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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

テンプレチート主人公とおぼしき少年と遭遇したので、隠密スキル使って観察してみた

作者: カズキ

 ーーそうだ、暇潰しに話をしよう。

 いや、なに、いつもの俺の趣味だよ。

 気分が悪くなったら立ち去ってくれ。

 これは俺の暇潰しであり、君の暇潰しでもある。

 君が立ち去れば俺は話をやめるし、君も話を聞かなくて済むだろ?ーー





 贅を凝らした荘厳な建物。

 とある大陸の、とある国にあるお城。

 その城内の中でも、特定の人物しか入れない場所で、俺は目の前で繰り広げられている顛末を観察していた。

 当たり前だが、誰も俺に気づいていない。

 スキルと呼ばれる異能力。

 その中で【隠密スキル】と呼称されるものを俺は所有している。

 それを使用して、仕事であるこの城の情報を収集した後、偶然この場所を見つけたのだ。

 ここは、異世界から【勇者】や【聖女】等を召喚するための神聖で特別な場所である。

 今現在、この場所にはこの国で一番偉い王様とその子供である王子様に王女様、召喚魔法を行使した神官達、そして、どうやら集団転移させられたらしい二十人弱の、俺とそう歳の変わらない十代半ばほどの少年少女達がいた。

 その中に、所謂キモオタとか言われていじめの対象になってそうなのが一人。


 集団転移した者達に、王族から経緯の説明が入る。

 おーおー、嘘八百並べてら。

 世界征服を狙ってるのは魔族じゃなくてそいつらだぞ、転移させられた勇者さんたち。

 朗々とした演説にも似たそれに、俺は口を手でおさえ笑いを必死にこらえる。

 作り話もここまでくると立派すぎて笑い死にしそうだ。

 な~にが、世界平和のために魔王を倒せ勇者達よ、だ。

 ひとしきり場を温めた後はお待ちかねのステータス確認タイムである。


 はい。

 集団転移×ステータス確認×いじめの標的っぽい子がいる=陰湿な排除が始まるよ~(歌のお兄さん風)。


 人間って本当、醜いな。

 あははは、集団心理も怖いなぁ。

 ほぼ全員が、何かしらのチートスキルを持っていることが判明した。

 というか、チートスキルという名称がいただけない。

 ふつうにズルスキルで良いじゃないか。

 無駄に横文字にするから、格好よいものだと勘違いしてしまう。

 まぁ、でもこの召喚させられたガキ共はどこからどう見ても、日本人だ。

 日本人の習性なのだろう。

 ズルをチートと言い換えれば、それだけで罪悪感が薄らいでしまう。

 気づいていないのだろうが。

 それは、ともかく。

 あのイジメの標的にされてるヤツ、ステータスカードを奪われて晒され、つるし上げられてる。

 あははは、ほんっとう、醜い。

 イジメてる方、それが自分に返ってこないと思ってるんだろうなぁ。

 おや?

 おやおやおやぁ?


 イジメられてる方、すっげぇ泣き顔なのに怒り、いや、憎しみと恨みのオーラすげぇ。

 でも、顔は諦めモードだ。

 すんごいストレス溜めてんだろうなぁ。

 この顔はそういう顔だ。


 怒りたいのに、それを主張できない。

 主張すればどうなるのか知っているのだ。

 やめろ、気分悪い、そんなことして楽しいのか? それを口にすればイジメてる側は自分達が悪者になるのを避けるために、逃げようとする、自分達を正当化しようとする。

 なにムキになってんの? バカじゃないの? 言われる方が悪い。そんな言葉で自分達は悪くない、と正当化しようとする。

 それを、経験してきた顔だ。

 何を言っても弱いヤツが悪という絶対的な正義。

 いや、イジメをしている加害者側にはそもそもイジメをしているという実感がないのだ。

 からかったら、相手の反応が楽しかった。

 それだけだ。ただイジッて遊んでいるだけなのだ。

 だから、相手が不快感を示してもどうして不快感を持ったのかわからないのだ。

 わからないからこそ、『何故、ムキになってるのか?』なんて人を傷つける言葉が出てくる。

 この言葉の中には、自分達は悪いことをしてない、だから相手が怒るのは筋違いだという感情が無意識に含まれている。


 自分は悪くない。それは免罪符にすらならない。

 

 俺は、そんな人の醜さが凝縮した光景を観察し続ける。

 助けはしない。

 あのイジメの被害者らしき少年ーー名前は、ヤマトか。

 これは、ヤマト少年の問題だ。


 それと、俺がここにこうして潜入しているということがバレると仕事に支障が出るからだ。


 





 ーーあぁ、もうひとつ、理由がある。

 俺には彼を助ける理由がない。

 ただ、イジメられてこれから起こるであろう事態を見続け娯楽にする。

 漫然と助けを待っていた所で、誰も助けてはくれないからな。

 不満そうだな?ーー


 ーーなるほど、なにも言わなくても助けるのが人として当たり前だろって? 

