瞳
あれからすぐに朝が来て、学校もなくすることもないので森の中にエネルギーの補給もとい、私にとって命の源ともいえる木へと向かう。
行きは大きな桜の木の一部が見えているので、なんとか一人でも行けるが、帰りは全く分からず迷子になる。
しかし、またしても便利なことに、白蛇は私の気配を察知して森に侵入したら、どこからともなくやってくるマイヒーローだ。
ただ、一つ欠陥があるとすれば。
「もおぉおお!!何度言ったら分かるのおお!?」
帰り道へと引っ張っていってくれる場所が決まって戸が壊れたのが特徴的な空き巣だからだ。
もう何度、帰り道といったら、森の出口だ。と言ったものかと、ぷんすか怒って考えてみたらまだ一回しか教えてなかった。そりゃ分からなくて仕方ない。
白蛇をぶんぶん振り回していた手をピタリと止めて、目が回ってるのかゆらゆら揺れている白蛇を地面に置いた。
すると、瞬時に元気になったのかスルスルと昨日と同じく中に入って行ってしまった。
そうか、白蛇はきっと此処が気に入ったんだ。いやいや、それか元々ここが白蛇の……朱里の家とか?でもそれもちょっと違う気がする。
元々ここのある程度の妖怪達とは顔見知りのようだから、もちろんこの白蛇にもかつてはお世話になっていたのだろう。ということはつまり、帰ろうといって此処につれてこられるということは。
「此処、私の家かっ!!!!」
「俺の家だ。」
「うひゃ!?」
突然背後から独り言に対する返事が返ってきたことに体が弾けるように驚いてしまった。
え、いつから居た?今?全然気配がしなかった。
低い声の主の方へ、錆び付いたロボットのように首を向けると、そこには昨日見た赤い髪の男が元々戸があった場所(私が壊しました)に持たれ、ゆるく腕を組んで立っていた。
この人って確か長だよね。龍華サマは、乙鬼って叫んでたしそれが名前かな。
でも私は、この人と敵対する龍華サマと一緒にいたし、今の状況軽くやばくね?
もしや殺されるくね?
いやいや、でも昔は翠や葵と仲良かったってことは、普通にこの人とも知り合いだよね。何これややこしい。
そんな面倒なことをスッパリと考えるのをやめた私がする事といえば簡単だ。
「ごめんなさいませ!私を殺しても只今絶賛死亡中なので意味ないと思います!いやー!まさかここが長の家だとは知らず申し訳ないでした!!」
「……本当に翠に消されたのか。」
「えっ」
精一杯の命乞いをあっさりとスルーしてくれた長様。消されたとは記憶のことだろう。ゆっくり小さく頷くと、長はゆっくりと歩み寄り大きな手が私の左頬に触れた。
突然のことで、ビクっとしてしまうが、彼は気にしていない様子。おそるおそる顔を上げて目を合わせてみると、相変わらず無表情だが、真紅の相貌を細めて、懐かしむようにこちらを見つめていた。その表情はどこか色気があって見とれそうになってしまった。
「お前、あの時何故「龍」と共に居た?」
「龍って、龍華サマ?えっと話せば長いんだけど…。」
「話せ。」
そういうわけで、一通り龍華サマとの出会い…というより変な二匹の妖怪に献上品として連れてこられたせいで龍華サマに勝手に僕にされたと簡単に説明してみせた。
もちろん、この目の前の長を殺してこいなんて任務与えられたとか口が裂けてもいいません私。
「あ、えっと…そろそろ家帰っていいですか?おじいちゃんに黙って来たので怒られちゃう。」
「家…?そうか。なら帰れ。」
「……?あ、いいんだ!それではまた!!」
一瞬彼の間を不思議に思ったが、普通に家に帰っていいといわれたので、早く帰ることにした。
見送られることなく、家の中に戻って行ってしまったかと思えば、すぐに出てきて部屋の中で寛いで眠っていた白蛇を渡された。
ほ、方向音痴ってこと知ってるんだ。
たるたるになった白蛇を起こして、長に軽く会釈をしてから背を向けて歩き出す。後ろから足音がしないので、もしかしたら帰る姿を見てるのかな、と何となく気になってしまった。
そして無事森の外へと送ってもらい、おじいちゃんもまだ家にいなかったので、ふうっと息をついた。




