鎮む
なんかもう、妖怪と仲良くなれるんじゃないの?と思うけれど、きっとこの時代の人たちは、心の奥底では確信を持って妖怪を信じてるわけではないと思う。どうせ記憶喪失はこの町にのみ流行る奇病とでも思っていそうだ。
まあそうだとしたら、病なのに何故こんなににぎやかな祭りが始まるのかと不謹慎に思うだろう。しかし、此処の人たちは、なくなった記憶も数日経てば思い出すものだと知っている。
おかげで、謎にどんちゃん騒ぎというわけだ。にぎやかなのは嬉しいのだが、リアルな現場を目撃してしまってちょっと複雑だ。
「でも、せっかくだから、町に戻って遊んでこようかな。」
木の上で優雅に眠っていた乙鬼サマを誘ってみた。寝たふりで無視されるかもしれないとは思ったけど、意外にもパチリと目をあけてこちらを見下ろしてきた。
「勝手に行け」と即答されてしまった。
「えぇ…そんなこと言わずにたまには、ね!人の暮らしもいいもんだよ。森から出たことくらいはあるでしょう?今なら、皆妖怪みたいな格好してるし、乙鬼サマいても多分大丈夫!!」
「……。」
「むう…。」
その後はもうだんまりだった。でも意外と興味はあるのかもしれない。少しだけ考えるような表情をしていた。
もう少し粘れば行ってくれたかなと期待と同時に、後悔した。
まあいいかーと諦め半分、しょんぼりしながら山を降りていくと、いつからか私の後を追ってきた葵が、木々を飛び越えて楽しそうに話しかけてきた。
「巳弥ー、例の祭りに行くのか?」
「え、そうそう。よく分かったね。」
歩きながら、葵のほうを見てみると、何故か彼はニヤニヤとしていた。何こいつ気持ち悪い。
何その顔は、とわざと気味悪そうに聞いてみる。
「あー?だってお前、これから乙鬼様とデートなんだろ?」
「……?はい?」
葵の口から、デートという英語が出てきたことにも吃驚だったが、今はどうでもいい。なんと言った?
「……あ?違うのか?いや、だって支度するためにさっき、ものすごい速さで翠の所に……。」
そこまで言って、ハッと固まってしまった葵。え、どういうこと?どういうこと?乙鬼サマも、鎮禍式行くって支度?行かないって言ってたのに?
「……翠とデートするの?」
「い、いや違う。」
「つ、つまり……私より先に先約がいて、その人とデートするってことか…。だからさっき誘いも断ったのね」
「それも違うがまあいいか。」
「違わないじゃん~。で、どこ行くって?」
「だから、祭りだろ?」
「へえ……。」
「………どうした?」
いや、こうしちゃいられない。乙鬼サマ、どんな人…というか妖とデートするんだろう。ちょっと見たい。千世さんみたいな天使にも靡かないあの乙鬼サマがね~。
気になるからものすごく見たい。でもなんか虚無感が襲う。私、よっぽど乙鬼サマと行きたかったのかな。
大きくため息をついて、よぼよぼと歩き始めた。




