逃げ足の巳弥
「だいたいこれが初めてでもないだろうに。何をそんなに喚く」
訳がわからないと言わんばかりにこちらの反応を窺う乙鬼サマ。こっちがわけわからん。
「え、何ナニ?私の何をしっていると?なんでそんなに確信的みたいに言うんですか。え?」
「ああ…お前、忘れてるのだったか」
記憶がなくなっていることを忘れていた乙鬼サマは、ぽつりと呟きながら、残った酒を飲みほした。
「『忘れてる』って…もしや私と乙鬼サマってそういう関係だったの!?いやいやまさか。…んでも待てよ。
前に『記憶が戻ったらどうする?』って聞いたとき、逃がさないやら何やらって言
われたような……。
だあああ!いやいや言われてないない。聞き間違いだったってことで。はい忘れた~」
「お前、相変わらず心の声が漏れるようだな。」
脳内で整理整頓していたはずが普通に声に出ていたらしい。あーだこーだ考えていた間に乙鬼サマは、いつもの隅の壁側に移動し、くつろいでいた。
「き、聞かれてしまったなら仕方ない…。前から気になってなんです。もう気になって気になってその気を紛らわすために、その辺の下級妖怪に石ころ投げてみたり、頭突きして記憶を取り戻そうかと下級妖怪の」
「わかった。答えてやるから下級妖怪を虐める前に何が気になるのか言え。」
「だ、だからその…何故記憶を取り戻したら『逃がさない』になるんですか。私、500年前に何かとんでもないことでも仕出かしましたか。」
緊張のせいか、伸ばしていた足を正座し直し、意を決して聞いてみた。記憶はないとはいえ、今聞いたらもう逃げられなくなるのでは、と思ったけれどもう気になってしょうがない。この際やばいことだったら逃げられなくなる前に私は逃げる。
小学生の時から鬼ごっことか、逃げ足だけはとにかく早いから、「逃げ巳弥さん」とあだ名がつけられたくらいだ。
鬼ごっこ強いから、本物の鬼にだって負けない自信はある。と思う。
少々間があったが、乙鬼サマは静かに口を開いた。
「知ったらもうお前の「家」には帰れなくなるがいいのか」
「何も聞きません。ああ!そうだ私、ガキンチョに用があるんだった~。ってわけで乙鬼サマごきげんよう。」
「……。」
危ない危ない。本当に帰れなくなるところだった。逃げ巳弥の異名を持つ俊足の私だって逃げられない。あれは絶対逃げれないやつだわ。
じっくり思い出すのを待とう。下級妖怪の眠っている間に不意打ちで頭突きかますのって結構おもしろいし、激痛だけど天使の妖怪のチセさんが、私は「頭撃ったらその衝撃で思い出しそうだな」とかなんとか言ってたから、効果は抜群のはずなんだ。




