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不死身少女の冒険録  作者: 飽冬
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一話

ラルフ村は活気の有る街……地名的にはラルフ村だけれど、朝は採れたての野菜などが露店で沢山売られている。

特産はスニィの実。

寒さに強く、甘酸っぱくて栄養価が高い。まさに降雪の多いラルフ村向けの食べ物。

私にとって甘過ぎないその実が大好物だったりする。


秘密の通り道を使えば、ラルフ村と立ち入り禁止の森の結構離れて居る距離もあっという間に変わり、すぐ見えて来る。予想通り、人通りも有るし、その上今回はキャラバンも有る。つまりは普段ない物も買える訳だ。

ここで今私自身が所持しているお金のことを思い出した。

確か一枚の価値が鉄貨が10レル、銅貨が100レル、銀貨が1000レル、金貨が10000レル、晶貨100000レルのはずである。

おじいさんに借りた硬貨を見る。

金貨九枚、銀貨七枚、銅貨六枚、鉄貨十五枚。

つまり合計は97750レル。

これが今回の旅で使えるお金である。

価格もわからず大陸を移動したり宿を借りたりすると考えると少しモヤっと、心が少し暗いと感じる。多分、不安なんだ。それもそうだと思いながらため息をつく。


「ここで少し買い物をしましょう。パンだけでは不安ですし…」


そうと決まればとばかりにスニィの実真っしぐらに野菜を売っている露店に寄って行く。


「いらっしゃい!おや?お嬢ちゃんは山小屋の子じゃ無いかい?相変わらず表情変わんないねー。今日はどうしたんで?」


そうにっこりと言われ、少し燈は驚いていた。


「ここ最近は来ていなかったのに覚えていてくださったんですね。ありがとうございます。おじいさんの許可を得てシュネーベの方まで行ってみようと思ってるんです」


嘘は言っていない。おじいさんの許可を得てはいないというか、とれないと言う点を除けばの話ではあるが…


「へー!そりゃまた頑張るね!ってことはここに来たのはスニィの実と食べ物目当てってとこだな。スニィの実一個おまけして二個と、日持ちのいい干し芋をもしもように多め合わせて…20まけて、60レルだ!いいやつ持ってけよ!」


「20レルもオマケしてくれるんですか?ご好意ありがとうございます。ぜひ買わせていただきますね」


「おう!毎度あり!また来てくれよな!」


「はい。また来ます」


少し微笑えもうと表情筋を総動員しながら鉄貨六枚を渡し、スニィの実二個と干し芋を詰めた袋を貰う。いつか笑って見てくれよなと言われたのでまた笑うことに失敗したんだろう。

でも、これで食料の補充を終わった。

今度は珍しい、めったにお目にかかれないキャラバンのお店に行き、なにを売っているのか私は年若いお姉さんに聞いて見ることにした。


「すみません。このキャラバンはどんな物を売っているのですか?」


「ん?貴方、買いに来たの?…今日の目玉はギヴェル共和国の魔法科学技術で作られた品よ。中々仕入れられないから少し値段は張るけれど見て行くだけでもいいから…ね?ね?」


