匂い
「あ、あの~乙鬼サマ、どどどうしたんですか」
どうもこうも私がドン引き発言するからなんだけどね!でもねそんな無表情のままこっちに来ないでほしい。
といっても俯いてるせいで前髪で隠れて表情がよくわからない。
しかし羽織はもういただいた。あとはせっせと退散するだけなんだから。
「は…羽織はもらった!それじゃ乙鬼サマ……さらば!」
黙ったままただこっちに向かってゆっくり歩いて来るのから逃れるように、一方的に立ち去ろうとする。
幸い背後に戸があるので、回れ右をして外に一歩足を出したとき。
突然瞬間移動をした彼が、自分の目の前にいた。
「うひゃ!?」
後ろにいたはずじゃ…!と頭が考える前に、体はそのまま目の前に突然現れた乙鬼サマに突進した。
ボスッという音とともに彼の胸元に顔が触れた瞬間、驚いて後ろにすぐに下がるが、うまく足を運べずお尻から崩れ落ちた。
「いったあ……。足捻…」
足、捻った。と言い終わる前に、目の前にいた乙鬼サマまでもが、こちらに倒れてくる。
彼もバランス崩したのかと思いきや、そのまま体制を崩している私に、覆いかぶさってきた。
「へっ……ちょ!」
肩を押されて押し倒されてしまい、そのまま床に倒れこむと、自分の顔の両脇に手がおかれた。いったい何が起きたんだと視界いっぱいに天井が広がっているであろう正面に向き直ると、そこには乙鬼サマが視界いっぱい。どんどん顔が近づいてくる。
何これ何この状況!というかあのストーカー発言でこの反応って、引かれてるわけじゃないの!?キモくないの?まんざらでもない!?
「ぎゃあああすみませんすみません!!お許しを!!」
ぎゅっと目を瞑って叫ぶが、とくに何もおきない。そのかわり、うなじに顔を埋めて、チクリと痛みがあった。
「……っ!!」
「………。」
顔がみるみるうちに熱くなるのを感じた。今度は私が固まってしまい体が動かせない。
すると彼は、顔を埋めたまま何やらスンスンと匂いを嗅いでいるようだ。
え、もしかして匂いの嗅ぎあい!?で私のも嗅いでるの!?え、どうしよう髪匂ったらどうしよう…。
そんなことを考えていると、ボソリと「やはりな……。」と呟いたのが聞こえた。
え、何がやはり?匂ったから、やはり!?じゃあなんで噛んだし!!痕残るじゃん!!
「い、乙鬼サマ…?」
なかなか圧し掛かられてそろそろ潰れそうです、なんて言う空気じゃないので、静かに呼んでみる。すると、ゴロンと私から退いて隣に肘をついてこちらを見てくる。どことなく不敵な笑みを浮かべている。
「匂いを嗅いで眠りたいんだろう?存分に嗅げ。」
「……!!」
ビクっと肩を震わせると、彼は楽しそうに私の腰に手を回して抱き寄せた。胸板が顔の目の前にある。確かにこれなら存分に嗅げる。うん。
私の手には未だしっかりと持っている彼の羽織。これ奪い返さないのかな。
てかこれですやすや眠れるわけないし。おそるおそる彼の表情を見上げると、既に彼は目を瞑っていた。
またか!もう寝てるなんて思わない。目瞑ってるだけでしょもう。だって、私を抱き寄せる手がこんなにも力強いんだから。
「はあ……。」
自分を落ち着かせるためと、いろいろ疲れたので大きく息を吐いた。どうせこれじゃ逃げれないだろう。
もう寝るしかない。こうなったら存分に嗅いでドン引きされてやる。
そう決意した私は、自分の顔を彼の胸板にグリグリと押し付けて眠ってやった。
「……はぁ……。」
私がスースーと音を立てて眠り始めたころ、静かにため息をついた乙鬼サマに気づくこともなく、私はすやすやと眠りについた。




