一時帰宅
目が覚めたのはお昼過ぎ。起きて早々、お泊りのために持ってきていたリュックサックに荷物を詰め込むと、それを担いだと時、タイミングよく現れた葵は、不思議そうな顔をしていた。
「……おまえ、そんな荷物もって次はどこに行く気だ?まさか龍のところ行くんじゃねえだろうな……。」
「違う違う。一旦家に帰るの。そろそろおじいちゃんが心配するころだし、友だちの家にいるって言ってあるけど、その友だちもいつまで私の話しに合わせててくれるか分からないからね。」
「あー。そうか、ならいいが……すぐ戻るのか?」
「うん。友だちとじいちゃんのところにちょっと顔出したらすぐ戻ってくるつもり。」
それじゃあね~といって、私は重たいリュックを背負って山道を降りていった。
早く戻らないと、おじいちゃんが怖い。森に入ったことがバレたら二度と外に出してもらえなさそうだ。
普通の人は、数百年も誰も立ち入らないような森に行ったなんて夢にも思わないだろうけど、おじいちゃんは別だ。
学校へ行っただけのはずの私が、帰宅時間に森の入り口付近で倒れていたのを発見していて、それも乾いた血でボロボロに破けた制服に桜の花弁やら土がこびりついた状態で倒れているなんて、もはや森で襲われたのだと考えるほか無かったはずだ。
そんな後に突然アキの家にお泊りに行くなんて嘘くさくて疑われても仕方ない。
とりあえずはアキの家に行ってこよう。
森を出る前に白蛇にお礼をいって近くの枝に離してやると、モモンガのように木々を飛び越えてどこかへ行ってしまった。
さすが妖怪というべきか、蛇のくせになんつー飛び方しやがる。というかちゃんと戻ってきてくれるよね。鼻が利くみたいだし、迎えきてくれるよね…。
真っ直ぐに早足でアキのもとへ向かった。
バタバタと慌てて玄関から飛び出してきたアキは、私の顔を見ると、ホッと安心したように飛びついてきた。
「もう!なんで早く帰ってこないの!?」
「心配してくれてありが…」
「あんたのおじいさんが毎日尋ねてくんのよ!?誤魔化すの大変だったんだから!そろそろ限界すぎて夢遊病でどこかに消えたって言うところだったわ。」
「心配してたのそっち?…早めに帰ってきてよかった…心から良かった…。夢遊病で消えたとかどんだけミステリー。危ない危ない。」
あと一日遅かったらおじいちゃんが発狂したに違いない。それでもまた私は森に戻るつもりなんだけど。アキに任せていいのだろうか不安になってきた。
それでも頼めるのはアキだけなので、なんとかもう一度頼み込んで、しぶしぶ了承してくれたアキは、また誤魔化すネタを考えてくれた。
「はあ、本当に森にいたのね…。川とか流れてんの?顔くらい洗ったんでしょうね…何日風呂入ってないのよ…。木屑だらけだし…その格好でおじさんに会ったら完全バレるじゃないの。」
「あ、ほんとだ。」
「さあほら入って。風呂貸してあげるから入ってきて。服も洗濯しとくからリュックかして。シャワー浴びたら、おじさんのところ行ってきたら?」
「うんっそうするよ!!ありがとう!!」
だいたい一週間ぶりの風呂につかって、ふう~と大きく息を吐いた。やっぱり温かい風呂が一番だ。何故か風呂がやけに久しぶりのような気がしてすっかり寛いでしまっていた。
洗濯終わったよ~とアキが報告にくるまで湯につかってしまっていた。正確には眠ってしまっていたんだけど。
「洗濯物、乾燥機にかけてるから、今のうちに早く行ってきたら?」
「そうだね、ちょっとゆっくりしてくる。」
呆れた顔をしながらも、ここまで親切にしてくれるアキはなんていい子なんだろう。森の中ではどうせご飯もろくに食べてないんでしょ、といって風呂に入ってる間にご飯まで作ってくれていた。
なんというかお母さんみたいだ。言ったら多分叩かれるから言わないけれど。
玄関について、鍵が開いていることが分かったので、そのまま家の中に入った。
「おじいちゃーん。ただいま!帰ったよ~」
「巳弥!おまえ…泊まりに行くと言っていたが…本当にあのアキって友だちの家だったんじゃろうな。」
「え…うん。もちろん!」
「怪しいと思って毎日尋ねていったが…お前は一度も顔を見せなかったじゃろう。本当に、あの子の家に泊まっていたのか?」
「…あー、その時はきまってゲームしてたから出れなかったの!ボス戦だから。ゲームオーバーしたら最初からなんだから!アキには適当に言い訳してもらってただけなんだ。ごめんね!」
「まあ…そういうことにしておいてやるかのう…。無事だったわけだしな。」
「無事」って…もうなんか完全に気づいてるっていうか、信じてないっていうかね。あはは。
まあとりあえず良かった良かった。
「怪我はしとらんじゃろうな。」
「え、ああうん。ほらこのとおり」
両腕を前にだして掌を広げた。どこも怪我してない。いやでも少し木登りドジってすりむいたけどまあ気づいてないからいいや。
「……。」
傷の確認のはずが、前に差し出した腕から目を離さないおじいちゃんを不思議に思って、「おじいちゃん?」と呼んでみると、ハッと我にかえったように視線を逸らした。
「いや、その腕…。」
「あ、ああ。これ?呪いなんでしょ?私にもよくわからないけど」
おじいちゃんが見ていたのは、初代波紋の祓い屋しかかけられない呪いだった。
何故か私の腕に彫られたかのようにくっきりとある。かけられた本人である私が知らないのは、翠に記憶を消されてしまったからだし、それは嘘偽りのない真実だ。
過去の私は、初代に妖怪と間違えられたのだろうか。
「これってさ、初代がかけたってことはさ、これ500年経ってるよね。今も効力あるの?」
「さあな、わしには分からんが…。かなり古い。それに、何か封印されたように、強力な何かが呪いを覆っている。…妖怪に向けても、発動はしないかもしれんな。」
「そっか…。」
「だが、お前も波紋の血筋なのは確かじゃ。お前の力でそれを再び使うことは出来るかもしれんが、…いや、まあ妖怪がいればの話じゃ。それにまず無理だろうな。」
「う、うん。」
妖怪いるんだけどね普通に!私が森に入ってることはきっと予想してるだろうに、妖怪がいるかいないかはそこまで信じていないのかな。
まあ、森へ行っていた私がこうも普通に帰ってきたのを思えば、妖怪もそうそう出てくるものではないと思うんだろうけど。
祓い屋のおじいちゃんが、妖怪を信じてないわけがない。
今は、疑われているだけだけど、森へ行くなんて言ったら絶対許してくれるはずがないから、もっと慎重に行動しなくちゃ。




