?」
「そうだよ!俺たちは負けることで学んで強くなれるんだ。勝つことだけが全てじゃないさ」
「・・・・・・」
相当落ち込んでるなこれは。ロットにとって女の子に負けるのが衝撃すぎたんだろうな。
とりあえず慰めよう。
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「そうだよな!次をもっと頑張ればいいよな!」
「あ、ああ。そうだとも」
立ち直るの意外と早かったな・・・。それがロットのいい所でもあるけど。
「アーサー、ありがとな。元気が出たよ。けどひとつ言わせてくれ。何か悩んでるなら言えよな。俺たちは友達だろ?一人で抱え込むんじゃねーよ」
「・・・ああ、そうだな。すまない。散々俺が友達だって言ってたのに俺がこんなんじゃダメだよな」
「全くだ。人のこと言えねーぞ」
こうして色々と話していると突然ロットが━
「よし!また負けないようにトレーニングするか!」
「いやいやいやダメだ!下手したらお前が一番重症なんだからな!今日は休め!」
「いや!俺は鍛えるぞ!」
「だからやめろ!」
このロットの鍛え癖は何とかならないものなのだろうか・・・。
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とりあえずロットとは今度模擬戦をすると約束をして休んでもらった。竜系の種族はみんなあんな感じなのだろうか?よくわからん。
考えながら部屋に戻ると、サラが待っていた。
「あ、アーサー。お疲れ様。もう大丈夫なの?」
「ああ、少しふらつくけど問題ないよ」
「よかったー。ちょっと心配してたんだからね」
頬を膨らまして少し怒っているようだ。
「ごめんな、心配かけて。それで、セレナはどうだった?」
「うん。ロットと戦った時のことは聞いた?」
「学院長から聞いたよ」
「そっか。さっきセレナは寮に戻っていったんだけど、やっぱり特に何も無かったよ。何も無さすぎて逆に怪しく見えちゃうぐらい」
「そうか・・・」
だがやはり気になる。学院長も言っていたが、セレナはかなりの実力者だが、はっきり言ってロットよりは低い。偶然と言うには納得がいかないレベルの実力も出している。やっぱり何かありそうだ。
「こんな時に父さん達やノアさんがいたらいいんだけど」
「王様は今他国との会議にいってるんだっけ?」
「ああ、あと2日は戻らないそうだ」
だが、学院長も調べてくれるみたいだし、少なくとも明日には何かがわかるはず。
「今は体を休めるのが1番だな」
「そうだね。アーサー、絶対勝ってね!」
「ああ、絶対勝つ!」
明日絶対に勝つという意気込みを胸に俺は体を休めるのだった。
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