冷たい瞳
「器?どういうこと?」
器ってなんだ?妖怪って妖力の強い者は、自分で人型になれるはずなのに、龍華サマはなれなかったってことだろうか。だから、人間の骸を拾ってそれになることができた?
でも、強力な妖だから、人型になれないってことはない。ということは、なりかたが分からなかった…。とかもありえる。面倒だったからその辺の人間使えばいいじゃん的な。
「さあな。龍華様は姿そのものを消せる。だから、人の住む森の外に、巨大な龍の姿で降りたとて、恐れるものは誰もおらん。誰にも見えないのだからな。」
だから、人型になどあえてなる必要もなかった。だからなりかたも知らなかったということか。目玉はどんどん話しを続けた。
500年前、焼き尽くされた森を龍華は見つけ、その大きな山を新たな住処としようとした。そこで美しい娘が死んでいるのを見つけ、ふと気まぐれに自分も人型になってみようと彼女は思った。
「そしてその死体を器として、人型を手に入れた龍華様が住処とした森が、この乙鬼が支配していた森だったってわけだ。簡単な話だろ?」
んんん、簡単かどうかはさておき…その死体?というか、龍華サマの顔の人?…は、なんで死んでたんだろう?まあ普通に考えて妖怪に殺されたんだよね。うーん。500年前ってことは、私いたのかな……。
そういえば翠に記憶消されてるから分からないんだ。もしかしたら、知ってるかもしれなかっただろうけど。
「で、龍華サマ…何の用だったんだろう。」
「さてな…。だがお前が来て悪化しているみてえだから今日は無理だ。それにしても、死体が生き返るなんてあるはずねえのに…いったい何が。」
ブツブツと何やら唸っている目玉も、すぐに考えるのをやめて私のほうに向きなおった。そして、一言「今日は帰れ」と言って龍華サマの方へ走っていった。
また襲って来られると厄介なので、言われた通りに踵を返し速やかに乙鬼の家に帰った。振り返らずに、また目玉が呼びに来ないことを願って。
止まることなく走り続けた。行きの時は、本当に一瞬で着いたのに帰りは長かった。やはりあの一瞬で着いたのは龍華サマの能力だったのか、目玉の力だったのかはわからない。でも目玉はゼハゼハ行ってたから、おそらくあの力は龍華サマのものだろう。
必死で走って、ようやく建物が見えた。そこでようやく足を止めたとき、目の前には、どこからか瞬間移動をしてきた乙鬼サマが立っていた。
「…!!うわあっ」
突然の出現に驚いて、腰が抜けて地面に崩れ落ちてしまった。おそるおそる顔を上げると、ものすごく不機嫌な顔をした乙鬼サマがこちらを見下ろしている。
「どうした、そんなに龍の臭いを漂わせて。」
即バレた。確かにあんな瘴気を纏った妖怪に掴み倒されたのだ。鼻の良い者なら普通に気づくだろう。
でも、好きで行ったわけではないのだから許してほしい。こっちも乙鬼サマ達と仲良くやってましたなんてバレたら大変なことになるのだから。
そもそも呼び出されたのだって、それが理由かもしれないし龍華サマの様子がおかしかったのはよくわからないけど、逃げ延びることができたので今回はラッキーだった。
それなのに―――
「ヒ…ッ!」
思わず声が出てしまった。乙鬼サマがあまりにも冷たく見下ろしてきたからだ。かすかに殺気まで放っている。その殺気はわたしに向けられているのだろうか。何で?
そういえば、この冷たい視線と殺気になぜか覚えがあることに一番驚いた。消された記憶の過去に、何か悪いことでもしたのか。思いっきり逸らしてしまったが、その冷たい瞳をもう一度勇気をもって見つめ返した。
「あぁッ…痛っ」
突然の頭痛に目をぎゅっと閉じた。その時、記憶らしきものが一瞬真っ暗なはずの視界に映った。言葉まではっきりと。
『…んっ…ゴホ…ッ』
『生きるか、死ぬか。』
――――――選べ。




