変化
レントは6歳になった。
3年の間に精神的には全く変化しなかった、というのは当たり前だが肉体的には子供の成長期という言葉ではごまかせないほどに変貌を遂げていた。
まずは以前からトレーニングをしていた魔力量の変化だ。
3歳の時には一番消費魔力が少ないとされる光源の魔術を媒体を通してようやく1回行使するようなレベルだったのだが・・・・・・
「はッ!ふッ!」
何時もの裏庭では身体強化を使いつつ、リズミカルに突きや蹴りの練習をするレントの姿があった。
今では光源の魔術を何十回も行使でき、体内に魔力を循環させるだけとはいえ、光源の魔術の5倍は魔力を消費してしまう身体強化を20分近く行使できるようになったのだ。通常の人族の6歳児ならば一瞬身体強化を発動できればいいほう。明らかに異常だ。
次に単純に肉体の変化だ。
レントは魔力を練ると同時に筋トレも同時に行っていたために6歳の子供の体とは思えないほどの筋肉がついていた。その力は身体強化を合わせれば大の大人にすら勝ってしまうほどに。
当然そんな体ならばウィルとミリィに気味悪がられてしまうが、レントは幻影の魔術を行使し、見た目だけは普通の6歳児に擬態しているのだった。だが、嬉しいことか悲しいことか、おそらく幻影の魔術で擬態せずとも二人にはばれることがないようなビッグイベントが起こった。それは・・・・・・
「ままぁ~」
「はあい!ママはここですよ~!」
「うう・・・・・・パパは呼んでくれないのかい?ミリア~」
ウィンタード夫妻待望の第一子、ミリアが生まれたからだ。ミリアは何せ流産してしまった上での初のわが子だ。普通よりもなお一層かわいいだろう。それに気づけばどこかに行っている上に愛想もないレントに比べれば何倍もかわいいだろう。
ーーー
何時もの場所と化した丘のふもとでぼんやりとそんなことを考えながら鍛錬によって酷使された体の疲労を地面の上に放り出し休んでいると、ガラガラと転生してから初めて聞いた馬車の音が徐々に近づいてくる。
「こんな辺鄙でなんもないこんなド田舎に来るなんてどんなもの好きだ?」
自分の第二の故郷をやれ辺鄙だの、なんもないだのとボロクソに言うレントだが実際そうなのだ。この名もなき村の主な税収は麦だが、大した量が収穫できるわけでもなく、これといった特産物があるわけでもないので領主からの関心も薄く、人通りも少なく盗賊すらもいない、来るのはウィルやミリィのような静かなところで暮らしたいという物好きだけ、そんな村だ。
「馬車に乗っているのはどんな奴かな・・・・・・っておい・・・・・・」
するすると強化された身体能力で木を登り、見てみるが馬車の窓には内側からカーテンが掛かっており内側が見えない状態だった。
二頭立ての馬車が一台、その後ろで一頭建ての馬車が二台ついてきている。
もうその時点で行き先は分かっている。
例の老夫婦が管理している主のいない屋敷だ。行き先がわかったとはいえ、問題はそこじゃない。乗っている人だ。
「えっ・・・・・・」
どのみちこんなところに来ると言ったら追放されてくるか、何かやましいことをして逃げてきた奴に違いない、そう高を括り馬車をつけ、馬車を降りてくるヒトを見た瞬間、レントの思考は停止してしまった。
初老にさしかかるくらいの、付き添いのメイドに手を取られ、降りてくるのは何かやましいことをしでかした奴には到底見えない、自分と同い年くらいの、金の輝く流れるような髪に、まるでエメラルドをそのまま嵌め込んだかのような鮮やかな色をした瞳の少女だった。
だが衝撃はそれだけでは終わらなかった。
「貴方は、誰?」
「・・・・・・ッ!」
呼びかけられた瞬間、咄嗟に近くの茂みに逃げ込んだが、誰もいない場所に話しかける頭のおかしな女の子、などではなく、間違いなくレントを見て話しかけていた。
そっと茂みをのぞいてみれば少女は屋敷に入ってしまったようでそこにはいなかった。
「ふう・・・・・・何だったんだろうか・・・・・・」
実際レントの幻影魔術が破られたのは前世も含めて数えるほどしか破られたことがない。
レントはもうこれ以上はあの得体のしれない少女には近寄らないようにしよう、心に刻み重い体を引きずるように帰路へとつくのだった。