体づくり
定期考査が辛すぎて・・・・・・
時が経ち、レントは3歳になった。
レントはようやく言葉を自由に話せるようになった。そして、それと同時期にミリィの妊娠がわかった。
少し大きくなったお腹を優しく撫でて、その隣にウィルが寄り添っている。何しろ初めての子供なのだ。
そのせいかしだいにレントは放っておかれることが増えたが、中身は3000歳を越える魔王、駄々をこねる訳もなく自分の部屋にこもり魔術の訓練をしていた。
魔王それ以前に魔族だった時の身体は、それこそ全身に広がる血管よりもくまなく魔力回路が全身にわたって緻密に広がっていた。
が、人族の身体は魔族の魔力回路よりも大雑把で魔力の通りも悪いのだ。それを解決するのが魔力媒体、つまり魔石のついた杖や指輪、腕輪なのだ。
そのまま人族の身体で魔術を行使しても魔術が発動しないと実験の意味がないので今回は保険として、ミリィにべったりなウィルの杖を借りて練習をすることにした。
場所は裏庭。
体内にある魔力を認識し、それを魔力回路を通じて持っている杖へと送る。発動させるのは光源の魔術、単純に光を灯すだけの魔術で発動しても誰も気がつく事はないだろう。
「光よ」
そう呟くと杖の先にぼんやりとした光が灯された。
が、無事魔術が使えた事に対する安堵の中、急に倦怠感を覚えた。魔力切れの症状である。
確かに肉体も魔力量もまだまだ伸びるこの時期なのだが・・・・・
「これは少な過ぎるぞ・・・・・・」
光源の魔術は消費魔力が特に少ない魔術として知られ、その消費魔力の少なさからは初心者の練習用としても使われている。
いくら3歳ぼ子供といえど、たったの1回で魔力切れが起こるというのは少なすぎるのだ。
「ハァ・・・・・まあいい、俺には魔術だけじゃない、拳術が使える。この分だと魔力量が増えても期待はできないが身体強化を使えるくらいには増やさないとな・・・・・」
ため息混じりに1人呟くと、気怠くなった体を引きずりながらバレないうちにウィルの杖を戻し、こっそりとレントは敷地の外へ出た。
ーーー
今までは危ないから、と言ってウィルもミリィも外へは出させてくれなかったが、監視の目がない今、絶好の機会といえた。
ウィルとミリィが暮らす家は小高い丘の上にあり、少し離れた所に家々が立ち並んでいた。そしてもう少し離れた所には主の居ない、管理人の老夫婦が住む2回建ての貴族か商人の別荘の様な建物がある、そんな小さな村だった。
家の裏手の丘のふもとには澄んだ小川が流れ、木が影になり、家からは見えにくい場所となっている。まさに鍛錬にはうってつけの場所となっている。
そんな場所で1人禅を組み、意識を集中させる。
意識を集中させ、体内の魔力を練る。
あえて魔力を消費させ、鍛えるという手段もあるのだがレントにはこちらの方が合っていると言えた。
ーーー
禅を組んでからどれほどの時間が経ったのだろうか。気がつけば汗をかいていた。
服を脱いでからすればよかったなどと若干後悔をしながら川で服を軽く洗い、木にかけて置く。
次は筋力を上げる為に腕立て伏せ、腹筋、背筋、ランニングを限界まで続ける。3歳の身体にはハードなメニューだが、人間の一生は短い。汗だくになった小さな身体はそう語っているかのようだった。