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魔法の威力

 上からの圧迫感がハンパない。

 前方に片開きタイプのうちの門扉が見えたのだが、高さ1mのその門扉が俺んちの床下に隠れて見えなくなっていく。言っててどんな状況なんだと改めて思うがとりあえずこのスピードはまずいぞ!


「なっ……なっ……何してるんですか召喚主様! びっ……びっ……ビックリして浮遊魔法が……」


「何してんだはこっちのセリフだ! でもそれは後で聞く!」


「友城! 速く戻って!!」


 ほとんど悲鳴に近い様な声で凜子が叫ぶ。

 もちろん分かってるって!俺は左手で掴んだリフレの足首を素早く右手で持ち直して方向転換し、そのままリフレを引きずって片腕と両膝だけで前に進んだ……が……!きつい!


「召喚主様! 足を離してください!」


「ぐ……離したらちゃんと自分で戻る努力をするか……」


 姿勢はどんどん低くなるし、見た目よりずっとしんどい匍匐前進をリフレを引きずってとなると……


「します! ちゃんとしますから! 召喚主様! 早く先に行ってください!! 早く!」


 あー。


 どうやら間に合わない。

 全然間に合わないのに、俺は一歩でも前へ進もうと歯を食いしばった。

 凜子が顔を地面にこすり付けてこっちを見て何かを叫びながら泣いてるから最後まで諦めるワケには行かないと思ったんだ。

 でもどうしても凜子まで届きそうにない。

 地盤のコンクリートごと持ち上げられた俺んちに俺は潰されて死ぬ。

 こんな最後を誰が予想したのだろう。

 今なら思うよ……今日、告白して良かったんだって……


 ……てえぇぇ!!


 何このまま走馬灯に突入しようとしてるんだ俺は!

 俺一人ならまだ良いけど、リフレまで一緒に潰れる事はないだろうが!


「召喚主様! ダメ! 早く離して! 離してぇ!!」


 離したって今さら間に合わないから足をジタバタするんじゃない。

 

 リフレがこんな奇行に走ったのは、たぶん、よく分からないけど俺のせいだ。俺がリフレを追い込んだ。その俺が告白して良かったとか満足して走馬灯を見るわけにはいかないよなぁ!

 何か考えろ!何か……!何か……!!


 生きてるうちに何か考えろ俺ぇ!!


 凜子とリフレが泣き叫び、自分の家が頭上に迫ってくると言う狂った状況で俺が思わず叫んだのは……


「……リフレ! 結界魔法だ! 俺たちを包めぇ! すべてのものが俺たちに触れる事を禁ずる!!」


 もしこれが俺の最後の言葉になったら、誰にも言わないでくれよ?なぁ、優しい凜子よ……


「……っはいっっ!! 包みます!!!」


 今朝感じたのと同じ……暖かな風が巻き起こった。

 そして俺の身体と、恐らくリフレの身体が緑色に光る。

 気のせいじゃない。今朝のも気のせいじゃなかったんだ。

 リフレはきっと本当に、ありもしないドラゴンの目玉を一日中結界で守っていた。そしてその結界の威力は……


 俺とリフレを包む緑の光は球体となり、頭上に迫っていたコンクリートの地盤を破壊した。

 そのまま俺んちはガコガコボコボコと地盤を破壊されながら下降、地盤突破後は風呂場だった様で、俺は球体の中から風呂場の床と風呂釜の一部が破壊されるのをただ見ていた。

 そして、俺んちはすっかり元の位置に戻った……んだと思う。


 風呂場は破壊されたが……生きてる……


「リフレ……良くやった……もう、良い」


 リフレを見ると、俺に足を掴まれたまま胎児の様に身体を丸め、あの時と同じ様に、両手を胸の前で組んでいる。

 汗と涙と鼻水と泥汚れと、とにかくもうぐっちゃぐちゃのリフレの形相が、ぷつりと音がしたみたいに急に緩んで球体は消えた。

 俺達の周りだけ嘘みたいに瓦礫が避けていたのが、少しゴロゴロと落ちて来たのでリフレに覆い被さる様にしてやる。たいした大きさの物はなく、ほっとして身を起こした時、どこからか、男の声が聞こえた。


「かって……」


 かって……?固い?


 キュッ!キュッキュッキュッ……


 一体誰だ?何の音だ?

 俺が訳も分からずキョロキョロと辺りを見回すも、もちろん誰も居ない。

 そしてその キュッキュッ と言う音が止んだと同時くらいに、剥き出しになって折れていた水道管から勢い良く水が飛び出し、俺達はあっと言う間にびしょびしょになってしまった。


「わっ……ぷ! ぷわぁっ!」


 一瞬気を失っていたであろうリフレが目を覚ましてわぷわぷ言ってる。

 とりあえず死の危険からは逃れる事が出来た安心感から、そんなリフレが妙に可笑しくて笑ってしまう。


「はははっ! リフレ! お前泥だらけだからいっぱい浴びておいた方が良いぞ! たぶんしばらく断水だからな! うちは!」


 しかし、どうしてこのタイミングで水道管の水が飛び出したんだろう。

 普通折れた瞬間に噴出す筈だ。それなのにまるで、家が落ち着くまで待っていたみたいな。

 それに、あの声と音は……。


 俺はこの時、物凄い疲れと非日常の出来事に思考回路がショートし、それ以上深く考える事はしなかった。

 それよりも、まだ裏庭で腰を抜かしてるかも知れない凜子に無事を知らせ……そして……まずはリフレをお風呂に入れてやって欲しい。そしてそして……出来ればしばらく俺にも貸してくれないかな、お風呂。

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