 たしかに一理ある、しかしだよ、俺は正義の味方ではないし、さっきも言ったように助ける理由がないんだ。

 そもそも、他人を慈しみ痛めつけないのが人としての『当たり前』だろ?

 しかし、それは俺ではなくヤマト少年を虐げていた者達に向けられる言葉だ。

 何度も言うが、俺には助ける理由がない。

 物語のように繰り広げられる光景を見て楽しむことくらいしかできない、弱者なんだよ。

 そんなに言うなら、君が正義の味方になればいい。

 助けられるのが当たり前。虐げられるくらい弱い存在なんだから助けられて当たり前。

 俺はそういう甘ったれが大嫌いなんだ。

 たしかに根性論さ。でも、だからこそだよ。

 俺の時は誰も助けてはくれなかったのに、何で俺が見返りもないことをしなければならない?

 逆に助けなければ、俺は他人の不幸を見て笑うことができる。

 他人の人生を鑑賞して楽しむことができる。

 この能力はそのためのものだ。

 所で、気分が悪くなったら立ち去ってくれて良いと言っただろ、まだ続きが聞きたいのかな?

 そうか、では続けよう。

 それと、俺は君が思うほど優しい人間ではないよ。

 違うって?

 ははっ。君にだけは言われたくないな。

 俺は、さっきも言ったが漫然と助けを待つ者より、抗う者の方が好きなんだ。

 助けがきても、来なくても、それでも抗い戦うことを選ぶ者の方が共感できるし、助けようと思う。

 なにしろ、俺は諦めた側だからな。だからこそ戦うことを選んだ存在には敬意をはらうし、諦めたからこそ手に入れることができたこの力を貸そうとする。それだけだ。

 立ち去る気は無い、かーー



 



 やがてヤマト少年は、持っていたスキルと得た職業ーー役割のカスさが明るみになり、集団転移した者達ーー群れの中でも爪弾きになってしまった。

 ここで、俺は一度手に入れた情報を依頼主へ渡すためその場を離れた。

 この仕事が終われば、しばらくは休暇を取る予定だった。

 予定通り休暇を満喫するため、俺は再びヤマト少年の様子を見にきた。

 ヤマト少年は、ステレオタイプなデブで臭そうな少年であった。

 吃音もあるようで、よくどもったりスムーズに言葉が出てこないようだ。

 それも、群れから排除される理由なのだろう。

 とにかく人は自分達と違うものを徹底的に排除しようとする。

 地球の他の国ではどうか知らないが、少なくとも日本人に優しさなど無い。

 そう見えるのは、外面が良いだけだ。

 やつらはケチ臭い連中なのだから。






 ーーそんな人達ばかりじゃないって?

 そうなのかもしれない。でも、現代就職サバイバーの俺としては、とてもそうは思えない。

 苦しかったとき、辛かったとき、明日の稼ぎも食事すらままならなくなったとき。

 なんとかしようともがいた。

 そんな俺たちに、同じ日本人である不特定多数の連中がなんて言ったかわかるか?ーー


 ーーわからないよな?

 【自己責任】なんだから、全て失敗したお前達が悪い。だとさ。

 足掻いて足掻いて、足掻きまくって、食事すらまともに口に出来なかった、どうしようもない理不尽すべてを【自己責任】なんだからの一言で済まされ、そのまま餓死しろと切り捨てられたんだ。一体、あれでどれだけの奴等が死んだんだろうな?

 俺みたいな奴等は、とても冷酷だぞ。社会、国、それらから虐げられたんだ。だから、その子孫達に俺は優しくしない。

 成功し腹を満たすだけ満たして、手を差しのべることすらしなかった奴等を、その犠牲の上に生まれ、苦労もなく生きてきたガキ共をどうして助けなければならない?