客を更に呼び込む為にも来て欲しい、という意味合いも込めて言われたのが丸分かりだ。が、ギヴェル共和国の魔法科学技術で作られたものと言われれば行くしか無いだろう。

何せ、キュアノーラ大陸とワイルディア大陸はかなり遠いのだ、品物も本当に珍しいだろうし旅に使えるかもしれない。

つまり、断る理由が無い。


「はい。是非見させていただきます。これから少しシュネーベの方へ一人で行くので」


「シュネーベまでって…その歳で?大変じゃない?」


「……まぁ…そうですね……。でも大丈夫です。若い内に沢山の経験をしておくのは大切なことでしょう?」


「あらあら、それもそうね。あ、ならこういうのなんてどうかしら?」


そう言ってお姉さんはキャラバンの中へ入ると何かを取り出し始める。

その間暇なので品を見たが使い方は全くわからないしさっきの言葉が……


「………やっぱり、十三歳で旅はおかしんですかね…」


一人になってしまった私にとって旅とは新しい発見を探す為であり、感情に変化をもたらすためであり、おじいさんの熱中していた遺跡を見てみたいという興味心。


しばらく悶々としているとお姉さんがいろいろと持って帰ってきた。


「よし、遅くなってごめん。はい、これよ!」


そう言って四角い物や木の棒、香水のような物を見せられる。


「なんですか?使い方がよくわからないのですが…」


「今から説明するわ。この四角いのは紙の束を纏めた物なんだけれど…従来の物より紙質がいいし安いのよ。木の棒のは削ればわかるのだけれど中にインクの役割のような物が入ってるの。セットで使うといいわよ」


「なるほど。使い勝手が良さそうですね」


どうせ旅をするなら日記を書いて見るといい。そういうことなのだろう。

少なくとも私はそのセットに興味が出たし次の物も気になってしまう。


「ではこの香水のような物はなんですか?」


「それは特殊な方法で精製した魔物除けの香水。無臭なんだけれど本当に便利よ?試しにキャラバン自体につけて来たら一度も遭遇しなかったわ」


凄く嬉しそうに語るお姉さんを見る限り事実だったのだろう。

力のなくひ弱な私にとってこれほどいい物はない。

ちなみに魔物に会ったら逃げて捕まえられたら潔く死んでを繰り返そうと思っていた。


「……ちなみに魔物除けはどの程度使えるんですか?」


「そうね…それなりに強い魔物になってくるとやっぱり無理だし…水棲の魔物には効かないわ。それに雨にも弱いの。一回分で半日、雨の日は二回分の消費で使うと少しは効くみたい。合計で約三十五回使えるし、ここら辺でこの香水が効かない魔物は山の主位よ。…どうかしら?」


予想以上の効果と持続性だ。

これは…


「全く、お姉さんはいい品を見せてくれますね…買うしかないじゃないですか。いくら払えば?」


「そうねぇ……じゃあいい旅になるようにおまけしてあげる。ノートが65レル、鉛筆が15レル、香水が200レル。合計280レルだけれど100レルでいいわ」


これはびっくり。

予想以上に安くなったのだ。こちらとしては嬉しいことこの上ないのだが…

裏があるのではないだろうか…?


「そんなに安くしてキャラバンの方々はいいんですか?このような事をしていけば赤字になってしまうんじゃ…」


「んー、そうね。そうかもなんだけれど…お願いが有るのよ」


あぁ、なるほど取引。

そう言うことか、納得した。


「そのお願いとやらはどんなことでしょうか…?」


「そんなに警戒しなくてもいいわよ。ただ旅をするついでにお願いしたいことがあるの。赤髪で青色の目、頬に二本の傷のある20歳後半位の男性。名前はカンヴァルクス・ファルマンって言って……獣人なんだけれど…もし、もしも彼に会えたら、待ってるからって伝えて欲しいの」


お姉さんは喋るごとに声が震えて行く。多分、カンヴァルクスと言う人は行方不明者なんだろう。どういう関係だったのかは知らないし知ろうとも思わないが…


「何故、私に言ったのですか?」


「なんでだろうね?……なんだか貴方なら彼を見つけてくれるんじゃないかとふと思ったのよ」


……期待…か…。

そう思ったと同時に私の胸にいつもと違ったモヤモヤとした感情が生まれる。まるで、そんな期待を以前されてたかのような感覚。きっと記憶を失う前の出来事なのだろう。思い出すことはできないし、このモヤモヤがなんなのかも判別がつかない。

