謎の行動
「おい、お前……その羽織といい、鎖といい…乙鬼様のじゃねえか!!!何でお前が持ってんだ!!」
「ああ、葵おはよー。これ?これ盗んだ。あ違う違う!貰ったの~」
そうへらへらと笑いながら乙鬼様の羽織を着て、それに武器まで手に持って歩いていた。
いや今ごく自然に盗んだって言ったよなこいつ。言い直してたけど普通に言ってたよな間違いなく。
羽織を着るといっても乙鬼様との体格の差のせいで、ダボダボでまともに着れていなかった。手が出ていないし肩もズリ落ちている。脱げるのも時間の問題だ。しかもあのお方の銀の鎖まで盗んだらしい。
かなり重いのかズルズルと地面に引きずって歩いている。持たなければいいのに何がしたいんだ。というかそんなにぞんざいに扱ってるのを乙鬼様が見たら……。
大変だ。いくらこいつでも、大事な武器がこんな扱いされてるの見たらお怒りになるに決まって……
「乙鬼サマ~」
「!!…ちょ、おい!!」
なんてこった…。自分から呼びやがった!
「おい、その鎖引きずるな!重くても持てよ!!」
急いで鎖を巳弥に持たせるが、「うごぉおっ」というゴリラのような声を発してそのまま武器の重みに負けて身体ごと崩れ落ちていた。なんというか同情した。
再び引きずり重そうに持ちながらヨボヨボと歩き出す。
「乙鬼サマ~」
「おい、前から思ってたがなんだその『乙鬼サマ』は。棒読みじゃねえか!敬称つける気ねえなら初めからつけるなよな…。」
「いやだって、あんたも翠も皆そう呼んでるから」
「ならもっと心こめて言えよ。乙鬼様、だ。」
「乙鬼サマ」
「やる気ねえな。お前昔は呼び捨ててたぜ。…まあそれよりはマシか。」
「へえ、そうなんだ。……ていけない!私急いでるの!」
さらば!と言いながら走って行ってしまう巳弥。どこへ行くかは知らないがものすごくいやな予感がする。
いや、でも乙鬼様を呼んでいたから恐らく探しているのだろう。白蛇を使っているからたぶんたどり着く。
あいつが怒られるなんて俺の知ったこっちゃねえ。魚を捕りながら火をおこしてあいつが戻ってくるのを待つ。
じーっとパチパチと音をたてて燃える火を見ていると、何となく気になって、すぐに巳弥の後を追った。
あいつの匂いを追っていくと、そう離れていない場所で見つけた。木の横で何やらしゃがみ込んでいる。人差し指を顎に当てて考え事をしているのかと思ったら、ハッとひらめいてポケットから妙なものを取り出した。
「あいつ何してんだ……。」
そろりと近寄ってみると、木に隠れて見えなかったが乙鬼様が座っていた。いつも着物が汚れるのを嫌うから枝に座るのに珍しく地面に座っていた。
乙鬼様なら、巳弥の気配どころか、俺の気配すら気づいてるだろうに、とくに動こうとはしないようで眠っている。
そんなことも知らないであろう巳弥は哀れだ。いったい何をするつもりなのかと思ったが、驚いたことにこいつは、乙鬼様が起きていたことに気づいているらしい。さすがに学習したのか。
「乙鬼サマ。……髪の毛ください。」
「はあ!!?」
突然のびっくり発言に思わずギョッとしてズッコケそうになった。それにはさすがの乙鬼様も驚いたようで、瞬時に目をパチリと見開いて巳弥の方を向いていた。
「髪の毛ください」といったときには既に、乙鬼様の髪の毛を一束掬い取って、現代の武器なのか何なのか知らないが、シャキンという鋭い音を鳴らした後、髪の毛を切ろうとした。
しかしそれより早く、乙鬼様は巳弥の手を止めていた。
「次は何を仕出かすかと思えば…お前は……。」
呆れた声をあげて、巳弥の持っているものを投げ捨てた。
つまりは乙鬼様は、予期してここに座っていたのか。確かに武器も羽織も盗られているし、次もまた何かしらしに来るだろうとは予想できるが、髪は予想外だったらしい。
「…で、今度は俺の髪は何に使うんだ。」
「えっと……その。乙鬼サマの髪の毛を枕に埋めて…安眠……ごにょごにょ」
言葉を失った。雷に打たれたような感覚が身体に走るような衝撃だった。
こいつ、俺が出した食べ物以外にも何か食ったに違いない。頭おかしくなったのか。それとも誰かこいつに嫌がらせでもして惚れ薬でも盛られたのか。
何にせよ発言が危険だ。変態だ。
唖然としている俺とは違って、乙鬼様は慣れたというような態度だ。自分で言っておいて何故か一人で爆発しそうなほど赤くなっている巳弥を悪い笑みを浮かべて見つめている。
なんだかよく分からなかったので先に帰ることにした。
後から、巳弥に髪の毛はもらえたのかと聞いてみたが、「毛……もらえなかった。」と心底残念そうにしていた。そんなに乙鬼様が好きになったのか…。いったいどうしたらここまで積極的になってしまうのか。
疑問に思ったことをすべて、乙鬼様に聞いてみることにした。
すると、さっきの意地の悪そうな笑みはすっかり消えうせて無表情だ。
「あの、数日前からあいつどうしたんですか。」
「……龍に脅されてるんだろう。昨日、あいつの身体に龍の匂いが染み付いていた。」
「……しかし、なぜ」
―――髪の毛をほしがるんだ。
「大方、俺の一部を持って来いとでも言われたのだろう。始末しろ、とかな。」
「な、なるほど……。」
それで、馬鹿なあいつは何でもいいから一部を龍の奴に持っていこうとしていたのか。
龍華が羽織や髪の毛なんざ欲しがるわけねえだろ。
それでも、諦めていない巳弥は次の日も、その次の日もずっと考える素振りを見せていた。




