第3話 職業を決めよう
「スーちゃん、待ってよスーちゃん!」
「遅いよヒロ君っ、早くしないと置いてっちゃうよっ」
まだ幼い少年と少女が、野山を駆けまわっている。
先を走るのが少女。それを必死になって追いかけているのが少年だ。
どうやら少女の方が足は速いらしい。
少女は目的の場所に着いたらしく、後ろを振り返って少年が来るのを待つ。
まだまだ元気が有り余っている少女に比べ、少年は息も絶え絶えといった様相で、ようやく到着する。
「はあはあ、もうスーちゃん、そんなに急がなくたっていいのに」
「ヒロ君てば、男の子なのにだらしないんだから」
両手を腰に当て、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女。だらしないとは言ったものの、少年を馬鹿にする気持ちは、少女には一切無い。
少女はこんな日常が大好きだった。
「ヒロ君は弱いからあたしが守ってあげる。だからお嫁さんにしてよね」
顔をほんのりと赤らめながら、少女は結婚を誓わせるのであった。
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「せっかくもうすぐ夏休みだったってのに、こんなことになるなんてな」
クラスメイトの間でそんな言葉が飛び交う。
あのあと、僕たちは大きな部屋へと案内され、そこで盛大な食事会が行われた。
出された料理は素人目に見ても明らかに豪華な物で、僕たちが本当に歓迎されていることが分かった。そして、改めて一方的な都合で喚び出してしまったお詫びと、この世界の救済をどうか宜しくお願いしますと頼まれた。
食事のあと、この世界での生活のことを説明され、各自が寝泊まりする部屋に案内された。
驚くことに、部屋は一人一室与えられた。のちに僕らは世界中に旅立つことになるらしいが、この国に戻ってきた時は、いつでも宮殿の部屋を使って良いらしい。
宮殿内には交流出来るリラックスルームもあり、その他訓練場や大きなお風呂まで完備されている。
いきなりの異世界で心も体もクタクタになった僕らは、初めての宮殿生活に興奮しつつも、その日は速やかに眠りに就いた。
それにしても、異世界に来ても役立たずになるとは……。
なんとかみんなの力になりたい。僕たちでこの世界を救ってあげたい。そして、無事クラスメイト全員で、元の世界に帰れることを祈るだけだった……。
◇◇◇
翌日、これから僕たちが効率良く戦闘訓練するため、先に『職業』を決定することとなった。
この世界にはモンスターが居て、それらを倒すことによって僕らは成長する。『職業』とはその戦闘における役割のことで、主に前に出て直接戦う前衛職と、後ろから支援する後衛職とに分かれる。
各職業の特徴を詳しく講義して貰い、各自の持ってる能力との相性も考慮し、それぞれが自分に合う職業を決めていった。
基本的には、前衛職は自然と男子が多くなった。特別な能力を授かったとは言え、やはり直接モンスターと斬り合ったりするのは、女子には難しいと思われた。
僕はといえば、魔法も使える剣士『魔法剣士』を選んだ。
本心を言うと、後衛職の方が自分には合ってる気がした。特に、チームの回復を行う『神官』が向いているのではと思ったのだが、何か体裁が悪い気がして選べなかった。実際、男子で『神官』を選んだ者は居ない。
モンスターを使役して戦う『ビーストテイマー』という職業もあったけど、使役しているモンスターが死んだらショックを受けそうな気がして、遠慮してしまった。
ということで、前に積極的に出てガンガン戦う『戦士』より、魔法も織り交ぜて戦う『魔法剣士』にしてみたけど、特別な能力を授かれなかった僕が、果たしてどこまで戦えるだろうか。
元々ケンカなど戦うことに関しては、全く才能が無いことは自覚している。とにかく、周りに迷惑を掛けることにはならないよう頑張るだけだ。
「勇木君はなんの職業になったの?」
話しかけてきたのは小柄な少女、小鳥遊すみれだった。
愛嬌のある大きな瞳をした、クラスでもかなり人気のある美少女で、セミロングの髪の一部を後ろで纏めたハーフアップという髪型をしている。成績優秀で、性格も良くて欠点無し、まさにパーフェクト美少女と言った感じだけど、不思議とよく僕に話しかけてくれていた。
実は以前どこかで見たような気もするんだけど、ハッキリとは憶えていない。
「僕は魔法剣士を選んだよ。小鳥遊さんは何を選んだの?」
「私は魔道士。と言っても神官の魔法も使えるらしいんだけどね」
「そっか、『賢者』だもんね。凄いよね!」
小鳥遊さんは、序列3位の『賢者』というギフトを授かっていた。それは神官が使用する『神聖魔法』と、魔道士が使用する『属性魔法』の両方を習得し、魔法のあらゆる面において最高の能力を持つという凄い能力のものだった。これは午前中の講義で詳しく説明された。
『神聖魔法』とは、女神フォルティーナの恩恵を授かる魔法で、主に回復や防御などに使われる。
