浪漫の消失
何の当てもなく、誰とは分からない人間を探す。
途方もない話しである。
しかし、リフレが何の脈絡もなくこの町に降り立ったとはさすがに考えられない。……と、言うか、いくらなんでも考えたくない。
なので土日と、月曜日の放課後、ただ足を使ってジロジロと通行人の顔を見て回ると言う行為を繰り返した。
これじゃあ、初めて見たリフレの行為と同じ事だ。
突然見知らぬ土地へやって来て一人ぼっちで当てもなく召喚主を探すって、どれだけ心細かっただろう。
そりゃあキモいおっさんでも味方だよって言われたら頼ってみたくもなるかもな。
しかし、一体何をどうすりゃ良いんだと頭を抱える俺とは対照的にリフレは落ち込んでは居なかった。
「見て下さい友城様! 綺麗な星空ぁ〜!」
何の成果もなく歩き続け、棒の様になった足を引きずって家路に付く頃には、日はとっぷりと落ち、空には星が輝いていた。
「ああ、そうね」
星に感動している場合じゃないだろう……と思ってそっけなく答えた俺にリフレは続けた。
「友城様? 明日もガッコウ、ですか?」
「そうだよ? リフレはお留守番だよ」
先回りしてリフレに釘を刺す。しかし、そう言う事ではなかったみたいで……
「私にもあの火の使い方を教えていただけませんか? いつも友城様にご飯を作ってもらって、私、家で出来ることはやりたいんです」
おお……火ってガスコンロの事か?学校から帰るとリフレがご飯を作って待っててくれるとか、な……何だか新婚さんみたいじゃないか!
ハッキリ言って嬉しいが、地下の探し物をする為に家ごと持ち上げてしまうと言う大胆な選択をするリフレに料理のセンスがあるとは思えない。
いや、別に不味いのは良いや、無事に完成さえすれば。
ただ、そこまで辿り着けない予感がするしリフレに火を任せるとか怖過ぎる。
だいたい俺達はそんなささやかな日常を楽しんで良い状態ではないのだ。
「あの火の使い方は……難しいからダメ」
「……やはりそうなのですね……魔法でも火の魔法を使う事が出来るのは限られた才能ある魔法使いだけですものね……」
ですものね、と言われても分からないがそうなのか。
火の魔法って基本中の基本かと思ってたが、魔法が使えない人間の勝手なイメージだったようだ。
「もうすぐ夏休みだから、そしたらじっくり教えてやるよ。家電の使い方色々。それまで待ってて」
「はい! 友城様!」
俺が召喚主を探してやるって言ってから、リフレのテンションはずっとこんな感じだった。
俺の言葉をまるっと信じて、絶対に会えるって思っているのかな。
まぁ、元気がないよりは良いんだけど、少しだけ違和感を覚える。
家に着くと、ちょうど凜子も自宅から出て来た所だった。
「あら、こんな時間まで歩いてたの? お風呂良いわよって呼びに来たところなんだけど……今どんな感じか話し聞かせてもらおっかな?」
正直、何も進展がないので話す事はないのだが……とりあえず俺はまたコーヒーを三人分用意する事になった。
「……と、言う事で、今日はリフレに最初にあった学校付近を重点的に探し……たって言うか、通行人を眺め、その後城山の付近まで歩いた」
「雲を掴むような話しって、こう言うのの事を言うんだわね、きっと」
凜子が溜め息混じりに言って一口コーヒーを啜った。
「それから、友城様がナツヤスミにカデンの使い方を教えてくれるとおっしゃってくれました!」
あ、それ、今言っちゃいけない気がする……。
「はぁ?」
ほら……な。
「友城! あんた何リフレに家事やらそうとしてんのよ? 夏休みに暢気に家で過ごしてるつもり? 夏休みまでに徹底的にこの付近を探して、休みになったらもっと足を伸ばすのよ!」
「足を伸ばすって言っても……どこに伸ばしていいかさっぱり分からないんだが……」
「それは……リフレ!」
「はいっ?!」
言葉に詰まった凜子は急にリフレに話を振った。
「あなた何か、こう、浮かんで来るようなイメージはないの? こっちの方から呼ばれてるな~、とか、そう、場所のイメージとか!」
「場所のイメージ……そう……ですね……海!」
水着回か!必要だよな!
「いや……海ではなく……何か暖かな水が湧くところ……」
温泉回?!いきなり温泉回?!お風呂壊れてるし良いかも良いかも!
「ううん、違いますね……山! 山です!」
……山かよ。
「特に何の根拠もなさそうだけど、今はそう言うんでも縋るしかないわよね。日帰りで行ける山に足を伸ばしてみて……後はほら、あんたパソコン得意なんだから何か探し人するのに良いサイトとかないの? 友城? ちょっと聞いてんの?」
……山……かよ……。