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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

欠陥倉庫

身勝手な。

作者: 三毛きな粉

 晴れた日の城の庭園で一人の女が立っている。

 線の細い身体は、誰もが護りたいと言いたくなるほど儚げで、黒い真っ直ぐな髪は、何者にも染まらぬ強さをその黒い瞳も決して屈しない意思の強さを表すかのよう。


 彼女の眼を見てはいけない。どうしようもない征服欲が湧き、屈服させたくなる。

 その眼を濡らしたくなるから。

 

 女は何かを読んでいるようだ。

 肩が震えてるように見える。泣いているのか?

 

「いぃぃよっしぁぁぁっ!!」


 女は突然空に向かって右手を掲げ、叫んだ。

 女は気付かない。

 背後に迫ってる男の影も、その男が浮かべる苦悶の表情も。

 女は、男とは対称的な表情で、喜びが全身から溢れている。


「はぁぁ。やっと帰れる」

「……駄目だ」

「え? あ、あら? ――様、いらしたんですか? はしたないところをお見せしました」

「――――か?」

「はい?」


 男は、何かを耐える顔をしている。

 女はそれに気付かない。


「帰るのか?」


 男は再び問う。女は花が咲くような笑顔で答える。


「っはい! お世話になりま、した……?」


 男は動く。

 掌を女の額にかざし、何かを唱える。

 途端に、糸が切れたように女の身体が傾ぐ。

 男はその身体を支え、きつくきつく抱き締め意識を失った女の首筋に顔を埋め囁く。


「……すまない。だが、何処にも帰せない。何にも渡せない」


 その日、異界からの客人はいなくなった。

 帰還の手段が整っていたので、自分の世界に帰ったと城の者は考えた。

 同じ日、騎士総長も退職した。

 皆、客人への恋に破れた団長が、失恋の痛手で城を去るのだと同情的だった。

 惚れていたのは、周知の事実。気付かぬは、客人のみだった。王も同情的で、多額の退職金を渡し何時でも戻ってこいと声を掛け、その男の背中を見送った。

 城に真実を知る者は、もういない。


 ある山奥に、一軒の家がある。

 最近建てられたのか、家の壁はまだ新しい。そこに、若い夫婦が住み始めた。仲睦まじく、微笑ましいと麓の村では言われている。

 ただ、女は少し病弱で、あまり家から出られない。男が甲斐甲斐しく世話をする様子が、麓の娘達の話題になっている。

 

「サラ、体調はどうだ?」

「……」

「顔色も悪くない。なぁ、食事を取ってくれ。今日はいい肉が手に入ったんだ。それともまた食べさせないと駄目か?」

「……」

「サラ?」


 女は、反応しない。

 目を瞑り、眠っているようだ。

 男は溜め息を吐き、席を立つと女の横に立つ。


「ほら? 味付けも上手くいったんだ。感想を聞かせてくれると嬉しい」


 女の食事の皿から肉を一口に切り、フォークで刺し女の口元ではなく自分の口に入れる。

 女の後頭部を掴むと上に向けさせ、顎に手を掛け口を開ける。

 そのまま唇を重ね、開けさせた口へ自分の舌ごと肉を押し込む。


「っと、ハハッ残念。ほらよく噛んで?」


 女は舌が入って来た途端、息を吹き返したかのように目を開き、思い切り噛んだ。だが、噛んだのは差し入れられた肉の塊だけ。本当に噛み千切りたいものは直ぐ出ていってしまった。

 女は男を睨む。

 

