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当てのない探し人

身体中が……痛い……


「召喚主様」


いてて、揺すらないでくれ、身体がバキバキなんだ。


「召喚主様!」


……リフレ?ああ、そうか昨日、俺も台所の椅子に座ったまま寝ちまったのか。

台所から朝日が射し込んで居る。今何時だ?


「ごめんなさい召喚主様。私がこんな所で寝てしまったから……」


「いや、良いよ、昨日は色々あって疲れたもんな、はは」


スマホで時間を確認するとまだ七時前だった。学校には余裕で間に合うが、明日は土曜日。今日は学校休んで水道工事とか頼んだ方が良いよな。


俺は凛子に学校を休む事をメールして、海外に居る親父に電話をした。夜中だがまだ起きて居る時間だ。

 もともと古い家だったので老朽化で風呂場が壊れたと言う事にしておく。

 全面リフォームになるだろうから後で請求書を見て卒倒するかも知れないな……。


 水が出ないので簡単に朝ごはんを済ませて、凜子の靴跡を掃除して……さて、水道屋は午後の3時過ぎにしか来れないと言っていたのでだいぶ時間がある。


「体調はどう? リフレ」


「何ともありません」


「そう、じゃあ少し話そう」


「はい」


 やかんの中に残って居たお湯を沸かし、リビングに二人分のコーヒーを運んでテーブル越しに向かい合う。

 ちなみに俺はもちろんブラックだがリフレにはミルクと砂糖をたっぷり入れてやった。


 何から切り出せば良いんだと思い悩むが、リフレが先に口を開いた。


「昨日は本当に申し訳ございませんでした。召喚主様を危険な目に……」


「いや」

 

 リフレの謝罪を制する。

 そうだ、まずはこれを先に言っておかなければならない。


「なかったろ? ドラゴンの目玉……」


「……わかりません。ちゃんと探す前に、浮遊魔法が解けてしまいましたから」


「ないんだ」


「…………」


「ドラゴンの目玉なんかない。そして俺は、リフレの召喚主じゃない。ごめん……」


 リフレは膝の上に置いた両手を固く握って俯いた。


「そんな……では……私は一体……何の為に此処に居るでしょう……召喚主様が居ないのなら、私は……私の存在は無意味です」


「無意味だなんて言うなよ!」


「無意味です! 私は一度死んだ身。それは間違いありません。それ以外に私が覚えているのは……世界は決して平和ではなくて……魔法は、魔族と対抗する為のもので……召喚魔法は、とても尊い最上級魔法であった事。それなのに、召喚主様のところへ辿り着けなかったなんて……」


 リフレにとっては召喚主がすべて。それは良く分かった。

 例えそれが汚いおっさんでも、アホな中二病の高校生でも、どんな人間でもリフレにとってはそれがすべて。

 ちゃんと目の前に居て、暖かい身体があるのに、召喚主が居なければそれは無意味だとまで本気で思っている。

 それがリフレの世界の倫理ならば、いくら俺がそんな事ないって言ってもそれこそ無意味なんだろう。

 ならば、リフレを救ってやる方法はただ一つだ。


「ごめん、リフレ。それでもやっぱり俺がリフレの召喚主でない事は事実だ。だから……だから探そう!本当の召喚主を!」


 今にも泣き出しそうだったリフレがパッと顔を上げた。

 何の当てもない。

 でも、リフレの言う事が本当なら、必ずどこかに本当の召喚主が居る筈なのだ。

 俺が召喚主だと嘘を吐き続けても、リフレは満足するのかも知れないが、それは本当の幸せではない。

 それに少なくとも、召喚主を探している間は自分は無意味だなんて思わなくて済むだろう?


 「この世界のどこかに、リフレを強く求めた誰かが居るのなら、そいつとリフレを会わせてやるから。だからこれからは、俺を召喚主様じゃなくって友城って呼べ。友達として協力する」


 結局、リフレの目から大粒の涙が零れた。

 でも、笑顔でこう言ったんだ。


「はい! 友城様!」


「友城で良いってば……」


「ダメです! 友城様です! ありがとうございます友城様!」


 そう言えば凜子のことも「凜子様」だったな……。仕方ないか……。

 それにしてもあいつ、すんなりこの呼び方を受け入れたんだろうか?だとしたら結構女王様体質だったりして……。

 悪くない。



 夕方過ぎ、凜子様が帰って来たところで、俺の家で事の経緯を話した。

 風呂は破壊されたままだがとりあえず破裂した水道管だけはその日のうちに直してもらったので今度はコーヒーを三人分。凜子はミルクだけだ。

 ちなみに、水道屋は風呂場の惨状を見て絶句していたがお客様に対して何がどうなったんだと追求する事はなかった。


「つまり……まずはリフレが異世界から転生して来たって事を納得しなければ話しは進まないってわけね……?」


 ああ、まだそこだったんだ凜子。いや、まぁそれが普通の反応なんだろうが。


「……分かったわ。友城がそう決めたのならあたしも出来る事はしてあげる」


 凜子がそう言ってくれる事は分かっていたが有り難い。正直、俺一人では色々と手に負えないことも出てくるだろうしな。


 かくして、何の当てもないまま、俺達はリフレの召喚主を探す事になったのだった。

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