 俺は、他人の不幸を見下し笑うだけだ。

 そうされてきたからな。

 君はさっき、何も言われなくても助けるのが【当たり前】だと言ったが、その【当たり前】を施されなかった俺には、それは当てはまらない。

 それは、君達甘ったれのご都合主義でしかない。

 でも、だからこそ、もがいて足掻いて、必死に戦おうとするやつらに、俺は手を差しのべる。

 抗って諦めないヤツは嫌いじゃないんだ。

 俺だって、人生を諦めたくて諦めたわけじゃない。

 抗って足掻いて、気づいたら社会に殺された。

 殺されたら死んでしまう。死んでしまったら、もう生き返れない。

 そういうものなんだよーー

 





 召喚させられた国から、スキルの使い方と戦い方をひとしきりレクチャーされた一部の少年少女達はその日、最初の試練を課せられることになった。

 邪竜の討伐である。

 クラスのリーダー格であり、とくに希少なスキル持ち達は後発隊として後からやってくるようだ。

 【帰らずの魔神域】と呼ばれる森。奥に進むほどに棲息するモンスターのレベルは高くなる。

 そこの主とされる邪竜の討伐だ。

 この【帰らずの魔神域】には森だけでなく深い谷や、毒水の流れる川、切り立った崖などがあり、まず普通の者では立ち入ることができない。

 装備を整え、正規軍を編成したとしても、邪竜の巣にまでたどり着くことも難しいだろう。

 オヤツと水筒を手に、俺は一服しながら少年少女達の行軍を木上から鑑賞していた。 

 先を進まされるのは、ヤマト少年である。

 いわば死番、生け贄だ。

 何かあったら、ろくに訓練も受けさせてもらえなかった彼が一番に犠牲になるのだ。

 食事も最低限だったのだろう、かなり体格がすっきりしている。

 いや、でもおかしいな。

 この短い期間であそこまで痩せるか?

 まぁ、いいか。

 それにしても、あまりにも予定調和すぎてさすがに苦笑しか出てこない。

 誰か一人でも良心の呵責でヤマト少年に手を差しのべるかと思いきや、多数の意見と空気に流されている。

 一人、二人は訓練中、クラスのリーダー格らしき奴等に進言していたが、同じ目に合いたいのか? という脅しにあっさりと抵抗も進言も諦めたようだ。

 それにしても、ここに派遣された少年少女達は気づいているのだろうか?

 ヤマト少年だけではなく、全員が先発隊という名の下に切り捨てられたということに。


 俺は最近完成したという試作品の携帯端末から、索敵魔法を発動させる。

 使用した感想も後日報告しなければならないので丁度いい。

 基本、隠密スキルしか持たない俺にはありがたい万能の魔法杖である。

 思った通りだ。

 半透明の画面が浮き上がり、俺の目の前に展開している。

 そこには後発隊らしきものが赤い点として表示されていた。

 詳しい情報を読み取ろうと画面を操作する。

 あぁ、くそ、うまく反応しないなっとよし読み取り成功。

 

 どうやら後発隊は、先発隊の様子を逐一観察しているようだ。

 先発隊が邪竜と戦ってある程度消耗させたところで、颯爽と登場してその首を取って手柄にするつもりなんだろう。 

 あの国の方も、確実に邪竜を仕留めるためにこの作戦にしたようだし。

 しかし、である。

 仮にも邪竜は一部では【荒ぶる神】として恐れられている存在だ。

 ニンゲンの浅知恵でどうこうなるとは思えない。

 とりあえず、後発隊はしばらく動かないだろうしあのヤマト少年はっと。

 お、いたいた。

 下級モンスターと遭遇か。

 ん?

 おいおい、先発隊諸君ビビって動けないとかさすがに無いんじゃねーの?

