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女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
序章 異世界への招待
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第6話 謎の文字

 オルドルさん達騎士に連れられ、僕らは王国の外の狩り場という所に移動した。

 これから騎士二人、生徒二人でパーティーを組んで、パワーレベリングというのをやるらしい。やると言っても、生徒側は騎士達の戦闘を間近で見るだけだ。


 本来は、低いレベルの者を一気に引き上げるために、それなりに強いモンスターと戦うらしいが、万が一の事故があってはいけないということで、今回倒すモンスターは結構弱いとのこと。

 注意事項を確認したあと、各チームごとに散らばり、周辺のモンスターを狩るという作業が始まった。


 出会ったモンスター達は、アイアンビートル、ビザールヘッジホッグ、ポイズントード、レイジマタンゴと呼ばれる小型の奴らで、騎士達はバッサバッサと切り倒していく。弱いモンスターというのは本当のようだ。

 それでも内に秘めた力は計り知れなく、油断して近づこうものなら、僕らではどんな目に遭うか分かったものでは無い。


「どうだみんな、レベルがどんどん上がっていくだろう」


 オルドルさんの言う通りで、僕のレベルもみんなと同じように普通に上がっていく。能力関係では散々ガッカリさせられてきただけに、これでレベルが上がるのも遅かったらどうしようかと思っていたところだ。

 ステータスを見てみると、さすがの僕でも魔法を習得していた。第一階の火炎焼却(ファイア)だ。

 今までのことがあっただけに、自らの成長にほんの少し安堵する。まあ習得したはいいけど、魔力回路の起動には全然成功しないんですけどね。



「オルドルさん、なんかまたスキルが付いたんですけど」

「あれ、私にも付いてる」

「オレもだ、2連斬とか書いてあるぞ」


 ……なにっ?


「おお、それは多分、昨日話したスキル技だな。必殺技みたいなヤツと教えただろ」


 あちこちで同じような声が上がっていく。またこの光景か……。

 言うまでも無く、まだ僕には付いてない。いや落ち着け、僕は成長が遅いだけで、あとで一気に伸びるタイプなのかも知れない。諦めたら試合終了と誰かが言ってたし。



「それにしても、諸君らはさすが異世界人、凄いスピードでスキルを習得していくな。通常考えられない早さだ」


 スキル技について説明を始めるオルドルさん。

『技術スキル』と違って、『スキル技』には熟練度のランクは存在しないらしい。つまり『2連斬B』というような事は無いのだそうだ。

 スキル技は、使用者のレベル上昇に比例して、その威力も上がるとのことだった。


 そしてスキル技には『共通技(コモンスキル)』と『固有技(ユニークスキル)』というのがあって、『固有技(ユニークスキル)』には強力なモノが多いそうだ。因みに『固有技術スキル』は存在しないらしい。



 ああ僕の前途多難が終わらない……。



 ◇◇◇



 狩り場から王国に帰ってくると、中央通りをこちらに向かって進んでくる馬車と出会った。僕はまだこの世界の物を詳しく見たことは無いが、その馬車は明らかに豪華な作りの物だった。恐らく、中に乗っているのはそれなりの位に居る人物に違いない。


「おや、オルドル・カピターン騎士団長殿では無いですか。ぞろぞろと小汚い子供達を連れて、一体どこに行ってきたのですか?」


 馬車の中から僕たちを見つけたと思われる男が、小窓を開けてオルドルさんに話しかけてきた。いつも快活な表情を崩さないオルドルさんの顔が固くこわばる。

 外見で判断して申し訳ないと思うが、蛇を思わせるような顔つきの痩せた男だった。薄く開けた目蓋の間から僕らを見下ろし、誰もが不愉快になるような笑い顔を浮かべて話を続ける。