「あぁ、良いなその目。嬉しい誤算だった、本当に。後は声を聞かせてくれれば最高なんだが」


 男は微笑む。その目は劣情が渦巻いている。


「サラの嬌声も良いけど、普段の声も聞きたいな」

「――――ッ!!」


 カッと頬に朱が差す。


「可愛い。あんなに愛してあげたのに、まだ照れる事があるのか?」


 目線で殺せるなら、男は既に死んでいただろう。

 それほど強く男を睨む。


「最高だ、サラ。一月もの間、昼夜問わず愛してあげたのに、その折れない心。あぁ、本当に素晴らしい。愛してる、私の女神」


 女の長く伸びた黒髪を一房手に取り、愛しげにキスを落とす。

 そのまま耳へ唇をつけ囁く。


「食べないと体力がもたないよ? 最中に気を失ったら避妊薬は飲ませない。それとも孕みたい? 私の子を」


 女はフォークを持ち、男へ突き刺す。が、寸での所で届かない。

 何をしても、傷一つ負わせられない女は諦めて食事を始める。それも仕方ない。元の世界では椅子に座り事務の仕事をし、趣味は読書、映画鑑賞とインドアばかり、こちらに落ちた後も客人として大切に扱われ運動らしい運動もしてこなかった。


 片や、男は4万の軍の頂点に立つ男だった。

 若くして騎士総長となった男は、女が我が手に落ちてきた日から、手に入れるために少しずつ計画を進めた。後継者を育てつつ力の衰えを印象付け、女にのめり込み使えないと言うレッテルを貼られた。

 使い物にならなくなったと、王も判断したためあっさり退職を認めたのだ。全ては、女を本当に手に入れるために。二年かけてきた計画。

 女は知らぬ間に、囲い込まれていた。


「貴女が私の手に堕ちてきたから悪いんだよ? それまで順風満帆な人生だったのに。貴女を受け止めた時から、誰にも触れさせず視界にも入れたくなかった。声も私の為だけに囁いて欲しかったのに誰にでも笑いかけ、話しかけるから、皆に愛される存在になってしまった」


 ヘドロを見るような目付きで男に目を向けるが、全く気にせず話続ける。


「お陰で、王女との婚約を破棄するのに少し強引になってしまった」


 ガタッと椅子が鳴る。女が信じられないものを見る目付きで男を見ている。


「あぁ、そうだよ? 王女を殺したのは私だ」

「ッ!!クソ野郎!」

「ふふ、全てはサラ、貴女を手に入れる為。貴女のせいだ。私を狂わせ、王女を殺させ、序でに大国であるガリヤ国の間者にしておいたから、あの国は報復のために戦を仕掛けた。情に厚い王だと支える者は大変だね? 遠からず滅ぼされるだろう。それも貴女のせい。あの国にしか帰還の方法は無いから、もう二度と帰れない。……帰さない」


 女は絶望する。

 あまりの救いの無さに、力が抜ける。

 妹のように可愛らしく慕ってくれていた、この男に惚れていた王女を。いつも頬を赤く染め、この男を誉めていた王女を殺したのかと、更に国を滅ぼさせる手まで打ち、帰還の手段も潰すとは。

 女は、涙を流す。

 

「戦になる前に、国を出て良かった。私にもきっと収集かかかっただろうから。サラ? 貴女には私を狂わせた罰を受けなくてはね? あの国を滅ぼした罪も」


 なんでこんな事になったのか。そもそもこの世界に来たのも自分の意思ではないのに、女は思う。

 何故? こんな事に。

 答えは無く、あったとしても、もう全て遅い。


「さぁ、食事を」


 男は微笑む。

 こんな事までするつもりはなかったんだと、思う。自分を愛してこの世界に残ってくれると言ってくれれば、ここまでするつもりはなかったと。

 全ては、自分を愛さなかった彼女が悪い。

 酷く身勝手な考えだが、全てを望むままに手に入れてきた男は、気付かない。


 いつの日か、自分を愛してくれるようになったと思った女から、首を切られるその時まで。


「今夜はどうしようか?」


 女の地獄はまだもう少し続く。

 決して屈しないと言われた深く黒い目が、暗く男を見ている。




仲良くなった中学生に『ホント話聞かないし身勝手なんですよね!』と、友人とやらの愚痴を聞いていた時に浮かんだ。

作者は、ちょいと病んできた。


すまん!中学生ちゃん!

こんな大人にならないで!

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