林檎の少年
森を出てきたのはいいけど、どうせならあの暇そうな葵連れてこれば良かったな。まあ来ないと思うけど……。
鐘が鳴って、数時間後にはどこからともなく人が集まり踊りが始まったり、屋台が出てきたり、町の皆は突然のことなのにかなり慣れた様子。
もし、今他所から人が尋ねてきたら、いったい何があったのだと驚くだろう。町を歩く人が突然皆、妖怪みたいになっちゃってるんだから。怖いというより、不気味。
それに加え今は休みの時期なので学校もないので、人が沢山でお祭り状態。
小さい子供達は、わざわざ耳とか尻尾とかつけて歩いてる。可愛いじゃないの畜生!
鐘が鳴ってからずらりと並んだ屋台を一人で歩いて回る。やきとりなど食べ物はまだ準備中だったので、屋台はもう少しかかるかなということで、おじいさんやおばあさんが踊っている輪の中にでも入って遊んでいようかと思ったところ。
ふと、目の前のに、「果物・野菜つめ放題」と書かれた屋台があった。森の妖怪達におすそ分けしてあげようかな。つめ放題って野菜入らなくないかこれ。もう果物でいいや。
どんどん人が集まってくるので、てきぱきと袋の中に果物をつめた。いろんな物を入れようかと思ったけど、もはや争奪戦になってるので、他の物を入れることができなかった。というわけで、袋の中には林檎が6個ほど。
「痛たた…皆めちゃくちゃ押しのけてきたな。早く見つけといてよかった…。」
なんとか屋台から人を押しのけながら出るが、目の前から走ってきた人とぶつかり、ベチャリと転んでしまったため、せっかく買った林檎が、袋から出てコロコロと転がってしまう。
早く拾わないと、つめ放題で取れなかった人にとられるかもしれないので、擦りむいた腕を掴みながら立ち上がる。
転がった5個の林檎を拾い、残りはひとつというところで何者かが、そのひとつを拾いあげた。
「……あ。」
そこには、小さな少年が一人。こちらをじいっと見つめたかと思うと、拾った林檎を食べてしまった。
私の林檎が…。と、一瞬ぎょっとしたが、それよりも地面を転がった林檎には砂がいっぱいついてるのに掃いもせずそのまま食べてしまった。
無表情の彼の顔は、すこしだけおいしそうな顔をしていた。か、可愛い。
陽の光に当たる彼の髪はどことなく赤い。こちらを見てくる瞳すら赤い。
カツラと、カラコンかな。服もなんか妖怪っぽい。ここにいる誰よりも妖怪になりきっている。
もしかしたら、この少年の雰囲気がそうさせてるのかもしれないけれど。
「……?あれ、君どこかで……。」
「……。」
ふとどこかで会ったような、見たような気がして、思わず口に出したが、本人は無言で林檎をかじるだけ。
乙鬼サマに似てるっていうかなんというか…会ってはないと思うけど、何かで見た気がする。
なんだったっけ、と記憶を巡らせてみると以外にもすんなりと思い出した。
「……そうだ。写真でみたんだ。」
確か記憶をなくす前に盗撮したと思われる乙鬼集のアルバムに、この子が沢山いた。
この全く興味がないというような瞳がかなり印象的なのを覚えている。
「……ガキンチョ?」
控えめに小さな声で聞いてみると、それに気づいた彼は、林檎をかじるのをやめて、「そうだ。」と答えてくれた。
無視されるかと思ったけど…。ちゃんと答えてくれるんだ。
ガキンチョってことは、あれでしょ。「久しぶりだね!」というか、「わあっ五百年ぶり~。」なやつでしょ?
もう私のこと忘れてるかな。仲良かったって聞いたんだけど、全然驚いてないし
……。ここは感動の再会とかいうやつじゃないのかな。
聞きたいけれど、別に仲良くなかったなんていわれると地味に傷つくので、「久しぶり…?」といっておいた。
林檎をバキバキと芯まで食べてしまうあたり、彼は本物の妖怪のようだ。
「林檎好きなんだ。」
「ああ。」
汚れた手をペロペロと舐める彼に、林檎の入った袋を渡した。感動の再会ということでこの少年にあげることにした。
目の前に袋を差し出され、ガキンチョはきょとんと頭に「?」を浮かべるも、私が、あげるというと、無言で袋を持ちすぐに林檎にかじりついた。
「おいしそうに食べるね。本当は乙鬼サマにお土産をと思ったんだけどまあいいや。何かデートするみたいだったし。」
独り言のように呟いたが、ガキンチョは再び林檎を食べる手を止めて、こちらげんなりと見つめてきた。
「……デート?」
いったい何の話だという表情をしてガキンチョは問うてきた。というより、こんな小さな妖怪まで英語分かるのか。
ということは結構頻繁に森から降りて人の生活に紛れてるのか。
「…え?……う、うん。誰かとデートするって葵って妖怪が言ってたから。」
「葵……。」
「もう、デート行くならそう言えばいいのに!どんな妖怪といるのかなー。というかいつの間にそんな約束してたんだろ。すぐ誘ったはずなのに断られちゃうし…。」
ぶーぶーと拗ねる私に、首を傾げるガキンチョ。




