俺の幼馴染は……
自分でいうのもなんだが、俺はどこにでもいる普通の学生の一人だ。
そんな誰もが通る事を、高校生になるこの時までずっと繰り返してきた。どこにでもいる普通の奴だ。
『ある一点』を除けばな……
「おーい!」
朝起きてベッドの上でそんな事考えてた俺の部屋のドアを、声の主が開けてくる。
短めの黒髪に、メガネをかけた、俺と同い年の女の子だ。
普通なら不法侵入とかなんとか騒ぐところなのだろうが、勝手知ったる仲なのだ、今更如何こう言うつもりはない。
「おー、来たか」
お袋の腹の中から生まれて、友達と遊び、友達と学び、親に褒められ叱られ、時には怪我をして泣いたり。
「来たか、じゃないよ! 早くしないと遅刻しちゃうよ?」
「へいへい」
そう言ってベッドから出る間に、そいつはキッチンに向かい、手慣れた手つきで調理を始める。
その後は……まあ、詳しく言うまでもないだろ。学校の制服に着替えて、そいつと朝食食べて、戸締りを確認したら、学校へ登校する。いつもの事だ。
強いて言うところがあるとすれば、今日の天気が雨だという事だ。
「すごい降ってるね」
「ほんとにな」
どんよりとした空から落ちる雨は、歩く地面のあちこちに水たまりや小さな川を作る。
一つの傘に二人で登校してると、これまた誰もが味わったであろう事が起こる。
「きゃ!」
「おっと」
俺たちの歩いてる横の道路を走る車が、そこにできた水たまりを飛ばしてきたのだ。
飛んできた水に驚いて、俺の方に引っ付いてくる。
「大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと水がかかっただけだから」
まあ、泥が跳ねたわけじゃないから、それほど問題じゃないだろう。
制服が濡れる位、余程潔癖症じゃなきゃ気にもしない。実際、一つの傘に二人で入ってるもんだから、俺たちもお互いの袖とか肩の所もちょっと濡れてるし。
だが、『それ』を見つけたことで、俺にとっては……いや、こいつにとっても『大した問題』になるかもと思ってしまう。
「あのさあ……」
「ん? 何?」
首を傾げるこいつに、周りに人がいないのを確認してから告げる。
「出てるぞ、尻尾」
「……えっ!?」
俺が指摘し、そいつが振り向いたそこにあったのは、そいつの尻の辺りから生える。先端が黒く、周りが茶色い毛に覆われた『尻尾』が左右に揺れていた。
そしてそれを見つけると、必死にそれを両手を使って隠そうとする。
しばらくして、尻尾は、ポンッ! と言う音が聞こえそうな感じで消えた。
「やっぱ驚いたら出ちまうな。もう少し上手く隠せるようにしないとかもな」
「うぅ、そう言っても、本当はすごく難しいんだよ?」
申し訳なさそうな顔をするが、いつもの事なので、俺は言いつつも気にしない。
ついでいうと、俺が今視線を向けてるところにある物も。
「で、今度は耳が出てるぞ?」
「ふえっ……ひゃあ!?」
頭部に尻尾と同じ、茶色の毛に覆われた丸い獣耳が現れてる事を指摘すると、両手でそれを覆って隠す。
尻尾と違ってまだ両手で隠せる大きさだが、尻尾と比べると人目につきやすいし、もう少し気を付けてほしいと思う。
「やれやれ……」
俺はごく普通の人間だ。
お袋の腹の中から生まれて、友達と遊び、友達と学び、親に褒められ叱られ、時には怪我をして泣いたり。
漫画やアニメにあるような、特別な力も才能も無い、衝撃の出生と言うわけでもない。どこにでもいる高校生だ。
ただ一つ、普通と違う点は……
俺の幼馴染のこの子が、所謂「化け狸」の女の子だという事だ。