スタスタ スタスタ スタスタスタ
スタスタ スタスタ スタスタスタ
――ヤバイ――
のたった一言で、私の現状表せる。
スタスタ スタスタ スタスタスタ
夜の通りに響くのは、私のヒールの靴音で、
スタスタ スタスタ スタスタスタ
後の方から響くのは、誰かの異質な足音です。
どうしよう どうしよう どうしよう
私は只今焦ってます。
なぜなら背後の足音が、もう10分近く刻んでる。同じリズムを刻んでる。
そうです私の後方を、誰かがずっとつけている。駅からずっとつけている。
スタスタ スタスタ スタスタスタ
人気の無い無い裏通り、街灯虚ろに灯ってます。
深夜の静けさ不気味です。白々しくて不気味です。
生まれて飛び出て27年。色気、男気、微塵も無く、平和に真面目に会社勤め。
会社でビシバシ働いて、ヘタれて自宅に帰る日々。
害無くきちんと暮らしてます。
なのにどうしてこの状況。
私は何も悪くない。
私は何もしてません。
なのに尾行されてるこの状況。誰か私を助けてよ。
スタスタ スタスタ スタスタスタ
ああ、いやだいやだよ、この状況。
後ろの人は誰ですか。痴漢、変態、ストーカー、どれだとしてもお断り。
お願いだからどっかいけ。
スタスタ スタスタ スタスタスタ
まだまだ自宅は先の方。一度後ろを見てみます? 無理無理そんな度胸無い。
私はビビリの子羊ちゃん。ぶるぶる震える子羊ちゃん。
スタスタ スタスタ スタスタスタ
ホントに誰か救けてよ。そんなことを思ったら。ババンと出現ポリスマン。
自転車こぎこぎパトロール。アンタ正しく漢だよ。
おーいおーいと手を振って、助けを求める子羊ちゃん。
漢は私の顔を見て、「何だ何だ」と近付きます。
これで私は救かった。フゥゥと安堵の溜息だ。
ところが事態はおかしな方へ。お顔が蒼白ポリスマン。
私の背後を凝視して、悲鳴絶叫スタコラサッサ。
自転車爆走逆戻り。
ウソでしょ逃げるなポリスマン。
いよいよマジでヤバイです。
私の背後に誰がいる?
私の背後に何がいる?
スタスタ スタスタ スタスタスタ
スタスタ スタスタ スタスタスタ
スタタタ スタタタ スタタタタ
スタタタ スタタタ スタタタタ
走るよ、走るよ、真剣に
走るよ、走るよ、全力で
ホントにマジで勘弁してよ!
ホントにマジでゆるしてよ!
私は何も悪くない!
私は何もしてないよ!
ポーンと肩を触れられて、私は泣きます。叫びます。
力の限り、泣き叫ぶ。
「きゃああああぁぁあああぁぁぁああ!」
突然、彼女は悲鳴を上げた。僕は驚いて、一瞬硬直する。
「あのぅ」
「いやあああああぁぁぁああああぁああ!」
絶叫は深夜の住宅街に轟く。
何がそんなに恐いのだろう。僕には全く分からない。
「あの、おちついてください」
「うぎゃああああああぁぁぁぁあああ」
逃げ出そうとする彼女を必死に捕まえ、僕は彼女の悲鳴に負けないよう大声を出す。
「あのっ! 落し物ですよ」
「ああああああああぁぁぁぁあああ………ふぇ」
ようやく悲鳴は鳴り止んだ。彼女は恐々振り返り、僕の顔にようやく目をやる。
「はい、駅で落としましたよ」
僕は彼女の手に白い長財布を握らせた。
戸惑う彼女はおろおろして、僕と財布を交互に見やる。
彼女のその様子を見て、気付いた。
彼女は僕につけられていると思ったのか。
「あの、もしかして恐がらせてしまいました?」
彼女はバツの悪そうな僕の顔を見て顔を見る見る紅潮させた。
「あ、その、ごめんなさい。私、勝手に勘違いして。どうしよう、私ったら、親切な人に向かって失礼なことを」
どうやら彼女の中で僕は痴漢か、変態か、ストーカーだったらしい。
苦笑いする僕に彼女は何度もペコペコ謝った。その仕草は小動物みたいで何だかとても可愛らしかった。
「あの、よければ家まで送りましょうか」
なぜか、自然とそういう言葉が口から出た。
彼女はビックリしたようで、僕をマジマジと見つめる。
「こんな夜中、女性の一人歩きは危ないですし、僕の家もこっちの方にあるんですよ」
下心は無かったと言えば、嘘になる。どうやら僕はこのそそっかしい女性に魅かれているようだ。こういう出会いも悪くないだろう。
彼女はまんざらでも無い様子で、こくりと小さく頷いた。僕は「それでは」と一言かけて、彼女の横に並ぼうと一歩前に足を踏み出した。
その時、彼女は劇的な反応を示した。急に震えだし、顔を蒼白にする。
「どうしました?」
訝しげに尋ねる僕に彼女はイヤイヤと首を振る。
彼女の視線は僕の後方へと向けられている。
「あの?」
僕は彼女に近付いて再度尋ねる。しかし
「――――――――――――――――――――――――!」
彼女は声無き、悲鳴を上げ、脱兎の如く逃げ出した。
「なんだよ、あれ」
僕は首を傾げ、背後を振り向こうとした。すると
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スタスタ スタスタ スタスタスタ
――ヤバイ――
のたった一言で、僕の現状表せる。