表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
序章 異世界への招待
3/62

第2話 勇木ヒロという人間

「おい勇木、ここでストリップしろ」

「え~アタシこいつのチンポなんてもう見たくないよー」


 ある日の屋上での出来事。現在授業中の時間ではあるが、彼らは教室を抜け出して屋上に来ていた。

 凶獄力也とその彼女神薙サリナ、いつも連んでいる蛭田ケンジ、血脇キリオ、そして勇木ヒロの5人。最初の発言が凶獄力也で、次が神薙サリナだ。

 彼らは事あるごとに勇木ヒロを屋上へ呼び出し、玩具扱いしながらいじめていた。


「申し訳ありませんが拒否します。裸になどなりたくありません」


 以前も同様の命令をされた時、勇木ヒロはキッパリと断った。どんなに脅されても言うコトを聞かず、業を煮やした凶獄力也たちに散々殴られた後、結局無理矢理脱がされて服も捨てられた。

 理屈も何も全く通じない、イカレた行動をするのが凶獄力也という男だった。




 凶獄力也は、生来の恵まれた体格に加え、天性の格闘センスを持っており、小学生の頃から力で周りに言うことをきかせていた。

 中学二年生にして、すでに高校生にもケンカは負けなかった。高校入学時には、先輩にも逆らうヤツは居なかった。

 刃物抜いて襲ってきたヤツも居た。格闘技やってるなんてヤツも叩きのめした。

 どこに居ても、彼は王だった。


 現在身長185㎝、体重100㎏、近隣の高校からも恐れられ、暴力団すら避けて通る最凶の存在。

 そんな男が勇木ヒロに目を付けたのは、ほんのちょっとした切っ掛けだった。


 元々凶獄力也がいじめていた対象は、宅七郎というオタク男だった。おどおどした態度が気に入らなく、顔を合わせる度に適当に蹴りを入れていたのだが、ある日それを見た勇木ヒロが注意をしてきたのだ。


 自分に意見してくるヤツなど今では全く居なくなったものだから、突然のことに大層驚いたものだった。

 ナメられているのかと思い、その場で叩きのめしたが、なんと次の日もそいつが注意をしてきたのだ。それは凶獄力也にとって、信じられないことだった。

 二度と逆らえないくらいボコボコに殴り、悔しかったら教師でもサツでも連れてこいと脅しつけた。

 それでもまだ勇木ヒロは注意してくるのだった。


 こんなドチビのメガネ小僧に逆らわれるのが、どうしてもゆるせなかった。

 どう見ても大した力も持ってないクセに、なぜ暴力を恐れないのか、今まで力で屈服させてきた凶獄力也には不思議で堪らない。

 最近じゃどいつもこいつも物足りない、ロクにケンカもしないうちに媚びへつらうヤツばかりだ。

 先公ですら腰抜けばかりの中、ザコのくせに久々に骨のあるヤツだと思った。



 こいつが心からオレに屈服し、土下座するところが見たくなった。



 今までは度々、カンパと言っては生徒達からカツアゲをしていたが、勇木ヒロをいじめるなら勘弁してやると、ほかの生徒達を煽った。

 それからというもの、全校生徒が勇木ヒロに敵対した。孤立無援にして、精神をへし折る手段に出たのだった。


 それでも勇木ヒロは心が折れなかった。

 以前は目に付くヤツを片っ端から殴り倒していた凶獄力也だったが、今ではすっかり勇木ヒロのみをターゲットにしていた。

 最初にいじめていた宅七郎には、もはやみじんも興味は無い。


 何をしたらこいつは泣いて赦しを請うのだろう。

 それを見つけるまで、他の楽しみはお預けだ。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 勇木ヒロは、幼い頃から正義感だけは溢れた男の子だった。

 正義感だけは。

 困っている人を見たら助けずにはいられない。そんな男気溢れる勇木ヒロだったが、残念ながら力は伴わなかった。



 それを見たのはたまたま偶然だった。大柄な生徒が、細身で小柄な生徒を蹴りまくっていたのだ。

 思わず小柄な生徒を庇い、大柄な生徒に注意をした。それが凶獄力也との初会遇である。

 以来、事あるごとに絡まれる日々が続いた。


 勇木ヒロにとって決して楽しい学校生活とは言えなかったが、それでも、学校を嫌いにはなれなかった。何より、もしも自分が逃げたら、他の誰かがきっと凶獄グループの犠牲になるだろう。


 一度教師に報告したこともあるが、まったく相手にして貰えなかった。

 凶獄グループに居る蛭田ケンジの親が政治家で、学校がゴタゴタトラブルを恐れたからである。むしろ、教師まで敵に回って、さらに立場が悪くなった。


 クラスメイトの習田ツトムから、警察に相談することを勧められたこともあった。

 しかし、勇木ヒロはそれを断った。例え警察が間に入ろうと、凶獄力也という男は素直に反省する人間では無い。必ず仕返しされるだろうと。


 習田ツトムは、勇木ヒロの唯一の友達と言ってもいい存在で、凶獄力也に服を捨てられた時、代わりの服を持ってきてくれたのが習田ツトムだ。

 自分を助けようとすれば、きっと矛先は習田ツトムにも向くだろう。それだけはなんとしても避けたかった。


 自分がしていること=理不尽な暴力に耐えることは、決して最良の選択とは思わないが、これ以外に解決する方法を、勇木ヒロは思いつかなかった。

 自分が耐えていれば、一応それで平和なのだ。



 勇木ヒロは、幼い時に年の離れた姉を亡くしている。姉は不治の病を患っていた。

 姉との別れの時に「優しい男の子になってね」と願いを託された。だから、勇木ヒロはずっとその約束を守っている。

 決して無闇に人を傷つけるような男にはならないと。困っている人を救えるような優しい男になりたいと。


 『強い男』には、どうしても生まれつきの差というのがあって、なろうとしてもなれないこともある。

 勇木ヒロだって自分の力はよく分かってる。逆立ちしたって『強い男』にはなれそうも無い。

 でも『優しい男』には誰だってなれるんだ。立ち向かう勇気を持つことだって出来る。


 これが勇木ヒロという人間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