花言葉でまた君と
この物語の前編を『恋愛短編集』の中の『花言葉』で描いています。
そちらからお読みいただくと、話がわかりやすいと思います。
ぜひ、『花言葉』からお楽しみください♡
「いつかねお父様におっきな観覧車を作ってもらうの」
「それは素晴らしいですね」
「でしょー?だからね、できたら一緒に乗ろうよ」
「そうですね。楽しみですよ。愛奈お嬢様」
「愛奈!愛奈!」
「お嬢様!愛奈お嬢様!」
「……梨桜奈お嬢様、戻りましょう。お嬢様がお風邪を召されてしまいます」
「嫌よ!愛奈…愛奈を見つけるまでは帰らない!」
「梨桜奈!」
「お母様!」
「戻りましょう。捜索は他に任せて……」
「嫌っ!愛奈―。愛奈――!」
「おはようございます」
「おはよう」
僕は天野大智、23歳。この市役所で働いている。
毎日毎日いろんな人と接するけど、まだあまりうまくできない。
「はぁ」
何度目だろう、ため息をはくのも疲れてくる。
あのときは、心のそこから笑えていたのに。中学校生活の中のたった一年。あのときだけは……
花宮さん
君にもう一度だけでいいから会いたい。あの、ほんわかとした笑顔が見たい。あのとき告白していれば、何かが変わっていたのだろうか。
会いたい
帰り道、ぼーっとしていたのか、変な通りに出てしまった。
知らない道。人に尋ねようにも、人がいない。
「嘘だろ……どうしよう」
チャ チャララ チャ チャララ チャララ
「えっ?」
楽しげな遊園地を想像させる音楽が聞こえてきた。
「なんだろう……」
僕の足は自然とそこへ向かって行った。
「うわぁ!」
気がつくと目の前に見上げても一番上が見えないほどの大きな観覧車があった。
「こんばんわ」
「え、あ、どちら様…ですか?」
「失礼いたしました。私は、 と申します」
丁寧に挨拶をしてくれた人は、タキシードを着てまるで執事みたいな格好をしている。なにかのアトラクションの人かと思っていると、
「天野さん。あなた、会いたい人がいらっしゃいますか?」
「えっ、まあ」
なんでわかるんだ。
「会いたいですか?」
「…はい、会いたいです。とても」
「それではこちらへ」
そう言われて連れてこられたのは、殺風景で、机と椅子がおかれているだけの部屋。
「あれ?羽嶋さん?」
いつの間にか一人になっていた。騙されたのかと思っていると
「こんばんは」
見ると、高校生ぐらいの女の子が一人たっていた。とても美しい少女だ。
「あの、波嶋さんは?」
「ここからは、私が話を聞きます」
「はあ…」
この子が?なんだか変なところに来てしまった。
「お相手の名前は?」
「えっと…花宮香桜梨さんです」
「生きていらっしゃいますか?」
「はい、多分生きてますけど…何でそんなこと聞くんですか?」
「必要なので」
ずいぶんさっぱりした言い方をする子だ。
「では、三日後このカードを持ってきてください」
「わかりました」
そう言うと、部屋から出て帰路についた。
どこをどう歩いたか全く覚えてない。気付いたら家の前に立っていた。
「なんだったんだろ」
不思議なことだが、手の中にあるカードが現実だと思わせる。
三日間、本当に花宮さんに会えるのか、会えたら何を話そうか。と、色々考えていると、あっという間に三日たった。
仕事が終わり、急いで外に出る。ふと気づいた。
「どこにいけばいいんだ?」
何も教えてくれなかったので、とりあえず以前のように歩いてみることにした。
しばらくすると、いつの間にか目の前に大きな観覧車があった。やはり、どうやってたどり着いたか覚えてない。
「お待ちしておりましたよ。天野さま」
タキシードに身を包んだ羽嶋さんが立っていた。
「こんばんは。……あの、本当に花宮さんに会えるのですか?」
「はい。お待ちしてますよ」
そう促され、観覧車に向かって歩き始める。
「どうぞ」
恭しくドアを開けてくれた羽嶋さんに礼を言って乗り込む。
「素敵な時間を」
「ありがとうございます」
「……天野くん?」
「えっ!本当に花宮さん?」
「そーだよ。天野くんが呼んだのに、ひどいなぁ」
そう言って少し困ったように笑った姿は、あの頃にそっくりだ。
「やっと会えた…」
「うん。本当に久しぶり、大体10年ぶりだね」
「ながかったよ。花宮さんのこと、ずっと考えてた」
「嘘。気になる人でもできたんじゃないの?」
「全くいないよ。あの花言葉をずっと覚えていた。……何で急にいなくなったの?」
「……」
「あっ、ごめん。聞かない方がよかったね」
「ううん。こっちこそごめん」
気まずい沈黙が流れる。
「いっ、今はどんな仕事をしているの?」
「今は、花屋さん。自分のお店を持てたの」
「すごいじゃん!」
「天野くんは?」
「僕は平和に地味に公務員です」
「そうかぁ、似合いそう」
仕事のこと、趣味のこと、花のこと…
他愛もない話をたくさんした。それだけで幸せだった。
「もうすぐ陽が上るね」
「あっという間だったな」
もう会えなくなるのか?二度と。
嫌だ
