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ひよこ豆のスープ

 答えは分かった。確認するまでもない。

 俺に女の子を苛める趣味はないしな。

 そもそも、それは何となくルール違反な気がする。ま、ルールなんかないけど過去に患った事がある俺のマイルールだ。


 俺は黙々と夕飯を作った。

 リフレは大人しく椅子に座って、たぶんだけど俺をずっと見てる。

 ちょっと気になるけど、妙に心地良かった。本来、沈黙は苦手な方なんだけどな。


「ねぇ、何凝ったもん作ってるのよ? お腹空いたわ」


 リビングに居た凜子がしばらくして様子を見に来た。


「凝ってない。今できたよ」


「パスタ?」


「パスタ」


「ふーん、で、あなた大丈夫なの?」


 凜子は極めて不機嫌だったがリフレを気遣う言葉を掛けた。


「あ、はい! すみませんでした!」


「貸して、遅い」


 リフレの返事をさらりと流して凜子は俺からパスタレードルをひったくった。

 さっきまでの緩やかで心地良い空気感は失われ、途端にギクシャクし出す。

 まだ修羅場は終っていなかったのだと思い知る俺。


「いっぱい食べれる?」


「あ、はい!」


 態度は悪いが、凜子はまたリフレに声を掛けた。

 たぶん、どう接して良いのか量りかねているんだろう。

 突然、愛する俺のところへ転がり込んできた得体の知れない少女。しかし、恐らく頼れる者は居ず、倒れる程の空腹に耐えていた少女だ。

 本来、凜子は面倒見が良くて、俺以外の友達にも何かと世話を焼いてやってるのは知っている。

 あの場に居たのが俺でなくて凜子だったなら、リフレの召喚主は凜子だった可能性だって多いにある。凜子はそんな女だ。

 結局、パスタもスープも凜子に取り分けてもらって、俺達は席についた。


「さ……さぁ~! 食べるかぁ! まぁトマト缶で適当に作ったパスタだけどな! ははは」

 全然面白くない所で笑う俺。


「ありがとうございます! いただきます!」

 元気にいただきますと言うリフレ。


「こっちは?」

 不機嫌全開だけど言い訳も許されない雰囲気の凜子。


「あ、あ~それは、ひよこ豆のスープ」


「ひよこ豆? 珍しいもの入れたのね」


 リフレが好きかも知れないと思ったのは黙っておこう……。


「んーっっっ!! おいひぃっ! これ凄く美味しいです!」

 良かった。やっぱり好きだったみたいだ。


「本当だ……何これ美味しい……」

 凜子の顔が少し綻んだ!ひよこ豆大正解じゃないか!


「ねぇこれ何で味付けしてるの? コンソメと塩コショウだけ?」


「何だっけ……適当に味見ながらだから忘れたよ」


「えーっ! 何それ勿体無い! あんたって時々天才的だけどやっぱりマヌケね!」


 凜子がちょっと笑った。

 怒ってる時の氷の笑顔じゃなくて、いつもみたいに笑ってくれた。

 俺は今ほど美味しいものを食べると言う事の大切さが身に沁みた事はない。

 ただ腹を満たすだけならカップラーメンで良い。

 でもカップラーメンじゃきっと凜子は笑ってくれなかった。

 またカップラーメン食べる気だったんでしょう?そう言って度々夕飯をおすそ分けしてくれる凜子。

 そんな時いつも、腹だけじゃなくて心も満たされていたんだな。凜子、凜子、あぁ、大好きだ。


「今日は凜子も家へ泊まって行ったらどうだ?」


「はっ……はぁっ??!! あんた突然何言い出すのよ?!」


「俺は誓ってリフレに変な事をするつもりはない。でも小学生の頃と違うって言う凜子の意見はもっともだ。だったら一緒に居て監視してくれれば良い」

我ながら良い事思い付いた。


「〜〜〜っっバッカじゃないの?! 我ながら良い事思い付いたーみたいな顔してるけど全っ然良くないから! そんな事するくらいならあたしの家に泊めるわよ!」

さすが凛子、更に良い事を言うな。


「それ助かるなぁ。女子同士の方がやっぱり色々と……」

着る物とか余ってそうだしなぁ。


「わっ…私は、召喚主様のお側を離れるつもりはっ……!」

おっと、リフレ、ややこしくしないでくれよ?


「大丈夫大丈夫、凛子の家はすぐ隣りだから」

さすがに窓から行き来は出来ないけどな。


「勝手にまとめに入らないでよ! 泊めるって言ってない!」

え?だってさっき……


「言ったじゃないか」


「言ってない!」


「お隣とか、そう言う問題でなくですね……」


ひよこ豆のスープは、冷えきった食卓を温かく……いや、熱い議論の場にしてくれた。


結局、議論と言っても決定権はすべて凛子にあったワケだけど。


「……と、言う事で、お風呂は絶対にウチで入る事。寝る所はおじさんの寝室で内側から鍵を閉める事。どんな事情かは探らないけど落ち着いたらちゃんと自分の家へ帰る事。それまでは朝晩あたしが監視しますからね」


「あぁ! それで良い。ありがとう凛子!」


「はぃ……」


リフレは納得していない様子だったが、とりあえずは警察に突き出すなんて事にならず、お風呂まで提供してくれると言うので俺は素直に礼を言った。


「仕方ないでしょ、今度は道端で倒れられたりしたら夢見が悪いし、まぁあんたに変な気はなさそうだったからね」


「凛子……」

大好きだ……と、思わずタイミングも考えずに言ってしまいそうになる。

告白のパターンを100通り考えてその中から一番グッとする言葉をプレゼントするからな!

あと、今日のスープを再現する事を誓うよ。

これは、リフレの為にも……。

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