「ははあ……さてはこいつらが噂の救世主様ですか。またずいぶんと頼りになりそうな子供達を喚んでくれたものですね。いつかみたいな失敗をなさらないことを祈ってますよ」


 皮肉交じりの言葉を残しつつ、その慇懃無礼な男は去って行った。


「オルドルさん、今の人は誰なんですか?」

「……この王国の西に大きな館を構えているセクエストロ侯爵だ。貴族院の一人でもあり、王国の実権の一部を握っている」

「なんかイヤな感じのオジサンだったわ」


 皆同じ印象を持ったようだが、僕にはもう一つ気になることがあった。


「いつかみたいな失敗」と言っていた。それは一体何のことなんだろう。


 僕たちには関係の無いことなのかも知れないが、僕は何故かその言葉が頭からずっと離れなかった……。



 ◇◇◇



「皆様、お帰りなさいませ!」


 宮殿の入り口で、二人の女性が僕たちの帰りを迎えてくれた。

 一人はこの国の王女フィーリアで、もう一人は騎士の格好をした金髪の女性。背はスラリと高く、髪は肩まで掛かったセミロングで軽くウェーブが掛かっている。

 王女専属の護衛騎士で、アイレ・ヴェーチェルさんという方だった。

 女性とはいえ、騎士団長のオルドルさんに次ぐ実力を持ち、その華麗な剣技から『疾風』の二つ名で呼ばれているらしい。


「今日は初の野外訓練と聞きましたので、心配で迎えにあがりました。皆様ご無事のようで安堵しております」


 この世の存在とは思えないような美少女が、穏やかな笑みを浮かべて僕らのことを気遣ってくれている。その可憐な姿に、思わず我を忘れた十数人もの男子が王女の元へと殺到した。


「王女様、この世界は絶対に僕が救って差し上げます!」

「いや、この僕にお任せを!」

「この世界のために、力の限りを尽くします!」


 召喚当初、あれほど悲嘆に暮れていた姿はどこへやら、次々と調子の良い発言が飛び出して、男子の慕情はヒートアップする。そしてそれを冷ややかな表情で見つめる女子達。


「皆様のお心遣いとても頼もしく思います。苛烈な訓練かと思いますが、どうかお怪我なさることの無いようお気を付け下さいませ」


 天井知らずに高まった狂熱をなんとか押さえ込んで、王女と共に僕らは宮殿内に入っていった。


「皆様、せっかくですので、食堂までご一緒致しましょう」




 みんなでいつもとは違う廊下を進んでいくと、ふと壁に埋め込んである、金属で出来たプレートに目が留まった。そこには何かの文字が書かれていたが、当然この世界の文字を知らない僕らには、それが読めるはずも無く……と思ったら、なんか読めるぞ。

 そっか、言葉が通じるんだったら文字だって読めてもいいよね。ステータス画面でも読めたしって、あれは日本語で書かれてたか。


「えーなになに? われ……き たりし ち ときの……」

「勇木、これ読めるのか?」


 あれ、みんなは読めないの?


「勇木様っ、この文字が読めるのですか!?」


 何故か少し興奮したような口調で、王女が僕に問いかける。

 なんだろう? 異世界人が読んじゃいけない文字だったのかな?


「えーはい、僕は読めますけど、なんかみんなは読めないみたいで……。何故僕だけ読めるのでしょう?」

「勇木様、この『預言の金属盤インヘリット・テスタメント』は『失われた文字(ロストコード)』で書かれていて、今まで誰も読めなかったものなのです。もちろん、わたくしも読めません」


 え、王女も読めないの? どういうこと?

 金属盤に書いてある内容を整理して僕は読んでみる。




「我来たりし地 時の彼方の友にこれを記す


 汝6つの枷を為す 鍵となりしは


 信頼 情愛 献身 復活 継承 試練


 汝9人の守護天使あり 仕えしその名は


 戦乙女(ブリュンヒルデ) 神弓者(ゲルヒルデ) 聖使徒(オルトリンデ) 獣女神(ヴァルトラウテ) 戦巫女(シュヴェルトライテ) 


 闘神姫(ヘルムヴィーゲ) 魔天使(グリムゲルデ) 修羅姫(ジークルーネ) 聖魔女(ロスヴァイセ)



 一体どういう意味なんだろう。


「勇木様、やはりあなたは……」

「勇木ーっ、お前の能力『文字解読』だったのかよー」

「すげー、こりゃ誰も敵わないぜ、ギャハハハ」


 王女の声をかき消すように、クラスメイト達の笑い声が上がった。


「王女様、こいつ本当に役立たずですよ」

「そうそう、世界を救うどころか、お荷物にしかなりませんよ」


 王女は僕の方をちらちらと見ながら、複雑な表情で僕に対する嘲笑を聞いている。なんだか僕が申し訳ない気持ちになってしまった。


『文字解読』の能力? うーん……無いよりはマシくらいの能力かな。

 いや、意外と重要な能力なのかも。是非そうであって欲しい、僕だって役に立ちたい。

 因みに、この世界の通常の文字は、クラス全員問題無く読めるとのこと。



 今日も美味しい料理をご馳走になり、皆それぞれ自分の部屋に帰るのだった。


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