青天の霹靂
飛んだ。全部飛んでしまった。
情けない。
いくらストレートにって言っても、そうだほら、「ずっと前から」って付けるって決めてたのに、俺は……
「好きだ。……から、付き合ってください」
何通りも考えてても、結局これしか言えない。
言ってしまった後の方がもっと心臓はうるさくて、もう、凜子の顔も見れなくなってしまった。
でも言った!言ったぞ!
俺はとりあえずの達成感に一瞬だけ身を委ねた。
なのに依然として息苦しいのは、凜子がまだ何も言ってくれないからだ。
何で……何も言わないんだろう凜子……。
ペースを落とす事無く歩き続けてる。チラリと横顔を見やると、困った様に俯いてた。そして、長い沈黙の末、いや、実際には1分くらいだったかも知れないが、凜子が発した言葉は俺の血液を逆流させた。
「ごめん」
ごめん……?
「友城の気持ちは……嬉しいけど、あたし、そんな風に友城を見た事、ないよ……」
「…………」
「思わせぶりだったんならごめん、リフレの事も……あたしが口出すべきじゃなかったのかも……知れないよね。でも、女の子にしかしてあげられない事ってあるし、買い物はあたしに任せて、お風呂もうちで入ってもらって良いから、だから、今日は、もう……」
今日はもう、帰れってか?
どう言う事だか正直思考が追い付かない。
「じゃぁ、あたし行くね!ちゃんとリフレにうちに来る様に言ってね!」
そう言い残して、凜子はおもむろに自転車にまたがり走り去ってしまった。
正直有り難かった。
どんな顔して、どんな事を言えば良いのか全然分からなかったから。
俺は振られたのか?
どうして?だってあの手紙は?
印南だってストレートに行けば大丈夫だって……
印南……。
印南?!
そうか!印南か!
「ははっ……!」
俺は思わず少し声に出して笑っちまった。
単純な事に気付いて一気に夢から覚めた気分だ。
どうしてあの凜子が俺の事なんか好きだと思ったんだろう。勉強運動ルックスすべて並。凜子に何かしてやった訳でもない。
好きになる理由なんか、一個もないじゃないか、笑える!
あの手紙は、印南の机に入れる予定のものだったんだ……。
冷静に考えればあの状況だけでも分かるじゃないか。
凜子は俺の机の前に立ってたんだ。前に。
机の中に何か入れるなら普通椅子が置いてある方に立つよなぁ。つまり凜子は極めて普通に、印南の机の、椅子が置いてある方に立ってたってワケだ!
いざとなったら戸惑って、俺の机の方を向いて覚悟を決めていた所へ、おめでたい俺がやってきてラブレター作戦は台無し!それどころか、盛大に勘違いをされたと!
あー、納得納得すごく納得だ!
悪かったな印南、凜子からラブレターをもらうチャンスを俺がぶっ潰しちまったけど、けどきっと、また別のアプローチで告白されるかも知れないからその時は俺の事は気にしないで付き合えよ?
お似合いだろうなぁ、学園一の美少女とクソみたいに男前な印南は!
浮かれて……印南に相談しちまった事を一番後悔してる。
こんなに惨めな事ってそうそうあるだろうか……。
……帰ろう。
なんてマヌケなんだ。
なんてマヌケなんだ。
なんてマヌケなんだ。
道中はずっとそれだった。自分のマヌケさに打ちのめされ、もうそれしか……。
昨日の俺を思いっきりぶん殴って、思いっきり指差して笑って、そして全力で止めたい。
でも時は戻らなくて、家に帰れば浮かれた俺が連れ帰ったリフレが居る。
また何か作ってやらなきゃな……。
ほとんど放心して自宅まで辿り着き、玄関のノブに手を掛けると、金具なのに、妙に人肌。
そしてまた少しだけ、今朝感じた暖かい風を受けた。初夏の風って、いつもこんなだったんだっけ?まぁ、どうでもいい。
そして玄関のドアを開けて最初に見たのは、両膝をつき、手を胸の前で組んで、眉間に皺を寄せた汗だくのリフレだった。
「何……してるんだ?」
ずいぶん集中していた様で、俺が声を掛けてやっとリフレは顔を上げた。
「召喚主様……おか……おかえりなさ……い」
「うわっ!ちょっ!」
リフレがうちで倒れるのは二度目だ。なんでこんな危なっかしいんだこの子は……。
思わず靴のままリフレを支えに行って、脱ぎながら事情を聞いた。
「何してたんだ、ちゃんと昼飯用意してやっただろ?食べてないのか?」
「はい、今からいただきます……。さすがに結界を持続しながら食事をするのは難しくて……」
俺が学校へ行ってから、ずーっとあの姿勢のまま、ご飯も食べずに居たって事か?
どれだけ……
ちょっと付いていけない。たぶん、思いっきり顔に出た。
それに気付いたんだろう、リフレは縋る様に俺に言って来た。
「心配なさらなくても結界は召喚主様が出てから一度も途切れてはいません!でも……こんな事、毎日していたなんて、やっぱり召喚主様は凄いです」
悪いけど、今しんどい。
上手に出来ないから、リフレ……やめてくれ……