厄介な事情
「おーい巳弥。飯持ってきた……って乙鬼様。あいつどこいったんです?」
暗くなったのにあいつが戻ってこないのは今に始まったことじゃない。どうせその辺ほっつき歩いているか桜の木でぐーすか居眠りとか、まあだいたいいつも通りだ。
壊れた戸を開けると、珍しく乙鬼が中にいた。たいていはもぬけの殻なんだが。
「葵、探してこい。」
「……わかりました。」
そしていつもの如く巳弥を探しに行くわけだ。おとなしく家の中で過ごすという思考は存在しない残念なあいつの頭を厄介に思いながら、食糧だけ置いて乙鬼の家をあとにした。
何も考えずにとりあえずいつもあいつがいる桜の木に行ってみた。どこかほっつき歩いて迷子になってもこの桜の木がある限り、あいつはここに来て迎えを待っている。
陽が短いこの時期はそもそも寒いだの眠いだのであまり外には出ないのにいったい何をしてるんだ。
食糧を持って戸を開ける直前、妙に乙鬼様の殺気がした。中にいるのはだいたい予想はしていたが、巳弥がいない。
会合でたくさん暴れてイライラしているのは分かっていたが、まだ機嫌が悪かったとは。毎回妖怪を招集しては血が流れてお開きになる。乙鬼様の期限が悪いのはだいたいその日だけだが、相変わらず、というより悪化していた。
巳弥と何かあったと考えるのが一番てっとり早い。
「ん?いねえ……?」
いつもいびきをかいて眠りこける巳弥の姿はどこにもなかった。本当にどこへ行ってしまったのか。
巳弥の行く場所はだいたい決まっていたが、そこにいないとなると何か妖怪に襲われたと考えるほかない。
すぐに乙鬼様に知らせなければ。
でもその前に、森の中にいるのなら匂いで追うことはできる。クンクンと辺りの嗅いを感じ取ると、下り道からかすかに人間もとい、巳弥の匂いがした。
―――血の匂いは其処彼処に充満してるが、新しい血の匂いはねえな。
すぐに乙鬼のもとへ戻り、状況を説明した。
「乙鬼様、桜の木には居りませんでした。ただ、ここより少し下りた位置にあいつの匂いがあります。血の匂いは感じないので何か危険に巻き込まれたわけではなさそうです。行って様子を見てきます。」
……ったく、あいつ何してんだ。確かあそこは一本道のはず……。
「つまり、……村への、抜け道にいるということか」
「……そうですね。」
いやどうせそのあたりで寝心地のいい場所見つけたとかその辺だろ。あいつのことだから、低級くらいなら倒せるような気がするが……。
だいたいいつも通りのことなのに、乙鬼様の殺気はより強くなっていくばかりで、もう巳弥が原因としか思えねえ。見つかったら半殺しにされるんじゃないだろうか。いやそれはないけどな。
「葵、お前はもう下がっていい。」
「はい、じゃああいつは……。」
「俺が行く。」
「……そうですか。」
では、と跪いて乙鬼が飛び去るのを待った。
巳弥が来てからは、少しゆるくなった気もしたが今は昔の乙鬼様に戻ったみてえだな。たいして差はないが雰囲気的なものは全然違った。
どうせただの喧嘩だろ。さっさと仲戻してまたうるさく過ごせばいい。
それくらいにしか、思っていなかった。




