動作停止
まさか乙鬼が迎えに来るなんて。たまに探しにくるし、予想しなかったわけではないけどあんな喧嘩みたいなことしておいて、迎えにくるとは思わなかった。
妖怪は鼻が効くから、この辺りにいることに違和感を覚えたんだろうけど。他の妖怪にバレたほうがまだマシだったかもしれない。
あー、頭がぼうっとする。なんでこんなことになったんだろ。
気でも失ってくれれば楽なのに、と視界が滲んでくる度に突如として襲ってくるえぐるような痛みに意識が引き戻される。
「巳弥ぁ!!」
雪乃ちゃんが駆け寄ってくる。地面にうつ伏せに倒れているという感覚がなくなるほど麻痺を起こしていた。ピントが全く合わない映像のようにぼやけていて、自分をゆさゆさと揺らす彼女の顔はよく見えなかった。
揺すられている感覚はなくても視界が激しくぶれて、吐き気を覚えて、揺すらないでと伝えたくても嗚咽しか出てこないのでされるがままになっていた。
せっかく乙鬼の意識が自分に向いているのに、その間に雪乃ちゃんは逃げれたかもしれない。でも乙鬼のことだから逃がさないと思うけど。
雪乃ちゃんは現代において伝説の中心となった女性。その運命を変えるためにこの森に来たのに、結局彼女は此処に現れた。
でも伝説そのものは変えられた。村が全滅したり、後に呼べれるその名のとおり炎滅の森が全焼するという心配はない。
でも、今は彼女を助けなくてはならない。といっても、この状況でそんなこと出来るわけもなく横たわっているわけだが。
「―――――お前は消えろ。」
「ッあ…!!」
私に駆け寄って必死に名前を呼んでいた彼女が、乙鬼が声を発した直後、突然短い悲鳴を上げて視界から消えてしまった。
「雪、ちゃ…」
手探りで地や宙を彷徨わせてみるが、空を切るのみ。視界は、真っ暗になったり真っ白になったり、瞬間的に見えるようになったりと使い物にならない。
途切れ途切れに雪乃ちゃんの苦しそうな声が、聞こえてくるだけ。しかし、一瞬だけ、乙鬼が彼女の首を掴みあげているのを捕らえることができた。
手を伸ばせば届く所にいたことに驚いたが、触覚が感じなかったから、手を彷徨わせても分からなかったらしい。
でも今度はちゃんと掴んだ。感覚は相変わらずないが、乙鬼の足首を力の限り握った。
「雪乃ちゃんを……離、して」
やっとの思い出掴んだ足首だけど、そのまま蹴り飛ばされるかと思っていた巳弥にとっては予想外のことだった。
「―――――――雪乃…?」
「「 ? 」」
乙鬼が、私の言葉に反応した。なぜなのか聞き返したかったのに、首に鈍い衝撃が走り、そこからの記憶はない。