今、気にするべきことではないと言うことだ。


「……わかりました、もしも会えたら伝えておきます。お姉さん、貴方の名前はなんですか?」


「私?私は……シルフィア・レナード。貴方は?」


「藤堂燈、藤堂が姓、燈が名です」


「和国の人なのね。じゃ、燈ちゃん。後は頼んだよ。…そろそろ戻らないと!」


シルフィアさんはそう言うとキャラバンの方を見る。代わる代わる行きかう人々がその忙しさを物語っていると言う物。

銅貨一枚をシルフィアさんに渡し、物を受け取るとバッグに入れる。もちろん整理整頓はしたし早速香水を一回使わせて貰った。


「そう言えば…これからシュネーベに行くのよね?」


「え?あぁ、そうですね」


「…気をつけてね。最近シュネーベの街の夜に切り裂き魔が現れるみたいだから」


切り裂き魔とはなんとも物騒な事だ。注意しておくに越したことはないだろう。


「ありがとうございます。十分気をつけておきますね。それでは…さようなら。また何処かで会いましょう」


「ええ、またどこかで」


さて、後はこの村を出て行き、街へ行くだけだ。

少し体が強張る感覚、つまり緊張しながらも覚悟を決め、ぎゅっと鞄の紐を持つ。


「あれ?…燈?どこいくん?」


「その声…カインさんじゃないですか?何故ここに…」


呼び止められて振り返ってみれば騎士団を志望し、シャファローグ国へ行ったはずの三歳年上の幼馴染の姿。


「いやな?これから冬越えしなきゃなんないんだなーと思ったらいても立ってもいられんくて有給とって来たんよ」


ヘラヘラと笑いながら言うカインさんだがそれでいいのだろうかと思った。


「未来の騎士様がそんなこと言って国を出ていいんですか?」


「それがもう未来の、じゃ無くてもう騎士なんだな。どうだ、びびったろ?」


「……………騎士団とはまだ年若いこんな人も昇格させてしまうのですね…」


「真顔のままそう言うんやめろよ…偶々手柄建てられたんだよ。ってか棘ありすぎんだろ…ま、燈らしいけど」


今だヘラヘラするところなど、相変わらずである意味びっくりだ。

まさかあんなに不真面目で、サボリ魔な彼が立派な騎士になって帰ってくると思わなかったからだ。


「カインさん、なかなか男前になりましたね」


「そーかな?」


「えぇ、素行などが特によくなりました」


「……やっぱ素直じゃない…ってあぁ、結局どうしてここに?」


「…私も、少し旅に…出ようと思いまして…」


少し吃りながら言う。

元々会うつもりも、話すつもりなかったから当たり前と言えば当たり前だ。


「……お前が、旅に?ダグラスのおっちゃんが許したのか?」


顔が険しくなり、明らかに怒っている。


「はい、許可はいただきました」


申し訳なかったがやはり嘘をつくことにした。たまには真顔なのも役に立つ物だ。


「そっか…じゃあ俺に止める資格はないんだな」


今度は悲しそうだ。

私は何かしてしまったのだろうか…?


「……んじゃさ。これ、俺からの餞別。持ってけよな」


「え?わっ…」


放り投げられた銀色の道具をなんとか掴む。

上の蓋の部分を開けると魔法陣がびっしりと書かれている。


「これは?」


「着火装置。雪とか雨とかでも湿気ることないんだよそれ。便利だろ?」


「確かに便利ですね。ありがとうございます」


そう言って着火装置を鞄に入れる。


「さて、そろそろ行かんと野宿も大変だろ?」


「大変ですよもちろん。なので言われた通りそろそろ行きます」


私は頑張って口角を上げてみた。

が笑えていただろうか。

多分笑えて無いんだろうな。


「……道中気をつけろよ?」


「はい」


「迷子になったらダメだかんな?」


「はい」


「うし、俺は村か国にいるから…絶対帰ってこいよ?」


最後の確認のように念を押して言われる。

心配してくれているのがひしひしと伝わって来る。


「はい。それではカインさん…また、会いましょう」


「おう、またいつかな」


そう言って私はカインさんにヒラヒラと手を数回振り、村をついに出て、旅立って行く。


ほとんどの人が知ることも無く、ただ、ひっそりと、雪に紛れるかのように……

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