路地裏のジハード
俺の脳裏に、太眉ちゃんが召喚主を必死で探していたあの時の映像が流れた。
--召喚主様?!あのっ、どなたか、私の召喚主様をご存知ないでしょうか?!たった今リフレが参りましたと!あ、あなた様でしょうか?!--
「……リフレ。スカートを下ろして」
太眉ちゃんの表情が変わった。
リフレが名前で間違いなかった様だな。
さっきまで威嚇的だった目が言っている。「どうして名前を知っているの?」ってね。
さっき聞いてたからだよーん☆とは言わない。
その代わりもう一度名前を呼ぶ。
「リフレ」
ようやくリフレはスカートから手を離した。
白地にピンクのレースをあしらったシンプルなデザインの木綿パンツは、そこから伸びる白くすべやかな太ももと共に俺の眼前から消えた。寂しい。けど、これで良かったんだ。
「リフレ!!」
おっさんも名前を呼んで応戦して来やがった。
召喚主だってウソついてるんだから名前くらい聞いてて当たり前だよな。
リフレはびくりと肩を震わせておっさんを振り返る。
「わ……私……」
迷うな迷うな。
どうせそのおっさんは 名前はなんて言うの?年は? って、ハァハァ言いながら直接聞いて知っているだけだろ。
俺は違う。
最初から知っていた。
何故なら……
「俺が本当の召喚主だよ、リフレ……!」
と言う体。
「相当な魔力を要してようやくお前を呼び出したと言うのに、どうしてこんなところで油を売っているんだ。しかも、本当の召喚主と偽者も分からないのか? 昨日から風が騒がしい。悠長にパンツを見せている暇はないぞ」
ノって来た。
どうだおっさん。
あんたここまで異世界転生ごっこに付き合う事なんて出来ないだろう。
こう言うのは得意なんだよ!
「で……でも……。あなたは先程、違うと言って去ってしまいました……」
げ。
覚えてたか。
誰彼構わず次々と声を掛けてたから絶対忘れてると思ったのに。
でもノってるから大丈夫。
「ちょっとだけ用事があったから一旦そう言う事にしてもらった」
苦しくない苦しくない。
どんなに苦しくても堂々とやりきる事が大切なんだこう言うのは。
ちっとも苦しくないぞ……っっ苦しい?!
いや、苦しいのは俺の言い訳じゃなくて、リフレが俺に急に抱き付いて来たから……なんだけど……。
……今の信じたの……?
「申し訳ございませんでした召喚主様! 未熟なリフレをどうぞお許し下さい!」
信じたも何もないか。
単純に俺の方が上手だと思われたんだろう。
良し、成功したが……おい……パンツの次は胸を押し付けるサービス……
「い……良いよリフレ、大丈夫だから離れて……」
そっと身体を離してやると、リフレの目には涙が浮かんでいた。
凄いよこの入り込み方。
見習いたくはないが。
「さて、おっさん……と、逃げ足はや!」
形勢不利と察したおっさんは、さっさと路地裏を走り抜けて逃げて行った。
俺は緋色の炎壁を使う事無く、一人の少女を救えたんだ!
しかし、やりきった途端に恥ずかしさが込み上げて来る。
「えっと……まぁ……そう言う事で……良かったね!」
「はい! 先程は本当に申し訳ありませんでした」
「良いよ。じゃぁ、俺は帰るし、君ももう暗くなるから帰った方が良いよ。家はどっち?」
「もう帰る家は召喚主様の元と決まっております。召喚主様と共に行きます」
え?続けるの?
「……ごめん、あの……俺そろそろ帰って、色々やらなきゃいけない事があるからさぁ」
告白のレパートリーを100通りはノートに書き出したい。
「お手伝いさせていただきます!」
うわ……どうしよう……。
いつまで付き合わされるんだコレ……。
俺の中で、面倒くさいって気持ちと、どこまでも日常をぶっ壊してみたいって冒険心がごちゃ混ぜになってる。
たぶんリフレの心の中は後者が100%を占めていて、どんな事情があったか知らないが家出でもして来てるのかな。
俺が諦めて、頭の中でやってる事を実際にやっちゃってる。
痛い子だけど、純粋で、その真っ直ぐな目で見られると……参ったな、可愛い。
とりあえず家に帰る気ないみたいだし……今日は泊めてあげるしかない……かも……知れないよな……。
て!
うわあああ……。
何言っちゃってんの俺えええ……。
いやいや何もしない!絶っっっ対何もしないし!
だってそれは仕方ないし!家出少女を、こんな危なっかしい家出少女をこのまま放って置けるわけないし!またキモいおっさんにパンツ見せるのがオチだし!召喚主って言っちゃったし!乗りかかった船だし!可愛いし!パンツ白だし!仕方ない事だし!
俺は光速でリフレを家に入れる言い訳を考えていた。
それは沢山なきゃダメな気がしてとにかく頭の中で並べ立てた。
どれだけ並べ立ててもやっぱりマズイだろって思うんだが、やっぱりリフレは可愛くて……
「……今日は、うちに来ても良いけど、気が済んだらちゃんと帰るんだぞ」
言っちゃってたわ、俺。