 今まで何を訓練してたんだか。


 実践と練習は違う。

 そして、ゲームみたいな世界だとはしゃいでいたツケが回ってきたんだろうな。

 って、あ、ヤマト少年が襲われた。

 それと同時に逃げるなよ、先発隊。

 さて、更に大変なことになってしまった。

 オヤツのスナック菓子が切れてしまった。

 食い過ぎたなぁ。

 と、ここで事態が急変した。

 ヤマト少年が持っていたナイフで応戦し、魔物を倒してしまったのだ。

 これには先発隊全員が唖然。

 俺は、面白くなってきたのでスナック菓子のことは気にならなくなった。

 





 ーーその場にいた君なら知ってると思うが、こういう場合、マンガなんかだと主人公は賞賛されていたことだろう。

 でも、現実は違った。

 君の記憶の通りさ。命の恩人でもあるヤマト少年に言葉の刃が向けられたーー






 ヤマト少年以外の先発隊の面々は、助かったと言うのに今まで弱いからと虐げてきた彼の功績を否定した。

 まぐれである、と。

 中には、今までその強さから訓練をサボっていた卑怯者呼ばわりしたり、裏切り者呼ばわりしたり、嘘つき呼ばわりする者もいた。

 あははは、ニンゲンってこうだよなぁ!

 そうそう、この醜さが人間だ!

 さぁ、ヤマト少年、どう対応する?


 俺が見ていると、ヤマト少年が口を開いた。

 彼を取り囲むオーラがどす黒い。

 怒りをかなり抑えてるみたいだが、爆発寸前と言ったところか。

 感情を抑えたまま、ヤマト少年は口を開いた。


 魔法で視力を上げてその唇を読む。



 『言いたいことはそれだけか?』


 同時に殺気。

 ある種の逸材だった。

 ずっと磨いでいた殺意を少しだけヤマト少年は見せたようだ。

 

 『なら、僕は嘘つきの卑怯者で裏切り者だから、ここで別れるよ。

 グッドラック』


 良い性格してるな。

 少年が言い終わった瞬間。

 それが現れた。

 黒い影がヤマト少年と先発隊の頭上に現れたのだ。

 全員が、空を見上げるのと邪竜が咆哮をあげ襲いかかってくるのは同時だった。

 危なげなく、ヤマト少年はその場を飛び退いて難を逃れたが、他の者達は潰されるか一瞬で喰われてしまった。

 それを、目を丸くしてみていたヤマト少年だったが、慎重にその場から逃げようとする。

 一人では倒せないとわかっているのだ。

 俺は索敵画面を確認する。

 後発隊がこちらに向かってきてるようだ。


 よほど、いま食べた餌が美味かったのか邪竜は、自身が潰してしまった餌もその巨体を動かして食している。

 と、その時。

 ヤマト少年の存在に気づいたようだ。

 後発隊はまだ着かない。

 着いたところで彼らも一瞬だろう。

 ヤマト少年を見ると、下級モンスターを倒したナイフを握っていた。

 俺が最初に見たときのような諦めは、無かった。





 ーーこれも二度目だが。

 俺が君を助けた理由のひとつはそれだよ。ヤマト少年。

 君が諦めなかったからだ。あの小さなナイフでも抗って生きようと足掻こうしたからだ。

 もうひとつの理由は、この携帯端末の魔法を使ってみようとしたんだが、後発隊がきたから、使用は彼らが全滅するまで差し控えたんだ。

 調子に乗った勇者擬き達への邪竜による蹂躙は、あっけなさすぎて面白くも無かった。

 さて、そういうわけでヤマト少年。暇潰しはここまでだ。

 俺も腹が減ってきたから帰りたいしな。

 君はこれからどうする?

 このまま、君たちを召喚した国にもどり虐げられた勇者として成り上がる人生を送るか、流浪の旅をして元の世界に戻る方法を見つけるか、それとも俺みたいな頭のおかしい狂人が所属する場所に保護されるか、あぁそうそうここで野垂れ死ぬってのもあるな。

 選択するのは君だ。

 もっとも、俺が帰れば選択肢の一つは自然消滅する。

 選ぶのは、君だ。ヤマト少年ーー


 

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[良い点] 一緒になって息を潜めて垣間見てる気になりました。 面白かったです! [気になる点] 毛玉飼ってるお家のご長男だったりしますか?
[一言] 青く捻くれたマイノリティの芳醇な香りがするぞ…… マジョリティに飲まれ流されかけながらも、己ではなく一般的な見方在り方の方を醜いものとし、己を失わず、更にはその己を発信してゆける貴方を尊敬す…
[良い点] なになになんですか。 こんな面白いの投稿してたんですか? 語り部と主人公を分けたのがナイスアイデア。 ヤマト少年も迫力あるなあ。ほんの数行でインパクトを発揮するとはお見事! [一言] 一…
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