扉
「で、ガキンチョのところに行くんじゃなかったのか」
「えっと……ガキンチョってどの辺にいるのか知らないし…。ってわけで乙鬼サマ教えてください。」
外に出て一瞬で家の中に戻ると、ごろんと横になった乙鬼サマはこちらを見向きもせずに気配を察知したらしく話しかけてきた。
ガキンチョの居場所を聞いたところで知るわけないのは分かっていたけど、この森の長なんだから分かってても別におかしくないはずだ。
「……。」
返答を待っていたのだがなにも反応なし。数秒待ってみた後、彼の正面に回り込んでみると見事に眠っていた。いや、おそらく目を瞑っているだけでただ無視しているだけなんだろうけどね。
知らないならそう言えばいいのに。とくにガキンチョに用があるわけでもなく、ただあの場を逃れるために適当に言っただけだけど、会う手段がないということに気づいたら少しだけ会いたくなった。だってほら、森の中は何もやることないから恐ろしく暇人なのだ。
ごろんと横になり、乙鬼サマと同じポーズをしてみた。横になる些細な衝撃で床がミシミシと鳴った。なんというか……ちょっと暴れようものならこの家、というか小屋は簡単に崩壊しそうだ。
五百年経っているといってもさすがに百年に一度は建て替えてるはずだ。だからそろそろ変え時のはず……。
でも何故だか戸は恐ろしいほどボロボロだ。何なのだろうあの戸は。もはやパラパラと一部が塵のようになくなってしまっているし、塞がってないから丸見え状態。
「ねえ、あの戸早く修理したほうがよくない?また葵呼んで直してもらわないと。」
「………!…お前」
「ん?……あ。」
私の言葉にいち早く反応した乙鬼サマ。いったいどうしたのかと思ったが、何故なのかはすぐに理解した。なぜ葵が毎回扉を直してることがわかったんだろう。
言われてみれば一度も聞いたことない。直感でいったわけではなくて、何故か知っていた。
「もしかして、翠に消された記憶とやらが思い出しつつあるとか!」
「………。」
両手を合わせて喜んだ表情をしてみせたが、乙鬼サマはどこか悩んだ顔をしていた。ここは早く思い出してほしいから喜ぶところじゃないだろうか。何故そんなに微妙な顔をしているのか。
逃がさないとかなんとか言っていたあの乙鬼サマが今更になってもうどうでもよくなったとか?別に忘れててかまわない感じ?
どんどん神妙な面持ちになる乙鬼サマに、おそるおそる尋ねた。
「あの…乙鬼サマどうしたんですか?」
「……急がなくてはな。」
何を急ぐんですか?と聞こうとしたが、口を開く前に彼は戸をふっとばして超高速技で出て行ってしまったため、口から出た言葉は何とも情けない声だった。
「ああ…戸が……。」
壊れてしまったものは仕方がない。葵がそろそろご飯を持ってきてくれるころなので、ついでに全部修理してもらおう。
今日は、肉か魚かどちらだろうと考えながら、焚き火の準備をするために、ボロボロの戸を薪の代わりに火の中に投げ入れた。おかげでいちいち小枝を捜す手間が省けたわけだ。
パチパチと燃える火を眺めていると、葵がやってきた。早く来てくれてよかった。このまま火を眺めていたら、自分が焦げるところだった。
「おお、準備してたのか。それにしてもお前、いい木材見つけたな~よく燃えてるじゃねえか」
「でしょーちょっと頭使っちゃった。もっと早くやっときゃよかった~」
「こんなのに頭使ってどーすんだ。」
今日は魚らしい。手際よく魚を串に刺して火の手前に持っていく。肉がよかったなーと涎をたらしながら思うと、その思考が手にとるように分かったのか、夜は肉を持ってきてくれると言った。
「乙鬼様はどこ行っ……。」
「ん、どしたの?」
はむはむと魚を食べていると、家のほうを向いた葵がサッと青ざめた。葵の持っていた魚は、ぽとりと土の上に落ちてしまった。もったいないから川で洗ってから私が食べてあげよう。
「おい、戸はどこいった?どっち飛んでいった?」
いつもなら、気だるそうに戸を探しに行くが、今度はいやな予感がするらしい。私に戸の場所を聞いている。もちろん葵は気づいたと思う。
魚を食べているので、視線だけで戸のある場所を示した。―――この火の中だと。
「んなっ…おま…!!」
あんなぼろい戸の何がそんなに惜しかったのだろう。かなりショックを受けている。火の中で未だ燃える戸を憂いの表情で眺めていた。
「ね、頭使ったでしょ?」
「馬鹿かお前は!あんな木材そうそう手に入らねえんだぞ。ったく余計な仕事増やしやがって」
「えーあれもう扉の役割果たしてなかったしいいじゃないの。わたしも新しい戸探すの手伝うからさ。なんならじーちゃんに買ってもらおうかな。」
しかし葵はすでに新しい戸を作っておいたらしく、案外早く取り付けられた。準備してあったならもっと早く変えろよ。と思ったが、それを言うと怒りそうなので黙っておいた。
そのまま夜ご飯も狩ってきてくれたので、火が暮れてから、そのままになっていた火で焼き鳥を食べる。葵も食べるかと思ったが、さすがに疲れたのかそのまま帰っていってしまった。




