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未成年のパンツ

 走り出したい気分だった。

 早くうちに帰ってベッドの上でひとしきりジタバタしたかった。

 頭の中は凛子でいっぱいで、ついさっき会った太眉ちゃんの悲しそうな顔なんかすっかり忘れていた。ごめん。

 だから前方に、あの緑のマントがひらりと見えた時は、思わず「あ」と間抜けな声が出る。


 今確かに緑のマントが見えたのだ。

 そのマントは、俺が入学した頃にはすでに潰れていた小さな文房具屋の路地裏に入って行った。


 下校中の生徒も疎らになり、駅までの最短ルートから外れたその文房具屋の前を通る生徒はほとんど居ない。

 俺は徒歩圏内で駅に用事はないのだが、単純に駅前の道を歩いた方が早いので他の生徒と同様に文房具屋の前を通る事なく2つ手前の角で曲がるのが日常。

 だがしかし、俺の日常はさっき破壊された。

 まぁ凜子との新しい日々がまた日常になるのだろうが。ふふふ。


 あの路地裏に何の用事があるのか知らないが、もう辺りも暗くなる。

 一言、もうウチへ帰る様に促してやるとしよう。

 余計なお世話かも知れない。でも、事なかれ主義 なんて、はすに構えて カッコ付けてるやつは、それはただのヘタレだと理解したほうが良いと思うんだよね、俺。


 俺は、曲がるべき角を通り過ぎ、文房具屋の裏路地を覗いた。


そして、パンツを見た。


「……なっ?!」


 思わぬ状況に咄嗟に身を隠す。

 そこには太眉ちゃん以外に、見慣れないおっさんが居たのだ。

 太眉ちゃんは立ったままスカートをたくし上げ、おっさんはしゃがみ込み、目線を太眉ちゃんのパンツの高さに合わせてめっちゃ見ているではないか。

 その距離、5cmといったところ。

 舌を出したら届きそうなくらいだ…て、変態的な表現だが、その見慣れないおっさんがやりかねない様な目をしていたからであり決して俺が舐めたいわけじゃない。

 あぁ、そもそも見慣れないおっさんと言う表現がいけない。

 キモいおっさんだ。

 ハゲ、デブ、チビの三重苦。

 しかしスーツを着ているのでまともな仕事をしているんじゃないだろうか?


 どう言う事だ……。

 もしかして、悪いお小遣い稼ぎ……か?

 おかなしな子なのは間違いないけど、何となくそんな事をする子には見えなかったんだけどな。

 俺はもう一度路地裏をそっと覗き込む。


 パンツの色は白であります!

 ところどころにピンクのレースが施されているのを確認したであります!

 なんかごめん!すごくごめん!

 太眉ちゃんの表情は髪に隠れて見えないが、俯いて、スカートをあげる手がぎゅっと握られている。

 あれ……?

 ちょっと震えてないか…?


「じゃ……じゃあ……そそ……それ、脱いで見せてもらおうかな……」

 キモいおっさんが鼻息荒くとんでもない事を言い出した。


「えっ? こ……これもですか?」

 太眉ちゃんの表情が見えた。

 真っ赤で、泣きそうだ。

 小遣い稼ぎってワケじゃ……なさそうなんだが……


「ししし召喚主の……命令は絶対に聞いてもらわないと、ここ困るなぁ……」

 ……あー。

 そう言う事かよ。クズ。

 微かに聞こえて来た会話で状況を理解した俺は、迷わず路地裏に突入してやった。


「止めろよおっさん。モテないからって未成年に手を出すのは」


 太眉ちゃんの痛い所を利用してパンツを拝み、それ以上の事をさせようとするキモいおっさんに無性に腹が立ったし、我ながら単純だと思うが、俺には凜子が居るって思ったら、さっきから勇気と自信が湧いて湧いて仕方がないんだ。


 おっさんが俺に向き直った。

 脂ぎった顔がテカテカ光ってやがる。

 太眉ちゃんもスカートをたくし上げたまま俺を見た。

 俺はポケットからスマホを取り出しおっさんに見せ付ける。

 言葉は必要ない。

 これが何を意味するか、バカでも分かるだろ?なぁスーツのキモいおっさん。


「……こっ……これは違う! この子が……自分で……!」


 おっさんは言い訳を始めたが動揺してるのがバレバレだ。

 簡単に追っ払えそうだな、と思った時、太眉ちゃんがパンツを見せたまま身体ごと俺に向き直り信じられない事を言い放った。


「召喚主様に失礼な事をするのはやめて下さい!」


「……えっ?」


「この方は私の召喚主様です! 召喚主様のお望みに答えるのが私の存在意義なのですから!」


 真っ直ぐ。

 ひたすら真っ直ぐ俺に訴えて来る。

 パンツを、見せ付けたまま……。


「あ……あのねぇ、たぶんだけど、いくら合意でも未成年に街中でこういう行為は……」


 さすがに俺はたじろいだ。

 太眉ちゃんはおっさんを庇う様に仁王立ちし、俺に威嚇的な目を向けるのだ。

 なおもパンツは丸見えのままである。


「と……とりあえずスカートを降ろせ!」


「召喚主様……」


 俺の当たり前の忠告に、太眉ちゃんはお伺いを立てる様におっさんの顔色を確認した。

 途端に強気になったのはおっさんだ。


「は……はは! これで分かっただろう! この子は自分の意思でこうやってるんだよ!」


「いやいや違うだろう! あんたがやらせてんだろ! とりあえずスカート降ろさせろよ!」


「ダメだ! そのままにしていろ!」


「ほら! やらせてんじゃないかよ!」


 怒りで身体が熱い……。

 これは……マジで出そうだぞ。

 緋色の炎壁が……。

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