勇気を出せ、俺
「あのさ、…連絡先…交換しませんか?」
「いいよ」
あっさりOKされて、拍子抜けしてしまった。
「えっ、本当に?」
「あはは、そんな嘘つかないよ」
そう言って笑っている花宮さんの連絡先をゲットした。
ゴンドラが地面へ近づいて行く。
「連絡するね」
「うん。今日はありがとう」
「こちらこそ」
「お時間です。よろしいですか?」
羽嶋さんが扉を開けて声をかけてくる。
「あ、はい。じゃあまた……あれっ?花宮さん?」
「花宮様はお帰りになられました」
「いつの間に…」
「ご満足いただけましたか?」
「はい。とても」
「それでは、カードを」
「あっ、どうぞ」
「はい。確かにお預かりしました。では、気をつけてお帰りください」
「あの、ひとつだけ聞いてもいいですか?この観覧車は、誰が何故作ったのですか?」
「……小さい女の子の、夢が作りました」
「それに、こんなに大きいのにこれまで見かけたことなかった」
「願いが形になるのです」
「?…それは…」
「そろそろお帰りになった方がよろしいかと…早朝です」
「えっ!仕事!あっ、じゃあ帰ります。色々ありがとうございました。とても楽しかったです」
「それは何よりです。お気をつけてお帰りください。これからの幸せを願っております」
「ありがとうございました」
久しぶりにスッキリした。これなら何もかもがうまくいきそうな気がする。
「おはようございまーす」
いつもより明るい声が出る。すると、
「おっ、朝から元気だね。スッキリした顔をしている。なにかいいことがあったのかい?」
「はい」
「それはいい。若い者の明るさは、周りをも明るくするからね」
「はい」
それから、仕事は順調だった。何より、職場の人と仲良くなれた。今までのだるさが嘘みたいに仕事が楽しい。
順調に仕事が進み、一週間が過ぎた頃、花宮さんからメールが来た。
―この間は、ありがとうございました。とても楽しかったです。よかったら、今度の休日にでも食事に行きませんか? 花宮
僕は、すぐ返信した。
―こちらこそありがとうございました。食事、行きたいです! 天野
すると、すぐに返信が来た。
―よかったです。では、土曜日の11時に駅前の広場でいいですか? 花宮
―了解です(^-^ゞ
では、土曜日に。 天野
「やった!」
一人で飛び上がった。いつか連絡しようと思っていたが、なかなか連絡できずにいたのだ。それが向こうから連絡をくれるなんて。
その日の夜は興奮で眠れなかった。
土曜日。いよいよ待ちに待った花宮さんとの出掛けの日。いつもより時間をかけて支度をした。まるで、初デートの女子中学生だな、と、思えてきて可笑しかった。
待ち合わせの10分前には到着した。少しして花宮さんもやって来た。
「ごめんね。待った?」
「いや、俺もさっき来たとこだから」
今日の花宮さんは、花柄のワンピース姿で、彼女の白い肌によく似合っている。
「それじゃ、行こう」
それからカフェに行ったり、フラワーショップを見に行ったりした。
「ごめんね、私のいきたいとこばっかりで」
「いや、僕も楽しいよ」
「本当?」
「そんな嘘つかないよ」
「あはは、それ前に私が言ったよね?」
「そうだっけ?」
声をあげて笑う彼女は幸せそうだった。
「今度は、天野くんがいきたいところに行こう」
「えっ!」
「行きたくない?」
次があるとは思ってもいなかった。
「行く。行きたいよ」
「じゃあ、行きたいところ決めておいてね」
「分かった」
日がくれ始め、辺りが少しずつ薄暗くなり始めた頃、
「あーあ、時間がたつのが早いなー」
「そうだね」
「じゃあ、今日は解散しようか」
「うん」
「じゃあね」
「じゃあね……またいつか」
僕がそう言うと、花宮さんが笑って言った
「また『今度』ね」
手を振りながら、歩いていく姿が見えなくなると、僕も歩き出した。
「また今度、か」
彼女の言葉が嬉しかった。
―今日はありがとう。楽しかったよ。
「はぁ」
さっきから、10分ぐらいこうしている気がする。
「何をしているんだ、僕は」
花宮さんにメールする。それだけのことが今の僕には出来ないのだ。
「……よし。送るぞ」
送信完了の画面が表示される。
数分後、メールが来た。
―こちらこそありがとう。付き合わせちゃってごめんね(>_<) 花宮
―本当に気にしないで。楽しかったし、もしよければ、また行きませんか? 天野
―はい、ぜひ。楽しみにしてます。 花宮
「やった!自分から誘えたし……今度は、どこに行こうかな」
数日後、
チャチャチャチャラララ~
僕のスマホが鳴る。電話だ。ディスプレイには『花宮さん』の表示
「はい」
―もしもし。
聞こえてきたのは、男の人の声。
―花宮香桜梨さんが、病院に搬送されました。最後に連絡を取っていたのがあなただったので、連絡させて頂きました。
「えっ!あの……どこの病院ですか?」
―篠山総合病院です。
「わかりました」
篠山病院なら、車で10分ほどで行ける。
花宮さん――
