代わり
葵が再び戻ってくるのをただただぼうっとして待っている時、私はようやく此処に戻ってきた理由を思い出した。アキを捜しにきたのだ。それなのに妖怪と遊んで私は何をやっているのか。
しかし、おじいちゃんに耳が痛くなるほど聞かされた森の妖怪の恐ろしさとは全く違うような気がした。
単に葵がアホなだけなのか、そもそも怖かった森にこんなにも軽い気持ちで入り込める自分もすごい。
「おおッ!!こんな所に最高の獲物がいるぞ。龍華様への献上品としようぞ。」
「うほぉ……こんな所にでも来てみるもんだなぁ。」
木々が生い茂る中でどこからかモゾモゾと声がした。奴らはボソボソと話すつもりがないのか野太く重々しい声と、もうひとつ軽く低いトーンで話す者で、何やら恐ろしい話をしている。
辺りをキョロキョロしてみるが何もいない。声のする方向はどこからだったかと問われると、特定の場所から聞こえたものではなく、周りを高速で飛び回っているかのように辺り全体から聞こえてきた。
そもそも奴らはいったい何を「最高の獲物」だと言ったのか。周りには誰もいない。そう、何もないのだ。
おいしそうな虫でも見つけたのだろうか。ダンゴムシでもいたのだろうか。そうも思ったが、不気味な笑い方にどことなく寒気を感じ、足が勝手に後ずさる。背後にも注意しながら、周りをくまなく目で探る。
一本の木の幹を背にして隠れるようにすると、途端に笑い声が止んだ。冷たい風が葉を揺らす。ざわざわとした音は、自分自身の胸騒ぎの音にも聞こえた。
すると、木からバサバサと何かが落ちてきた。
「なあぁ、来てくれるよなぁ?」
否、性格には着地することはなく木の枝にぶら下がって「奴」は現れた。それも視界全体を覆うほど目の前に、一つしかない大きな目玉をギョロギョロと動かしながら、嗤っていた。
巳弥はすぐに後退し逃げようと一歩を踏み出したとき、すぐにそれを阻むように
巳弥が、背にしていた幹からもう一人が現れた。
「!!!」
しっかりと警戒していたはずなのに、風の音で聞こえなかったのか完全に挟み撃ちにされてしまい、その立ち止まる一瞬の隙が仇となりあっさりと捕らえられてしまった。
声が聞こえてきたときにすぐに逃げるべきだったのか。きっと見つかったときから既に逃げられなかっただろうと思った。
「ちょっ何!?離せっ!!」
抵抗むなしく、人一人入れる真っ黒な入れ物に乱雑に放り込まれ、ぐるぐる巻きにされてしまった。そのまま激しい揺れの中、浮遊感を感じながら外に出るために中で暴れまくってはみたがどうすることも出来なかった。
不安定で真っ暗で何も見えず、突然落とされる可能性もある。突然の衝撃にも対応できるように頭を抱えながら、どうにかして出る方法を考えてはいたものの、目的地は案外近かったようで、荒々しく地面に放り投げられた。
体中に痛みが走るが、頭を守っておいて良かった。外からは、妖怪の一匹が献上品は丁寧に扱えと、片方に注意していた。
「おらよ、出てきな。」
真っ暗な中に光りが入り込む。そこからすぐに顔を出して逃げ出そうとしたが、予測されていたのですぐに取り押さえられてしまう。
「龍華様、献上したい物がございます。」
一つ目玉の妖怪が巳弥にのしかかり逃げられないようにし、もう一人全身が真っ青で、切れ長の垂れた目をした妖怪が、その先に優雅に寛いで座っている女性に跪いた。
この二匹は、あの女の僕だと予想でき、声に気づいた女はこちらをじっとりと凝視した。




