新しい家族
転生してから1年がたった。どうやらゴーディアもといレントゥルースは生まれてまもなく捨てられ、教会で預かられていたところをウィルとミリィにもらわれたのだ。
ミリィはどうやら子供ができてはいたが、残念ながら流産してしまったらしく母乳は出るが、ときどき悲しそうな表情を垣間見せることがある。
だがそれでも大きな問題はなく、順調にすくすくとレントゥルースは育っていた。そう、大きな問題はなく・・・・
「ウィル!またレントがいないわ!」
「また!?前は玄関で僕の杖を見ていたし、その前はキッチンにいたし、その前は庭で土いじりをしていた!今度はいったいどこにいるんだ!?」
そう、この赤子は中身がとっくに成人し、この夫妻よりもはるかに年上なのだ。そしていつも知識欲の赴くがままに行動しているためこの夫妻は毎日レントを探さなければならないというちょっとした悩みを抱えていたのだ。そして今日居る場所はウィルの書斎だ。
今日は書斎で文字を覚えようと2階まで階段を上り、わざわざ来たのだ。今までは身長も足りず、ハイハイしかできなかったが、最近ようやくひとり歩きができるようになり階段が上れるようになったのだ。苦労して階段を上った先にある書斎のドアは幸いなことに若干開いており、そのまますんなりと入ることができた。
ドアを開けた先には狭い部屋の壁一面にびっしりと本が置かれていた。
いつもは無愛想な顔をしているレントだが、このときは楽しげな顔をしていた。なぜなら本は基本手書きで、紙もそれなりに高価なものなので、本は一般庶民には手が届かない高価なものとして数えられている。その本が大量にあるということはウィルも金持ちの部類に入るであろう。
そんなことをぼんやりと考えながら一番下の段にある本を手に取り開く。
(やっぱりダメか。前世で使われていたハーン共通文字とも違う。人間が使っていた聖マルキシア文字に若干似ているところもあるが内容を読み取れるほど出てもいない。俺はいったいどこの時代に生まれ変わったんだろうか?土の保有魔力を調べても極端に少ないということはないから大昔ではない。次にキッチンを見た限り鉄製品が大量にあった。ということは製鉄技術はすでに確立されているから俺が前世の生まれる前ということはありえない。そして玄関にあったウィルの杖にはある一定の強さの魔物から取れる魔石を加工した魔術補助装置とミスリルが使われた魔術回路があった。魔石の加工が可能になったのは建国暦1000年頃、ミスリルの冶金技術が確立されたのはそれから1500年後くらいだったはず。更にあの循環回路、人間の技術は魔族に比べ大幅に遅れている。最後に見た報告書に類似していることも考えると500年以上は経っているのか?)
自分の生まれ変わった時代に大体の予測をつけ、更なる確証を得るために7冊目にさしかかろうとしていたとき、とうとうウィルに見つかってしまった。
「ようやく見つけた!まったく、いったいどうやったらミリィを出し抜けるか教えてほしいくらいだよ!」
「ちょっとウィル!どういうことよそれ!?」
「まあまあそんなことより。いいじゃないか!レントが無事に見つかったんだからさ!」
「それもそうね!ああレントが無事でよかったわ!」
非常にチョロい。が、やはりしっかりと目的は覚えていたようでレントはしっかりと連れて行くミリィであった。