「天野さんですか?」
「はい。あの、花宮さんは……」
「今は、落ち着いて眠っていらっしゃいます」
「彼女に何があったんですか?」
「……花宮さんの身内の方ではないですよね?」
「友達ですけど、心配なんです!」
「ですが……」
「先生!花宮さんが……」
僕は最後まで聞かずに駆け出した。
「花宮さん!」
静かな病室に声が響く。
「……天野くん?」
観覧車のなかとは違う弱々しい声が聞こえた。
「花宮さん……何があったの?」
「……」
「花宮さん。天野さんに、伝えてもよろしいですか?」
「……私には連絡を取れる身内がいないので…お願いします」
「天野さん。ついてきてください」
そう言って連れていかれたのは、小さい部屋。
「天野さん、話してもよろしいですか?」
「はい」
そう言うと、医師はゆっくりと話し始めた。
「花宮さんは、心臓の病気です。手術をしなければ、一年持つかわからない状態でした」
「……嘘」
「本当です。半年ほど前まで海外の療養所にいたのですが、急に、日本に帰りたいと言われて――」
それからの話は聞いていなかった。そういえば、観覧車で会ったとき、あのときは興奮していて気にしていなかったけど、町を歩くにはラフすぎる服装だった。
彼女が連絡をくれたのは4、5ヶ月前。日本に来て落ち着いてから、すぐに連絡してくれたのではないか。
「……さん、天野さん」
「あっ、はい」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それより、花宮さんに会わせてください」
「……わかりました。ただ、あまり花宮さんを刺激しないでください」
「はい」
「失礼します…」
「天野くん!……心配かけてごめんね」
本当に申し訳なさそうにする彼女の姿に心が痛む。辛いのは、花宮さんなのに……
「……あのね、中学生のときに病気が見つかって少し療養しようってことになって、引っ越したの。あのときは、あんな別れ方しちゃってごめんね。直接言うと、泣いちゃいそうだったから」
「ううん。あの花言葉は嬉しかったよ」
「良かった。療養生活もどんどん長引いて、あるとき、療養所に花壇を見付けたの。そしたら急に天野くんに会いたくなって……」
「あの観覧車にたどり着いた。…そうなんでしょう?」
花宮さんは頷くと、さらに話し出した。
「療養所の近くにこんなに大きな観覧車があったんだって驚いた」
「えっ!療養所の近くにあったの?」
「そうだけど」
「僕は会社の近くを歩いていたら、たどり着いたんだ」
二人とも黙り込んでしまった。
「……ま、それはおいといて。…それで、あの花壇は?」
「約束は守り続けているよ。君がいなくなってから、新しく女の子が来たんだ。君に似て花が大好きな子だったよ。卒業してからも時々見に行ってるけど、とても綺麗にされているよ」
「良かった」
「……ねぇ、手術受けるんだよね?」
「……受けられないの。ある程度お金はたまっていたんだけど、まだ足りなくて、借金は怖いし、もう働けないから諦めるしか…」
「諦めるなよ!僕も頼ってよ。……嫌かもしれないけど、僕は、僕は君のことが好きだから、君に生きていてほしいから」
花宮さんが目を見開いて僕を見つめている。それでも僕は話し続ける。
「君にとって僕は頼りないかもしれない。でも、こんなに誰かを好きだと思ったのは、初めてだった。……お願いだから、諦めないでくれ。僕には君がいなきゃダメなんだよ」
泣きそうになって、下を向いて唇を噛んでいた。
「……ありがとう。そんなに必要とされたことなんてなかったから」
彼女が泣いている。
「……あっ、あの…ごめん」
「ううん、嬉しいの。本当にありがとう」
「花宮さ……」
「手術、受けます」
そう言いきった彼女の目は、生きる希望に満ち溢れていた。
「おはよう」
「おはよう。よし、じゃあ、行こうか」
そう言って車を発信させた僕は、真っ直ぐにそこへ向かう。20分ほどでついた僕らはそこへ歩いていく。
「うわぁ、綺麗」
やって来たのは僕らの母校、天龍学園。花宮さんが見に行きたいと言っていたから、連れてきたのだ。
「すごーい!ちゃんとお手入れされてる」
「僕らが来た頃とは全然違うよね」
「あのときは酷かったもんね」
昔話に花を咲かせながら、30分ほど歩き回った。
よし、今だ!
「花宮香桜梨さん」
「どうしたの?」
「…僕とお付き合いしてください!」
「……ごめんなさい。お付き合いはできません」
「……」
「……天野大智くん」
「…えっ?」
「私と結婚してください」
「えっ!今なんて」
「だから、お付き合いはできないけど、結婚してください」
「……はい!」
「先輩、またその花植えるんですか?」
「もちろん」
「その、花宮先輩のために」
そう、僕は毎年アネモネを植える。
花言葉は、「君を信じて待つ」
読んでくださりありがとうございました!
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