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覚めた夢の続き  作者: 神無
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喪失の式

ピヨピヨと小鳥の愛らしいさえずりが暖かな風とともに聞こえてくる。きっと森の外から山を見上げればさぞ美しかっただろう山桜も、いつの間にか咲き乱れ、いつのまにか散っていった。


ここで困るのは、散歩しているときに目印にしている乙鬼サマがつくったという桜の木がどこなのか分かりにくいことだ。


辺りは、淡い桃色で、年中咲き乱れる桜の色や大きさは違えど、パッと見分けるのはなかなか面倒くさいものだった。それでも圧倒的な存在感があるのですぐに分かるのでそんなに悩むこともなく、山桜は知らないうちにどんどん散っていってしまった。



緑と桃色の花弁が混じり合って、満開のピンクでなくても、これもなかなか美しいなあと思わせるものだった。



ひらひらと風に攫われる桜を感じながら心地のいい気分で瞳を閉じていた時、突然悲鳴のような声が耳に入ってきた。



「!……なに!?」



バサバサと鳥が飛び去っていく音がする。声のするほうはものすごく近かった。妖怪にはよく会うし、上級だけでなく奇妙な形をした妖怪にも会うが、彼らは悲鳴をあげたりはせず比較的森は静かだ。



それに、声の主はまだ子供のような幼いもので、変声期のきてない少年のような声。おそらく人間だろう。少年となれば、遊び半分で入ってきても仕方ないかもしれない。


この時期は、行くなと言われれば行ってみたくなるものだ。



そもそも、私が森にいても襲われないんだから、別に男の子が入っても大丈夫なんじゃないかな。



でも、悲鳴あげてたし……。とりあえず心配だから、行ってみることにした。



小走りで木々の後ろに隠れながら移動して、ひょこりと顔を出してみると、そこにはよく見知った人物がしゃがみこんでいた。




「あ、乙鬼サマ!」



思わず大きな声で名を呼んでしまったところで、ハッとした。まだ幼い少年もそこにいて、しゃがみこんでいる乙鬼サマの膝の上で気絶している。


え、もしかして殺した?



 

 ドキリとしてすぐに彼に近寄ってみると、とくに少年に外傷はなく、眠っているだけ。乙鬼サマは、眠る少年の頭に手をおいている。ただ置いているだけではないのは一目瞭然。目に見える彼の淡い紅色の妖気が手から、触れる少年の頭部に流れている。



「な、何してるの?」



「記憶を消している。」



あっさりと教えてくれたことにも驚いたが、そんなことが出来たのは翠だけではなかったのかということにも驚愕した。


「なんで記憶を?」



「今更森に妖がいたなんて、このガキに言いふらされると、昔のような争いになりかねん。これ以上妖怪を従わせるのは面倒だ。」



「面倒なだけなんかい。」


なんだ。人を殺すのは好まない。とかちょっといいこというのかと期待したけど…。ということは別に殺すって選択肢もありだったりするのかな。


いちいち殺すのも面倒?いやいや、記憶消すたびに妖力使うほうが面倒だよね……。


「理由は分からないが…子供はこうして、俺がはった結界をすり抜けて入ってきてしまうんだ。」


「結界なんてはってたの?じゃあ本来は入れない?」


「ああ。俺たち妖怪の森とは違う、別の空間を作ってある。人にはただの荒れ果てた森の中にしか見えない。」


そんなすごいこと出来るんだ。私とアキが入れたのは何故かと聞くと、それは翠が呼んだからだろうと簡単に言われてしまった。妖術恐るべし。



「時期にまた、森の外がうるさくなる。」



「え?」


ポツリと乙鬼サマが呟いたことが、いったい何のことなのか、その時はまだ分からなかったが、陽が暮れた頃、すぐに知ることになった。


少年は、森からちょうど出たところに寝かせられた。多分誰かが見つけるし、自分で目を覚まして帰るだろう。数時間分の記憶はないけれど。




そういえば、私もそうだった。500年前に行ったという奇怪な体験をしたみたいなのに、その記憶を翠に消されたあげく、道端にポイされたんだ。



無くした記憶はそのうち思い出すんじゃないかって私は言われたけど、その少年も思い出すとして、そうしたら記憶消しても意味無くないかと乙鬼サマに聞いてみた。


森に入ってきた者は、自分が誰かも分からない状態にして、数日後、森で見たこと意外は思い出すようになっているらしい。そんなことができるとはさすが乙鬼サマ。




「私も思い出すのかな。」


でも私の場合、記憶を消したのは翠だから、どうなるかは分からない。

誰もいない森の中をただただ、ぼうっと歩いていた。いつまで考えごとをしていたのか、気づいたときには、夕方。


森の向こうの奥、森の外だろうか。何やら太鼓がリズムよく叩かれる音が聞こえてくる。



重々しい鐘の音が、ゴーンと一つ響いてくる。




「……あ、これは。」




突然始まる『鎮禍式、喪失の式』と呼ばれるものだ。


この暗い鐘が、始まりの合図。なぜ行われるのかは、おじいちゃんに簡単に聞いただけなので、くわしいことは分からない。ただ、数回このような体験をしているが、祭りのようなにぎやかなものなので、とくに気にしなかったし、興味もなかった。


ただの伝説が関係して、行われる恒例行事のようなものだろうと思っていたが、本当だったんだ。




記憶がなくなるという奇怪な現象があまりに頻繁に起き、それが森に入ってしまった者だという共通点があったころから、いつしか人は、森にいる妖怪の仕業だということになった。


昔はよく人が殺されるのが普通だったが、記憶を抜き取るだけで殺さずにいてくれるようになったことに感謝して、鎮禍式が始まったらしい。



昔は、この鐘のように暗くて重々しい雰囲気でやっていたらしいが、500年も経った今、妖怪が本当にいるのかもわからない。すっかりにぎやかなお祭りとなっている。


妖怪の面などをつけたり、仮装パーティーかよといいたくなるほどだ。

本物の妖怪がいてもいけるんじゃないかな。






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