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学園一の美少女

 校門をくぐると、まだ校庭には部活動に勤しむ生徒達が多く残っていた。

この生徒達が帰る頃にも、まだあの太眉ちゃんは異世界転生ごっこを続けてるんだろうか。

 いや、その前に、俺がプリントを持って4回目の通学路を歩くまで続けてる可能性は多いにある。時間にして10分てとこだもの…。

 正直憂鬱だ……。

 異世界転生ごっこに付き合わされるのがって言うか、いくらごっこでも女の子にあんな悲しそうな顔されるのは憂鬱だ。

 まるで自分が悪い事したみたいな沈んだ気持ちで校舎を歩き、のろのろと教室のドアを開けた。

「……きゃっ?!」

「へっ?」

 ふいに短い悲鳴が聞こえ、声の方を見る。

 すると西日で眩しい教室に、1人の、これまた美少女…らしいのだが…

「とととと友城! あんた帰宅部のクセに何してんのよこんな時間まで!」

 宮前凛子。

 学園一の美少女とまで言われているが、隣の家に住む幼馴染みなもんで俺にはあまり有り難みは感じない。

 それにしても何だ?こいつがこんなに慌てた様子を見せるなんて珍しい。

 そもそもどうして俺の机の前に突っ立ってたんだ?

 何だか顔も赤いし……あぁ、それは西日のせいか。

「凛子こそ何だよ? 演劇部の部長さんがこんなところでサボってて良いのか?」

 自然の流れで凛子の方へ歩みを進める。

「何でこっち来んのよバカ! バカ友城! アホ! 死ね! 殺す!」

 凛子は幼稚な、それでいて可愛げのない暴言を俺にぶつけながら何かをグシャリとスカートのポケットに突っ込んだ。

……手紙……?

「いや、だってそこ、俺の席だから……」

 やっぱり手紙みたいだな。

 乱暴に突っ込んだ為に先が折れてるんだろう。半分以上入りきらないで出ちゃってますよ凛子さん。


ふと……俺は思う。


 放課後。

 教室。

 幼馴染み。

 手紙。

 机。

 俺の、机。


「……っ!?」


 いや、待て待てまだ早い。もう一度良く状況を確認するんだ。


 部活のある者は部活動に精を出し、それ以外の者はすでに下校しているであろう放課後。

 つまり本来誰も居ない筈なので何か秘密めいた事をしたいならうってつけの時間帯の教室。

 学園一の美少女と言われ逆に敬遠されがちだが家が隣りなので今でも他の男子生徒に比べてスーパーナチュラルに接する事が出来る幼馴染み。

 恥ずかしそうにスカートのポケットから覗くピンクの封筒に入れられた手紙。

 学校で手紙を入れる場所として下駄箱、ロッカー、に並んで最もオーソドックスな机。

 勉強もスポーツも顔も人並みだが逆にこれと言った欠点はなく、高校も2年生になり最近急に男らしくなったであろう俺の、机。


「……っっ!!」


 いやいや待て待て待てまだ……


「誰にも言わないで……」

「え?」


 凛子はポケットから飛び出して居た手紙に気付き、言い逃れは出来ないと悟ったのかそれを改めて中へ押し込みながら言った。

 たぶんもう、グッシャグシャだ。

 ポケットの中で紙がカサカサ言う音が僅かに聞こえる。

「こんなのもう渡せないし、これは、なかった事にするから……だから誰にも言わないで」

 こら。

 上目遣いで見るな学園一の美少女。

 あぁ、分かったよ、お前は学園一の美少女。

 どうしよう、急に納得してしまった。

 そして顔が赤く見えるのは西日のせいではないのだな?

「そんな事言いふらす様な男に見えるのか?」

 たぶん相当かっこ良く言えた。

 相手を間違えれば何だか痛いヤツだがラブレターを渡すつもりだった男にこう言われるのは悪くはない筈だ!

 たはっ。

 いや、でも、学園一の美少女がラブレターとはずいぶん古風と言うか奥ゆかしいと言うか、良い!良いよ!

「信じてるからね!」

 そう言うと凛子は教室から飛び出して行ってしまった。

「あっ……おい!」

 一応呼び止めたが深追いするつもりはなかった。

 何て言うか俺も心の準備をしたかったし、いやもちろん凛子の事は憎からず思っていた。

 でも突然その、なんだ、やばい顔が緩む。

 とりあえず正直嬉しい!

 何だよあいつ俺の事好きだったのかよ!

 思い返して見ると心当たりがない事もない。

 何かとちょっかい出してくるし、たまたま俺が女子とたわいのない事を話してると妙に冷たい目で見てたりするし、なんだかんだ言って毎年バレンタインにはチョコをくれる。

 そんな時あいつは必要以上に義理よ!義理!義理だからね!と、念を押して来るのだ。

 いつからその義理が本気に変わったのかは分からないが、俺も「何でこれで気が付かないんだよ!」とツッコミたくなる鈍感系ラブコメの主人公みたいな事になってたって事だなぁ。ははは!申し訳ない!

 鈍感系ラブコメ主人公ならこれでも気付かないんだろうが俺は……。


 日を改めて俺から告白してやる事にしよう。


 それが男ってもんだろ。

 女の子の気持ちを分かっていながらそれを放置するなんてのは男のやる事じゃない。

 これが凛子じゃなかったら話しは別だが。

 帰り道は緋色の炎壁のカッコ良い使い方でも考えようと思っていたけど、それよりも凛子にいかにスマートに告白するかを考えねばなるまい。

 忙しくなって来やがったぜ!


 実は、俺もお前の事好きだったんだ。

 俺の女になれよ。

 好きです、付き合って下さい。

 お前とはもう、友達じゃいられない。彼女になってくれ。

 俺たちそろそろ…幼馴染みを卒業しても良いんじゃないか?

 俺にお前を一生守らせてくれないか。

 結婚を前提にお付き合いしませんか?


 俺は緩む頬を引き締めながら軽い足取りで学校を後にした。

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