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笑顔の修羅場

 家まで徒歩20分。

 もし、俺のチャリンコがパクられてなければこんな事にはならなかっただろう。

 その事を恨むべきなのか、はたまた感謝するべきなのか、俺にはまだ分からない。

 しかし、俺の家が父子家庭で、父親が海外出張中なのには間違いなく感謝する。


「お腹空いてない? 好きな食べ物ってある?」


 道中、ごく普通の会話をしかけてみる。


「正直に言うとペコペコです……。好きな食べ物はアムブロ豆のキッパニャームです」

 ……何それ……。

 

「アムブロ豆って、聞いた事ないな……美味しいの?」


「えっ? 魔力の増幅に繋がる栄養食品ですよ? ポピュラーだと思ってました!」

 あくまで続ける気らしい。キッパニャームが何なのかはもう良いや。


 10歳の時に母親が死んで、家事は慣れてる。

 必要に迫られてだから別に好きじゃないけどな。

 だからついついカップラーメンで済ませて…それを知ってる凜子が時々夕飯の残りとか持ってくるんだよなぁぁ~!あれってあれってやっぱり俺の事好きだったからだろうなぁぁ~!

 おっと、気を緩めるとすぐに凜子の事を考えてしまう。

 なのにリフレを家に泊めようとしている俺。

 やべぇ、何この状況。

 とりあえず今日は凜子来ないだろうし、カップラーメンってわけにはいかないから何か作るのにスーパーへ寄る事にしよう。


 俺はキョロキョロと落ち着きのないリフレを連れて、行きつけのスーパーで夕飯の材料を買い、袋からネギを飛び出させて家路を急いだ。

 まぁ、魔法使いのコスプレをしてるリフレと一緒なワケだから、落ち着きがなかったのは俺もだけどな。


 さて、いよいよ2人きりになるわけだ。

 ここからは落ち着いて行こう。

 ごめん凛子、誓って何もしないから。


「誰その子……」


「?!」


 俺はマッハで声の方を振り返った。

 そこには怪訝な顔で自転車に跨がる凛子が居るではないか!

 どうして!何故!いつも6時過ぎまで部活の筈だ!

 いや、そうか!6時なんてとっくに過ぎている!

 裏路地でのジハード、スーパーでの買い物、自転車を失った俺!

 部活帰りの凛子と鉢合わせる可能性は十分に考えられた!

 浮かれ過ぎだクソ!


「リフレと申します。本日、召喚主様の元へ参りました。これから召喚主様のお出でになる場所へは必ずご一緒させて頂きますので、以後お見知り置きを」


 終わった……。

 深々と頭を下げるリフレを見て俺はそう思った。


「……ねぇ、ともちー? 説明してくれる?」


 凛子は怒ると、笑顔になるタイプで、そんな時俺の事を、昔の呼び名で呼んだりする。

 今みたいにな……。


 2人きりになる筈だったウチのリビングに、3人目が加わり、何から話して良いものかと悩む。


「で? ともちー? 召喚主様とかって一体何の話し?」


 笑顔が眩しいです凛子さん。でも直視出来ないのは眩しいからではありません。


「召喚主様とは私にとって唯一無二の……」

「あたしは友城に聞いてるの! あなたちょっと席を外しててくれないかな!」


 凛子はリフレに苛立った声をぶつけた。

 リフレが何故怒るんだろう?と、不思議そうな顔をしている。

 これって嫉妬?

 参ったな、正確にはまだ付き合ってないのになぁ。

 今日一日で経験値上げ過ぎだろぅ俺…。

 しかし凛子の言う様に、リフレには席を外してもらってた方がややこしくないかな。

 リフレはあくまで異世界転生ごっこを続けるつもりだろうし。


「少しだけあっちで待ってて?」


 キッチンの方へ促すと、リフレは「はい!」と返事をして素直に従った。

 その様子を見て凛子はまた険しい表情になる。


「何あれ。何なの? あんたの奴隷?」

「違います」

「じゃあ何あれ」

「えっと……たぶん、病気です」


 俺は事の経緯を正直に全部話した。


 驚いた顔や哀れんだ顔、心底軽蔑した様な顔など、凛子は何も言わずに聞いていたがその表情がすべてを物語っている。

 さすが演劇部。黙っててもリアクションがでかい。

 いや、演技じゃないか。

 最終的にどんな顔になったかって言うとそれは……笑顔だ……。

 つまり、めちゃくちゃ怒っている。


「家出なら警察に届けるべきじゃない? その病気が本当なら救急車かしら? どっちにしても自分の家に同年代の女の子を泊めるって決断にはならないと思うんだけど」


 それは確かに正論だけど……


「さすがに警察は可哀想じゃないか。どんな事情があってか知らないけど、凛子だって親と喧嘩して俺んとこ泊まりに来た事あっただろ?」


「そんな小学生の頃の話ししないでよ!」


「年は関係ない。あの時お前は俺を頼ったけど、あの子はきっと頼る友達が居ないんだ。一旦引き受けたのに警察なんかに突き出されたら、お前ならどう思う?」


 何の駆け引きでもなく、素直にそう思ったから言ったんだけど、それで凛子は少し考える素振りを見せた。


「でも……小学生の頃とは事情が違うわよ……」


 言わんとしている事は分かる。

 凛子は俺に惚れてるワケだしな。

 でも召喚主だからってキモいおっさんにパンツを見せるリフレに、目下召喚主の俺が手を出すのは絶対にやっちゃいけないと思う。

 凛子にはそこを信じてもらうしかないんだけど、一体どうすれば……。


ガタッ……どんっ!


 その時、廊下の突き当たりにあるキッチンから大きな音が聞こえた。

 何事かと凛子と顔を見合わせ、廊下に出る。

 古い一軒家である我が家のキッチンは引戸で仕切られているのだが、戸は閉まっておらず、リフレが倒れているのが見えた。


「リフレ?!」

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