『属性魔法』は、火、雷、氷、土、水、風、光、闇という各属性の精霊の力を行使する攻撃魔法で、通常は得意な属性があったりするものらしいんだけど、『賢者』は万遍なく全属性が得意とのこと。
しかし、まさか本当に魔法というモノがある世界に来ようとはねえ……。
「私なんかあまり役に立ちそうも無いよ。勇木君が『賢者』の方が絶対良かったと思うよ」
小鳥遊さんは本心からそう言ってくれているようで、ちょっと嬉しい。
「不安なこといっぱいあるけど、お互い頑張っていこう。小鳥遊さんならきっと大丈夫!」
そう言って、僕らは訓練場へと向かった。
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【クラスメイト達の能力と職業一覧】
十六夜タクヤ:01剣聖 剣士
凶獄力也 :02超成長 山賊
小鳥遊すみれ:03賢者 魔道士
習田ツトム :04習得師 戦士
笑木シンタ :05道化師 聖騎士
進藤聖也 :06聖剣進化 侍
大山鉄丸 :07悪魔化 拳闘士
伊東江好葉 :08超能力 弓使い
蛭田ケンジ :09武器召喚 弓使い
三枝よう子 :10結界師 神官
神薙サリナ :11歌姫 神官
斬野元次 :12次元斬 剣士
星野幽介 :13星幽体 戦士
血脇キリオ :14暗殺奥義 忍者
香山リカ :15巨像製作 獣使い
不死川兆司 :16超再生 拳闘士
戸辺留元牙 :17複製創造 剣士
神谷祈子 :18神罰 神官
賭井博美 :19奇跡変数 魔道士
忍田明日香 :20変身 忍者
白鳥絵里香 : 魔眼 神官
猛田強史 : 肉体強化 戦士
宅七郎 : 全能 魔法剣士
五味虫雄 : 戦士の心得 戦士
紗倉萌 : 司祭の祈り 神官
原黒ゆりあ : 魔導解析 魔道士
骨川ヤスシ : 召喚教本 召還士
犬飼福之介 : 魔獣馴致 獣使い
盗坂カズオ : 探索者 盗賊
底無魔美 : 魔力無限 神官
剣持美咲 : 精神統一 剣士
肥満谷太 : 鉄壁 戦士
金子富恵 : 錬金術 魔道士
遠目千里 : 千里眼 魔道士
観定密子 : 精密鑑定 神官
占部夢子 : 占い師 神官
猪熊リン : 超感覚 戦士
華城麗子 : 幸運体質 狩人
倉橋友美 : 知識の書 魔道士
勇木ヒロ : 魔法剣士
◇◇◇
《各職業説明と特性》
【山賊】
新たにスキルを一切習得出来ない代わりに、基礎ステータスが非常に高い。同レベルの前衛職と比較して1.5倍ほどの高さである。並外れた筋力と体力で力押しするタイプで、耐久も突出している。スキルが無い以上、一撃必殺という決め手が無いのが欠点。
【戦士】
筋力と体力と耐久が高く、全ての武器も使用出来る万能タイプ。スキルも攻防揃っており、重装備も可能、頼れる前衛となっている。
【聖騎士】
筋力、体力、耐久等、戦士よりも一段落ちるが、その代わり、一部の神聖魔法が使える。回復しながら戦えることもあり、パーティーの盾として信頼出来る存在。
【拳闘士】
武器を持たず、拳で戦う前衛。筋力が非常に高く、力と技で勝負する。専用スキルも多い。状態異常にも強いが、防御面には不安有り。
【剣士】
筋力、体力は上記の前衛職に劣るが、豊富なスキル技を持っており、一撃必殺の剣技で勝負するタイプ。防御スキルも充実しているため、体力低くても心配は少ない。
【侍】
盾を持たずに二刀流で戦う。体力も低めで、防御面に不安はあるが、二刀で戦う攻撃力は前衛ナンバー1。豊富なスキル技と素早さでなぎ倒していく。『剣』ではなく、細身で軽い『刀』を使うことが多い。
【魔法剣士】
攻撃魔法も使える剣士。剣に魔法を付与して戦うことも出来る。バランスがとても良い前衛ではあるが、逆に決め手に欠ける弱点も。
【忍者】
筋力も体力も耐久も低めだが、とにかく全職業ナンバー1の素早さと特殊なスキルを持っており、独特な戦いで仲間を支援する。前衛と言うより中衛。
【獣使い】
テイムした魔獣を使用して戦う。基本的に、戦闘に出せるのは1頭のみ。魔獣に命令するスキルを持っている。中衛タイプだが、本人に戦闘力はほぼ無い。
【狩人】
弓の射撃能力は全てにおいて弓使いに劣るが、その代わり、一部の神聖魔法が使える。魔法を付与した魔法矢が撃てるのも強み。中衛タイプ。
【弓使い】
魔法は使えないが、豊富なスキル技と圧倒的な射撃能力で、後方から敵を次々と狙撃して前衛を支援する。
【盗賊】
戦闘能力はかなり低いが、器用さと気配&危険察知力が高く、トラップ等の解除も含め、ダンジョンで大活躍する。運が高いのも特長。
【神官】
戦闘能力は低いが、回復や補助系などの神聖魔法が使える。少数ながら攻撃魔法も有しており、パーティーに一人は欲しい存在。
【召喚士】
魔界の生物や魔界の魔法を召喚する。集中や詠唱にとにかく時間が掛かる上、MPを大量に消費するが、全職業中最大のダメージを相手に与えることが可能。
【魔道士】
召喚士より魔法の強弱の使い分けが簡単で、範囲や詠唱時間も含め、相手に合わせた魔法を選びやすい。MPのコストも非常に良く、高火力で安定してパーティーを支えられる。